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山形の姥神をめぐる冒険 #25

千歳山大日堂参道  山形市平清水 2024年2月

 姥神が座る台座には、「帝大入学記念 昭和十六年四月 高橋豊吉」と刻まれている。その年、1941年は12月に日本の真珠湾攻撃によって本格的にアメリカとの戦争が始まった年だ。そんな時に帝国大学に入学した地域の秀才の名を刻んだ姥神像。入学記念に姥神とはどういう意味だろう?
疑問は尽きないが、ともかくもここに姥神はいる。
 能面の般若に似た顔をしている。ゴツゴツとした頬骨に裂けた口、痩せた身体、寄せられた眉根のしわ。般若は鬼女だから、死者の衣を剥ぎ取る奪衣婆の顔にいかにも相応しいと言えそうだが、今まで見てきた中で般若顔はここが初めてだ。どちらかと言うと丸っこい顔と体つきをした姥神が多かった。
 そしてもうひとつ、この姥像で他と異なるのは、長い髪を背中で束ねているところだ。軽く結んだ髪は、山の中にいるザンバラ頭の姥よりおしゃれで都会的。もしかして都由来のお方だろうか。
 物狂おしいような哀しさを感じてしまう。戦線に赴く息子に、せめてその時は三途の川で会えるようにと、姥神に身をやつした姿で会いたいと願った母が納めたのだろうか。国家の命とはいえ人殺しの罪を背負うかも知れぬ息子である。それを罪として裁く奪衣婆に、母はなる。

おお、ダニーボーイ。
私に会いに来ておくれ。

 1941年は世界ではドイツがロシアに侵攻して独ソ戦が始まり、アウシュビッツでのユダヤ人の虐殺が始まった年だ。これらの出来事と今の世界の出来事が恐ろしいほどつながり、似ていることに慄然とする。ロシアがウクライナに侵攻し戦争状態となり、イスラエルがパレスチナの人民を虐殺している、この今と。

母の願いは届くか。
願いよ、届け。

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