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山形の姥神をめぐる冒険 #52
【高瀧山不動尊】 天童市 2024年5月
山形県の南部で一昨日から発生した山火事がまだ収まらないとニュースで報じていた。木々が芽吹き始めたばかりだというのに30度を前後する気温が続き、山野は乾燥しきっている。不動尊に向かう山の上空にはヘリコプターの音がさかんに行き交って、隣県からも現場の山へ消火活動の応援をしに来ているという。
今回目指したのは天童市の霊場として古い歴史のある不動尊である。県道から入った道をひたすら山奥へ進む。昔は徒歩でお詣りしたから、参拝者を泊める宿もあったという。沢を下る道を降りて行く。辺りは岩壁に囲まれて苔むした倒木やシダなどが茂る緑濃い沢道である。
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姥神は奥の院に向かう途中のお堂の中に座っていた。元々は大きな岩の上にどっかり座っていたようで、お堂は岩に合わせて作りつけたものだ。下から見上げた姿は一見優しげだが、何ともいえない威圧感がある。生半可な心構えでは許さなそうな瞳。高慢、傲慢を諌める瞳。じっと見つめられれば落ち着かない。山の中に身ひとつでいると誤魔化しも言い訳も効かない。
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ここを過ぎると岩壁の上から滝が見えてくる。滝を見上げていると心が落ち着いてくる。ただ岩の上から水が落ちてくるだけの現象が御神体として祈りの対象になる心とは。ただの物理現象が人に神々しさや有り難さを感じさせるということとは。
頭でっかちな想念を洗い流し、滝に没入する。大瀑布でなくても人間の小ささを実感するには十分だ。涼しく清々しい空気に包まれながら滝に向かって手を合わせ、山火事の鎮火を祈った。
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