南北キプロス旅行記 day5 軍事境界線で分断された首都を歩く
リマソールからの所要時間は100分と聞いていたのに結局150分かけてニコシアに到着する。爆走してたはずなのになぜこうなってしまったのだ。これにて乗車したキプロスの主要バス路線は南北ともに全て遅延である。
一昨日は先を急いでいたこともあり、あまり散策できなかったニコシアであるが、最後にしてようやくこの街に宿泊するということで、早速北側の宿に荷物を置いて街歩きをしてみる。なお南から北への通過もなんなくできるし、国境は24時間フルオープンとのこと。
観光スポットとしてはかつては聖ソフィア大聖堂としてキプロス王家戴冠式も行われていた現セリミエモスクや、オスマン時代のキャラバンサライ跡であるビュユック・ハン等があるが、バスが遅延したせいでどこも既に閉業時間。かといって環状に街を取り囲んでいる城壁や稜堡を見ようにも、管理がほぼされておらず荒れたい放題という有様。紀元前からの歴史ある街にしてはなんとも残念な限りだ。
となるとやはり見るべきは世界でこの街でしか見られない首都の中を通っている軍事境界線ということになる。
元からあった街が分断されてしまったという経緯もあり、その境界線は非常に入り組んでおり複雑だ。
普通の住宅街にいきなり鉄条網やドラム缶等で築かれたバリケードが出現する地区もあれば、旧市街を取り囲む堀の部分にUNと書かれた国連平和維持軍の監視塔(ただし中には誰もいない。仕事しろ)が立っている地区もある。このようなバチバチしてそうな場所だと基本的に北側には北キプロス&トルコ国旗が、南側には南キプロス&ギリシャ国旗が靡いている。のび太とスネ夫がそれぞれドラえもんとジャイアンの虎の威を借りるようなものか。
ただしそれが全てというわけでなく、高低差があるような箇所は薄い一枚のフェンスだけで分けられている部分もあり、例えば石垣の上にある公園は北側、一方で公園のすぐ下にある道路や、石垣をそのまま壁代わりに使っている駐車場は南側といった具合である。
もうここまで来ると顔が見えるレベルの話ではなく、小学生でもボールを投げれば相手側の領域に届く距離である。
逆に言えば草野球で少し暴投するだけで一気に国際問題になれるチャンス。「おーい磯野ー!野球しようぜー!」と中島くんに誘われてもこの街ではホイホイと乗ってはならないのだ。
そこの君も、国際問題を引き起こして歴史に名を残してみないか?
このように割と距離感が近い場所もある南北であるが、経済力の差は結構歴然としている。
北側の夜は首都といえど早く、19時にもなれば飲食店や商店は閉まりだしてしまう。せっかく物価が高いユーロ圏から安い北側に逃げてきたのに飯が食えなきゃ意味がない。北キプロス全域で唯一見つけた日本料理店である「生き甲斐」なる寿司屋に行こうにも、日没後のこの街は街灯が少ないために非常に暗く散策には不向きオブ不向き。ニコシアに来る予定のある人は南側に宿を取ることを強く勧めたい。
その一方で南側はザ・ヨーロッパの繁華街なので陽キャのどんちゃん騒ぎがいつまでも続いている。この爆音ミュージックを毎日遠目に聞かされる北側の住民はどのような気持ちなのだろうか。
そして陰は陽を好むもの。僕も誘蛾灯に引かれる蛾の如く自然と脚がそちらに向いてしまう。ひもじいよぉ、腹減ったよぉ、と再度南側に入国。案の定こちらは超賑やか。夜はこれからだぜと言わんばかりにパリピ音楽が至る所で鳴り響いている。なんならヴィーガンの集団もいるではないか。
だがせっかく陽の都に入るものの、ユーロ圏のシャレオツレストランに僕の財布が耐えられるはずがない。僕が選んだキプロス最後の飯は天下のファストフードことマクドナルドの提供するチーズバーガーだった。
ちなみに北側にマクドナルドは存在しないが、バーガーキングは結構幅を利かしている(すぐ閉まるけど)
チーズバーガーを食べてすぐ北側に戻る。
世界広しといえど、マクド食うためだけに軍事境界線を越えたのは僕ぐらいだろう。
だが北側に戻った直後に次は土産物を買ってないことに気付く。キプロスの土産?ニコシアにあるっしょ!という甘えた考えが仇になってしまった。もちろん北側の土産物屋街は既に閉まってるので3分で南側にトンボ返り。南と北のお土産は基本的に似通ったもの、なんなら同じものも多いのでそこは安心である。てかそこは協調できるのね。
世界広しといえど、土産物買うためだけに軍事境界線を越えたのも僕ぐらいだろう。
だが三回目の越境となると、ただでさえ珍しい日本人が間髪入れずに再々度現れたということで尋問、もとい話し掛けられる。
あれ??また来たの???さっき通らなかった??
や、土産物買うの忘れたんよ。北側すぐ閉まるし。
あ〜〜なるほどね。
尋問終了
緩すぎるぞ南北境界線。
0200起床、というか寝れてない。
近所のご家庭からガキンチョのアギャ〜〜〜なる号泣音と、それに怒鳴るパパの声が延々と続いていたからである。DVはだめだよ?
今日はいよいよ帰国日ということでエルジャン空港に向かう。ニコシアからのシャトルバスの始発は0430と、この夜に弱い北キプロスにしてはなかなかに頑張っているが、生憎僕の便は0530なので間に合うはずもなく、泣く泣く30€もするぼったくりタクシーに課金する羽目に。
ニコシアからエルジャンへ向かうタクシーの速度メーターをみると針の先は90㌔とかなので意外と安全運転だ、と思うがどう考えても明らかに早い。ふとすぐ下のデジタル速度計を見ると130㌔となっていた。アナログとデジタルの速度計が合わないってどういうことだ。
そんなヤバげな車内(だが北キプロスのタクシーは基本ベンツである)からは、あの山肌に描かれたクソデカ北キプロス国旗がよく見える。
夜なのに見える。そう、こいつは光るのだ。なんならタダ光るだけでなくピッカピカに点滅している。
なるほど、北側は街を光らせる代わりに、この国旗を光らせるのか。
これなら南側から24時間ずっと見えるし安心だね。
なお流石にトルコ国旗の方は光らなかった。まぁ見た目ほぼ同じだし。
エルジャン空港は入国時はショボい空港だと思っていたのだが、いざ出国となりトランジットエリアに入ると清潔な免税店エリアがずらりと勢揃いしている。コンパクトだが無駄のないその配置や清潔具合は、少なくともバングラデシュやネパールよりも全然しっかりしているだろう。人口40万弱でトルコ国内としか繋がっていないことを考えると驚異的である。
0530に北キプロス・トルコ共和国のエルジャンを発ったペガサス航空機は、0700過ぎにイスタンブール空港に到着した。北キプロスとトルコは時差がないため、北キプロスでは太陽燦々だった時間でも、こちらは日の出直後といった感じでターミナルが朝焼けに煌めいていた。
それでは経由地イスタンブール、18時間のトランジット観光の開始である。
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