【アイデアノート改】第14話 咲子からの電話
あれからどれくらい経っただろう。
晴男は普通の日常を送っていた。
アイデアノートやアイデア箱フォルダは捨てられていた。天田との連絡もとってなかった。
ある雨の日、会社から帰ってきて、いつものようにご飯を食べていると、携帯が鳴った。咲子からだった。
「もしもし」
「お久しぶりです、咲子です」
「あの男、また出てきました?」
「いえ、そうではないんです」
咲子の話によると、あの一件の後、天田が訪ねてきて、同じことが起きないように色々と相談に乗ってくれたということだった。
初めは、センサーライトの設置、監視カメラの設置をさせて下さいと言うので、いやいやそれはいいですと断った。実は、咲子は実家が近いので帰るつもりだったらしい。その旨を伝えると、引っ越しの段取りから費用まで天田がすべて仕切ってくれたという。
そのお礼がしたかったが、天田はかたくなに断った。それで晴男に、お礼の品を天田に渡してほしいとの事だった。
「そ、そうなんですか・・・」
「本当は直接お礼がしたかったんですけど・・・」
「いえいえ、こちらこそ私の不備のせいで何と言っていいやら」
天田とは連絡をとってないとは言えなかった。咲子は、晴男のところにお礼に来るというので、晴男はその気持ちだけ天田に伝えておきますと言った。咲子は、何回もお礼を言い、電話を切った。
さて、天田に連絡しなければ・・・でもなんといえばいいんだろう。というか、天田はそこまでしていてくれたのか。なんて自分は小さいんだろうと実感した。そんな矢先だった。携帯が鳴る。今度は天田からだ。
晴男は、慌てて携帯をとった。頭の中はパニックだ。
「は、はい・・」
「おお、もう家か?」
「そうです」
「ちょっと、仕事が間にあわねぇんだ。おまえ副業して手伝ってくれない?」
「え?ええと・・・大丈夫だと思う」
「詳細は後日。会社にはばれないようにするから、よろしく」
「はい!」
晴男は、天田に咲子の事を言えずに電話を切られてしまった。
先日のことは何もなかったかのように、あっけらかんと仕事を頼む天田。
それをどこか嬉しさを感じながら聞いている晴男。自分のやったことが解消されたわけではない。ただ、少し前進したことを感じる晴男であった。
とにかく地道に仕事をして、天田の力にならなければという思いだった。天田にもこの仕事を晴男に頼んだ意図があった。そう、この天田と一緒にやるプロジェクトが、また晴男を変えていく。