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緊張は悪か?④
今、世界中が大変なことになっています。みなさん、コロナウィルス対策は万全でしょうか?こういう時こそ国や人種、思想や宗教を越えて、人類が一つになって、コロナに勝たなくてはなりません!1人でも多くの人が自覚を持って行動をとる、その数が増えれば増えるほど、終息は近づいてくるはずです。みんなで頑張りましょう!
さて前回の投稿まで、緊張について、3回に渡ってお伝えさせて頂きました。内容としてはまず、緊張はむしろした方が良いこと。しかし、過緊張はパフォーマンスを低下させるということ。そして、その対処法として、普段から「臨場感」を持った練習で慣れておくことにより本番では適度な緊張で済むということをお伝えさせてもらいました。
今回はその中でも私が実際に用いたさらに「臨場感」を高めるための練習方法をご紹介します。
私が立教大学のコーチをしている時の話ですが、リーグ戦が近づいてくるとよりリアルな「臨場感」を持ってもらうために「聴覚」にも働きかけていたのです。
それは、次の週に例えば対戦相手が早稲田ならバッティング練習中は、立教大学の応援団が攻撃中に演奏し歌う音楽を流し、ピッチング練習や守備練習をするときは、早稲田の攻撃中に流れる応援歌を流し、より臨場感を持って緊張を味わってもらいました。
「視覚」情報は、当たり前ですが、見なければ入ってきませんが、「聴覚」情報の方は、聞かないと思っていても、よほど集中していない限り入ってきます。
また、聴覚を意識する練習は臨場感を持ってもらうという意味合いだけには留まりません。例えば、誰かと喋っているときに、周りに大きな音が鳴ると会話は聞こえにくくなり、つい大声になりますよね?実はいつもより大声を出すということ自体が身体に余計な力を入れてしまうことになるのです。
そして練習中に観客はいません。聞こえるのは自チームの選手の声だけです。しかし、実際の公式戦はどうでしょうか?相手チームの声だけではなく、観声、応援団の声が混在し、時に大声援が鳴り響きます。
特に東京六大学は観客がスタンドを埋めます。そんな環境下では選手に対する指示や、連係の確認、励まそうとする声は、当然聞こえにくくなります。結果、普段より大きな声を出し、そのことだけで身体に余計な力が入ってしまい、過緊張に繋がってしまうのです。
と、いうことで聴覚を意識させる練習は、臨場感を持たせることと、普段から大きな声で伝えることに慣れるという狙いもあるのです。是非、実際の練習にスタンドの音、応援団の音を録音し、試合が近づいてくると練習中に流すということも試してみてください。
さて、次に、試合当日に適度な緊張(ゾーン)を保つための方法をお伝えします。
まずは以前ウォーミングアップその③でご紹介した「パルス(心拍数)リハーサル」です。緊張によって心拍数が上がるのを防ぐため、試合直前のウォーミングアップ終盤で全力ダッシュ、もしくはその場駆け足で心拍数を上げておく、という作業です。あくまで、心拍数を上げるリハーサルなので、このことで疲労してしまうのは本末転倒だというお話もしました。
その次のステップとして、ここで一度高めた心拍数を下げていきます。もう多くの人が知っていると思うのですが、鼻から息を3秒ほど吸い、口を少しすぼめ、吸った時の倍、6秒ほどかけて息を吐き出します。よく胸式、腹式と言われていますが、この辺はあまり気にせず、自分のやりやすい方法で1~2分行ってください。これは試合中、過緊張していると感じたらその都度行います。
これは「システマブリージング」といい、旧ソビエトの古武術から生まれたものです。このシステマブリージング中に大事なのは、緊張をしてはいけないと考えるのではなく、何かに集中しようとすることです。何でも良いのですが、例えば呼吸をしながら、 「スコアボードの時計の12時に集中しょう」と12という数字をしっかり見る事に集中しながら行います。試合前には、不安や余計なことを考えがちですが、このことにより、心拍数が安定していく、すなわち精神も安定していきます。また雑念を振り払えます。
ここまではゲーム前に行うものですが、次はゲーム中、過緊張に陥った時の対処法を紹介します。前回、過緊張になると力が入り過ぎると述べました。そして、多くの人は力を抜こう抜こうとします。ところがこの方法では、実際はあまり抜けていないことが多いようです。
みなさんは朝、起きた時、伸びをしたことはあると思います。全身に力を入れて手足を伸ばしますよね。なぜ人はそれをするかというと、リラックスするためなのです。一度全身を硬直させるとその直後に大きな脱力感があり、それが気持ち良いのです。
つまり、力を抜こう抜こうとするよりも一度逆に力を入れる事によって、その後にリラックスが生まれるという事です。緊張し過ぎていると感じれば、このように一度全身に力を入れてから脱力すると効果的です。また過緊張状態では僧帽筋に力が入ることもお伝えしました。なので両肩を思いっきり両耳に近づけて、僧帽筋に力を入れて、そして、鼻から息を吸い、口から吐く時に力を抜くといいでしょう。これを何回か繰り返すと効果があるはずです。これもその都度行うとよいでしょう。
私の古くからの友人でもある、元MLB投手長谷川滋利氏(エンゼルス他)は、「自分がメジャーでやれているのは、ウエイトトレーニングとメンタルトレーニングのおかげ」と常々言っていました。
曰く、「メンタルトレーニングは技術練習と同じで、日々こなしていれば身につきますよ」と。彼に過緊張の対処を尋ねてみると、普段からぼーっとリラックスしている時に必ず球場にあるスコアボードの国旗を見るように習慣づけていると言っていました。なぜスコアボードの国旗を見るかというと、彼の緊張する舞台は球場です。スコアボードのアメリカ国旗はどこの球場に行ってもあるからです。
ヒトは元来、遠視だったのですが、文化が進むにつれて、その生活形態から、近くを見ることが多くなっていきました。実際、みなさんは何も考えず、リラックスしている時に、近くのものを見ているでしょうか?ほとんどの人は遠くを見ているはずです。
元々遠視だったという特性から、人は近くを見ることがストレスになり、逆に遠くを見るとリラックスすると考えられます。巷では緑を見れば目にいいから、山や野原を見ろと言われていますが、緑と目の関係にはまだ確たるエビデンスはありません。ただ、山はだいたい遠くにありますから、そうして遠くを見ることで身体がリラックスし、身体に良いことは目にも良いと関連付けたのではないか、と思います。
長谷川氏に話を戻すと、彼は試合前のストレッチ中に天然芝の上に寝転がり、スコアボードの国旗を見るようにしていたそうです。ただ「ボー」としている時、リラックスしている時、ストレッチをして気持ちが良い時、いつも国旗を見る癖をつけていたそうです。
実際に彼は試合中マウンドで打たれた時、ストライクをボールと言われてカッカした時、あるいはその他の理由で過緊張を感じた時など、一度マウンドを少し離れて遠くにあるアメリカ国旗を見ながら、システマブリージングを実践しています。こうして、過緊張からゾーンに戻すのです。彼は、球場のアメリカ国旗を見ると落ち着くという自分を自ら習慣化させることで作り上げたのです。これは梅干しをよく食べる人が梅干しを見るだけで唾液が出ることと同じことです。
方法はいろいろあると思います。みなさんも、いつでも適度な緊張(ゾーン)の状態になって、自分の力を常に最大限、発揮できるようになれればいいですね!