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心不全緩和ケアの障壁は何か

ありがたいことに全国で開催されている心不全緩和ケアの勉強会で講演する機会を頂いている。それだけ心不全の緩和ケアに対する関心が高まっていると同時に、その不透明性・不確実さ・曖昧さを前にどう取り組んでよいものかわからないという背景がありそうだ。

最初の講演から早くも2年が経とうとしている。先日は富山での緩和ケアセミナーで講演の場を頂いた。参加された方は循環器と緩和ケアで半々、医師と看護師が半々と演者にしてみればどこをFocusしていいものか悩ましいものであった。なので大枠について話しつつ、反応を見ながら各論を話すといういつもの雰囲気で臨んだ。

今回の富山が他の講演会場と違ったのは、心不全緩和ケアをすでに実践し、障壁を感じているという方が何人もいらっしゃった。「とりあえず心不全緩和ケアはよくわかんないから聴いてみよう」という雰囲気ではない。自分に求められているものがかなり高いものであることがわかった。

私の講演の前に行われた富山赤十字病院 北川先生のご講演ではすでに心不全の緩和ケア提供体制が構築されており、カンファレンスの内容も度々blush upされていることが感じ取られた。大変失礼な話だが、Webサイトで拝見した姿はバリバリの戦闘型循環器内科医という印象だったので、その柔らかな物腰、物言いと謙虚な姿勢をみて驚いた。

これはいけないとスライドを改変しつつ、なんとか講演は勢いで終わった。

講演会終了後に参加された方からこんな質問を頂いた。

「自分は250床の病院で働いている循環器内科医だが、どうチームを作ればいいのか」

それに対してのわたしの解答は「地道に退院前カンファや院内のカンファなどで顔の見える関係を作りながらその地域・病院にあった提供体制をつくるしかないです」という、改めて見るとよそよそしく理想論を語っているに過ぎなかった。

心不全緩和ケアは確実に進んでいる。概念を理解し、実践し、障壁にあたっている人が増えてきている。これは大変喜ばしいことだが、学会などでコンテンツを作成し普及啓発に務める立場からすると、更に気を引き締めなければならないことを感じた。

心不全緩和ケアの障壁とは一体どのようなものか。

・ 医療者間/患者との概念共有

・ 実践の時間確保や多職種共同の困難さ

・ 診療報酬(現在、心不全緩和ケアを支援する診療加算は無い)

・ 身体精神的な疲弊、無力感

などだろうか。

身体的・精神的疲労と書いたが、これが一番の実践困難な要因になっていることも多い。循環器従事者はいつ急変してもおかしくないという急性期野戦病院的な緊張感のある立場に常に置かれてしまう。業務の90%をそういった急性期の立場に置きながら、時々気持ちを切り替えて緩和的アプローチを行うのはそう簡単なことではない。多職種共同の実践や概念共有・醸成のための時間も作りにくい。

病院型心不全緩和ケアのパイオニアは、国立循環器病センターや姫路循環器病センター、久留米大学病院のように規模が大きく教育・公立機関が多い。飯塚病院をそこに並べるのはおこがましいが、病院規模的には同等である。

そういった巨大施設はマンパワーもあり、コストセンター的な意味合いをもつ緩和ケアなどの部門設置にも配慮されやすい。かつ、時間的・人員的リソースも少なくはない。地域からそういった機能を求められているというものも大きいだろう。実際に当院のハートサポートチームはデスカンファレンスや回診を行っているがそこに加算はほとんど無く、時々緩和ケア診療加算を算定しているだけだ。

ただ、より規模の小さい病院だとすればどうだろうか。そういった金銭的な意味で利益を産まない横断的チームの設置は、私が経営者ならなかなかGoサインを出しにくいところだ。それぞれの職種に求められている役割も大きく、批判を恐れず言うなら「たくさん手術をして、病床回転率をあげてほしい」というのが本音だろう。もちろん病院は利益を目指す組織ではないが、潰れてしまっては元も子もない。

私達の行っている横断的チーム型の心不全緩和ケア提供・普及・啓発は大型病院にFit in した形になっており、中小規模病院ではまた違った形の心不全緩和ケア提供体制が必要だろう。


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