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南北キプロス旅行記 day3 国連管理下の軍事境界線を越える

北キプロスはサラミス遺跡で突如として帰る手段を失う。しかしそこは特にへこたれないのが旅行中特有の謎の自信5億倍の僕である。諦めたら、そこで試合終了ですよ??

とりあえず心を落ち着けるため、遺跡に隣接している海水浴場へ。

一泳ぎしたいところたが、この日本の9月が吹雪に思えるような暑さでは茹でダコになって東地中海の水泡になるのがオチなので足をつける程度にする。

海水浴場。繁盛はしていない

すぅ~〜〜〜(深呼吸)どうしようかな〜〜

北側に目を向けると遠目にではあるがリゾートホテルが並んでいるので、本来ならあそこまで歩いてタクるでも良いのだが、あいにくホテル群はキプロス紛争の影響で何十年も前に全て廃墟となりそのままなのでタクシーなんているわけもない。噂じゃ廃墟ツアーもあるとかで、商魂逞しい限りだ。

そこで思い付く。

あれ?海の家の人に頼めばよくね?

ということでやたら高身長のガチガチムキムキ兄ちゃんにオレンジジュースの注文と引き換えにタクシー呼んでもらう。

奇跡のメーター制のため値段交渉しなくても良いし全く気の利く男である。なお運賃は200リラ。ぐえーーー。

ファマグスタ旧市街に帰還して宿から荷物を撤収させバスターミナル…はないのでバス会社のオフィスへ。やはり真昼の時間帯にバックパック担いで移動するのは前世で何をやらかしたんだレベルの苦行である。

ファマグスタ旧市街

宿泊したミステリーガーデンゲストハウスは、その名の通りオーナー自らが手掛けた美しい庭が敷地内にあり、あらゆる花の良い香りが漂っている(ただし蚊もいる)

中心部にも近くマダム方も非常にフレンドリーなので今後ファマグスタに行かれる方は是非検討してほしい。

15時にファマグスタ発のバス(セルビスかと思いきやマトモなやつだった)は1時間半ほどでキプロス島の内陸中心部に位置する首都ニコシアへ到着した。なおバスチケットはトルコ語表記のため、ファマグスタはマグサ、ニコシアはレフコシャとトルコ名で記載されている。そして運賃は50リラということでまさかのセルビスより安い。

ファマグスタ(マグサ)からニコシア(レフコシャ)までのバスチケット


さて、キプロスの首都はニコシアです!という話に対して、南北どちらの首都だ?という問いが出てくるのだが、このニコシアは北キプロスの首都であり、また南キプロスの首都でもある。つまり双方にとって首都ですら南北に分断されているのだ。こんなん南北朝鮮ですら起きてないぞ。

そもそも南北キプロスの境界線だが、一般の国境とはかなり異なる様相を呈している。グリーンラインやキプロスバリアとも呼ばれているこの境界線は、南北キプロスの紛争を受けて1974年に国際連合が引いた緩衝地帯であり、正式名称は「国際連合キプロス緩衝地帯」と言う。

全長300キロメートルに及ぶこの緩衝地帯だが、当然当事者となる南北キプロス双方に管理を任せるわけにもいかないので、そこは国際連合キプロス平和維持軍が行っている。

ではなんでそんな聞くだけだと物騒極まりない、ベルリンの壁もびっくりなこの街に来た方というと、話はここ数日のギルネやファマグスタの滞在中に遡る。

それぞれの都市のメインストリートの飲食店のメニューを見て僕はあることに気付いたのだ。

そう、ユーロ併記がされていることに。

北側の通貨はトルコリラで、かつ北側への入国はトルコからのみ。つまり本来ならユーロを使う場面は出てこないはずなのだ。

だがユーロ標記されてるということは、ユーロ圏である南キプロス側から人が入ってきているということになる。そして入るということは出ることもできるはずなのだ。

あれ、これ南キプロス側も行けるんじゃね?

閃き!アハ体験!

ファマグスタからのバスは円形の城塞跡となっているニコシア旧市街の北端に到着するので、下車してそのまま徒歩で南下し、いかにも中東な商店街を通り抜ける。するといきやり小さな検問所が見えてくる。あれが事実上の国境ゲートか。すぐ隣にはレストランがあるので違和感バリバリだが、たしかにここから人が出入りしているのが見えるので、現地人らしき人々の列に混ざり係官に聞いてみる。

南側に行ける??なんなら南側で泊まれる??

行けるで。なんなら泊まれるで。

完。行けるみたいです。

ニコシア(北側)の国境検問所横の商店街
北側の国境検問所

そのままパスポートをスキャンしてもらい、いざグリーンラインへ。長さ数十メートル、幅数メートルの細い一本の道がゴーストタウンと化した街の中を抜けて南側へと続いている。途中十字路が一箇所あるものの横道に逸れないようにしっかりと横はバリケードが築いてあり、ふと誰もいなくなった建物を見るとスプレーでこう落書きされていた。

ONE CYPRUS

……なんだかなぁ。。

無人の緩衝地帯にあった落書き「ONE CYPRUS」


1分ほどで南側のチェックポイントに到着。再度パスポートを見せると、ラルナカ(南側の国際空港)から入国したのか?のお問い合わせが。

なんだか嫌な予感がするがここは正直に行くしかない。あの………エルジャンですぅ。

………国籍は??

日本です……。

ここでなにかの冊子を取り出しペラペラと確認を始める係官。どうも国籍で入国可否が分かれているようである。

結果は、合格!

てなわけで53ヶ国目、キプロス共和国に入国!!!

南側の国境検問所

なお南北キプロス間の往来だが、パスポートスキャンされただけで荷物チェックは一切されなかった。どれだけでかいバックパック担いでようが、X線は勿論、触診も、口頭確認すらなしである。

南側に入ると先程までの中東の街の雰囲気は一変し、気付くとそこにはヨーロッパの街並みがあった。人種は白人になり、教会がそびえ立ち、ギリシャ文字が至る所に書かれている。あまりの変わりように瞬間転移でもした気分だ。終電を寝過ごして気付けば武蔵野線の奥地にまで連れて行かれた都内リーマンはこんな気持ちなのだろう。なお南側にあったニコシア旧市街の地図では、北側は「1974年以来トルコ占領下」と書かれているだけであった。

南側にあった地図


北側と比べて明らかに生活水準が上がっている半アーケード状の商店街を抜けて、これまた北側とは格が違うちゃんとしたバスターミナルへ。一番待たなくて良さそうだったキプロス島西端のパフォス行き17時チケットを購入…あれ、おっとそうだここはユーロ圏だった、と慌てて銀行でユーロを作る。

南側の国境検問所を抜けた先にあるリドラス通り
ニコシアから各地へのバス

なお南側の公共交通機関はまさかのマスク必須である。街中誰も付けてないのにここだけはご当地アイドルの如くマスクが幅を利かしているのだ。

地中海に沈んでく夕陽を眺めながら、2時間半の乗車を経てパフォスに到着。もう完全に地中海沿いのヨーロッパ、それも先進国側の雰囲気であるが、となると当然物価もヨーロッパになってしまうわけで。レストランのメニュー表を外から覗き込むと、不味そうなサラダでも2000円するというではないか。恐るべしユーロである。

地中海の夕陽

当然マトモな食事をいただく金銭的余裕があるはずもなく、晩飯はワッツアップなる地元のハンバーガーチェーン店で一番のウリであるワッツアップバーガーをテイクアウトし、宿で無心で頬張る。このバーガー単品でモンゴルでは絶品のちゃんこ鍋セットが食えたと思うと涙が出そうになる。やっぱいくら先進国でも飯をちゃんとしてくれないとねぇ、と物思いに耽っていると、遂にバーガーの神がキレたのか、手元にあるワッツアップバーガーが音を立てて崩れてしまった。机の上にベチャッと投げ出されるピクルス。これが人生か。


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