万年筆回顧録『羽毛のタッチ』第一回
一、至高の筆記具・万年筆
万年筆のことを書こうと思う。
僕は、今では万年筆を30本以上所有している。万年筆歴は32年だ。マニアとまではいかないまでも、万年筆について人に語れるぐらいの知識は持ち合わせているつもりだ(文房具全般については、マニアを名乗ってもいいかもしれない)。
正直なところ、僕の身近な人たちの中に、万年筆を愛用している人は一人もいない。僕から受けた影響によって、万年筆を使い始める人も何人かはいた。が、みんなすぐに飽きてボールペンに戻っていった。
まぁ、その人達が試したのは、鉄ペン(ペン先の素材が鉄)の万年筆であって、金ペン(ペン先の素材が合金もしくは純金)ではなかったから、厳密に言えば万年筆を試したとは言えないかもしれない。鉄と金とでは書き心地が天と地ほども違うのだから。
――この、金ペンの書き心地こそが、僕が頑なに万年筆を使い続ける理由の大部分を占めている。その他の要因も色々あるけれど、具体的な説明は追々していこうと思う。
僕の記念すべき一本目の万年筆は、中学2年(14歳)のときに母親にねだって買ってもらった「SAILOR プロフィットスタンダード(1980年代)細字」だ。当時の『モノ・マガジン』の万年筆特集を読んで猛烈に欲しくなったのだ。
本当は、当時夢中だった司馬遼太郎が愛用しているPARKERのデュオフォールドが欲しかった。しかし、デュオフォールドといえばPARKERのフラッグシップモデルであり、1本10万円以上もするような超高級品だったので、当時の僕に買える訳がなかった。僕にとっては、1本1万円のSAILORプロフィットスタンダードでも十分過ぎるほどの贅沢品だった。
なぜ、SAILORのプロフィットスタンダードを1本目に選んだかといえば、僕の地元の文具店ではPARKER万年筆の在庫がなかったことと、母親の認識(国産万年筆と言えばSAILOR)に依るところが大きかった。
SAILORプロフィットスタンダードを入手した僕は、学校の授業のノートを万年筆でとるようになった(当時はまだインクについての知識がなかったので、カートリッジ式の純正ブラックインクを何の気無しに使用していた)。その後、高校~大学と、プロフィットスタンダードと共に歩んだ僕が、二本目の万年筆を入手したのは、社会人になってから――恐らく2004~2005年頃――だった。自分へのご褒美として、子供の頃から憧れていたPARKER万年筆を一本所有しよう、と思い立ったのが購入の動機だったと記憶している。
しかし、いきなりデュオフォールドを買った訳ではない。つつましく一万円台のソネット(ラックブラックST/Fニブ)を地元の文具店で購入した。廉価版とはいえ、夢にまで見たPARKERの矢羽型クリップである。
ソネットを購入する際、「せっかくだから、ついでに――」とPelikanのスーベレーンM400を店頭で試し書きさせてもらった。まさにその出来事が、万年筆(とインク)沼にどっぷりとハマるきっかけになろうとは、その時夢にも思わなかった。
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