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月明かりとカタルシス
数年前 ”なろう”(小説家になろう)という小説投稿サイトに熱心に短編小説を投稿していた時期がありました。
その当時プライベートがごたついていて、けれど相談したり愚痴を拾い集めてくれる相手もおらず、かといってそれらを自身の内だけで受け止めきれずに短編小説の執筆という逃げ道を作りそこに気持ちをあてがっていた。
そうすることで、日々たまり続ける心の澱を排泄するという目的と、目の前の現実問題から目を逸らすという2つの役割が全う出来ていた。
それでも追いつかないぐらいで帰宅中脇道の茂みに穴を掘ってどうにもならない鬱積を大声で叫び出したい衝動を抑えつけていた。
そんなもんだからそれらを受け止める執筆という行為は毎日驚くペースで進んでゆき、大体1ヶ月に3本ぐらいのペースで短編を書き上げていた。
それはさながら雨乞のような儀式めいた祈りの連続だったようにも思う。
地下アイドルのライブレポを書く際に、あーでもないこーでもないと1万文字にも満たない記事に1週間も2週間も費やしている今とは天と地ほどのスピード感の差がある。
自分でも本当に同一人物なのか?と思うほどあの頃は筆が進んだし、顛倒したモチベーションだったなとも思う。
ややもすれば、日に日に底にたまり続ける澱が心のコップの上澄みに残っている良心や心の襞で吸収した栄養を押し流してしまいそうになっていたから。
◇
先日散歩をしているときにその頃の事を何気なく振り返りながら歩いていて、そういえば”なろう”のサイトに全然アクセスしていないなという事に気がついた。
帰宅して”なろう”(小説家になろう)のサイトにアクセスしてみた。
そこには当時投稿した短編小説が数本公開されたままになっていたのと、下書きにも数本の小説が残されているのが目に止まった。
短編のプロットが数本と、未投稿のままでエピローグが書きかけの長編小説が1つ僕の帰りをじっと待っていた。
そのなかで短編の書きかけのプロットに目が留まった。
タイトル:ネバーランド
僕:しがないサラリーマン
同僚にたまたま連れていかれた現場で、キミと出会う
キミ:大学に通う為に東京に上京。在学しながら地下アイドル活動をしている5人組のグループ、主に東京の地下現場を主現場として活動。
結成2年目。
メンバー:
赤:リーダー、メインボーカル
青:ビジュアル担当、おっとり系
緑:ダンスが得意、はつらつ女子
黄:僕が推すことになる女の子
白:作詞担当、独特の世界観の持ち主。
推すということ、人を好きになるということ、自分の願いを他人に乗せたり託すこと、夢を叶えるということ。
あの当時書いたままのプロットを今再構築してこの小説を仕上げる自信は無いし、それをしてしまったらあの時の自分が霧散してしまうんじゃないかっていう怖れ、寂しさ。
時が経ち肉体は地続きなんだけれど、こころのケーブルは繋がったままのものもあるけれど、寸断されたり交換されてしまったものが多い。
だからこの「ネバーランド」を今あらためて書いたとしても絶対に当時の「ネバーランド」にはならないという諦めもある。
いずれにしてもこの小説のタイトルとプロットを見るかぎり、少なくとも推しの事を考えながらプロットを書いていたんだなーと容易に想像でき、当時の自分がいじらしくも思う。
あの日とうてい月明かりの届かない真っ暗な部屋で月に手を伸ばそうともがきながら書き続けた。そして今も変わらずキミのことを推し続けている。これからもきっと。
月明かりとカタルシス
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