【アイデアノート改】第2話 コールセンター
晴男はいつものように会社に行った。
パソコンの前にずっと座っている地味な仕事だ。晴男のパソコンのデスクトップには、あるフォルダが置いてある。そのフォルダの名前は「アイデア箱」。仕事の合間にそのフォルダを開く。
〇年〇月〇日メモというテキストがずらーっと並んでいる。今日も9月26日のテキストを作成し、なにやら書き出した。
ー人が困っていること
ー解消されると便利な事
ー 病院の待ち時間
ー 予約制になってきたが、まだ待ち時間がある
ー お年寄りは、ネットを使いこなせない
晴男は考え込んでいた。まるで、真剣に仕事をしているようにも見える。仕事をさっさと終わらせ、自分のアイデアをまとめることに夢中だ。
晴男はしばらくすると、ハッとした顔で、キーボードを打ち出す。テキスト文書に書かれたのは、
ー病院案内コールセンター
すぐさま、チャットを立ち上げる。
「ちょっと、いいですか?」
「なに?」
「病院案内コールセンタープロジェクトをやろうよ」
「え?なに?忙しいんだけど」
「病院って混んでるじゃん!そこで、市内の病院の混みあい状況をネットで把握して、コールセンターで、ここが今空いてますよ、待ち時間は何分ですよと伝えて、予約を取ってくれるシステム」
「・・・」
「さらに言うと、病状によって、何病院の何科がいいですねって、おすすめする」
「あのなぁ、まず、市内の病院の混み合い状況を把握するには、各病院に今何人患者がいるか、予約が何人かという情報を入力してもらわなくてはならない。それに、大きな病院ではそんなシステムを導入する手立てがない。」
「・・・」
「それと、コールセンター。何人の人を養わなければならない?それに医療の専門知識があるといったらもう大変だ。どっちかっていうと、そのコールセンターへの繋がり具合の方が混み合うぞ。」
「・・・」
「それに、人の命がかかってるんだ。曖昧な案内はできないぞ。それこそ責任もんだ。」
「そうかぁ、ちょっと考える」
晴れ男はチャットを閉じる。そして、テキストにこう書く。
ー医療は難しい
ー居酒屋コールセンターならどうだろうか
ー 後日考える
医療に責任問題が生じるなら、居酒屋ではどうか。敷居も下がるのではないかと考える晴男。どの業界にも責任は生じる。そこで、医療の問題をどうするかという根本を考えるのではなく、次の手段は何かと考える。しかし、これには理由もあった。一人でできること、自分の責任範疇の中で事業を起こす。失敗したら自分がそのダメージを受けるだけ。そんな思いで考えていた。しかし実際は何かしら他人に迷惑をかける。彼はまだそれに気づいていなかった。
サラリーマンである晴男には、仕方のないことなのかもしれない。誰もが口で簡単にアイデアを言うが、それに責任を持つ人はいない。また、他人がやっていることに批判を言う。それであたかも自分も同じステージにいるという錯覚。それは常人が持つ当たり前の感覚だ。
でもまあまず、天田をコールセンターのように使っている晴男の態度を改める方が先かもしれない。天田にも都合がある。いくら友達でも頼りすぎの限度がある。晴男にはそんな感覚は全くなかった。