山形の姥神をめぐる冒険 #22
【愛宕神社】 村山市富並 2023年12月
山形県の北の方に向かうと最上川の存在感が急に増してくる。大きく蛇行した川はざぶざぶと勢いよく流れていて、何度も最上川を渡る橋が現れる。そんな橋のやや手前にこの神社はあった。鳥居の向こうは山の上まで続く細い石段が続いている。姥神はその昇り口に真っ赤な衣を着てニカッと微笑んでいた。今まで見たどの姥神よりも美人だ。洗練された顔の表情だけでなく、立てた膝の衣の襞なども雅と言いたいような気品が感じられる。
石段を昇っていくとお堂があり、〝西国三十三観音〟の石碑が続いている。
京都の清水寺や六波羅蜜寺など、有名寺院が次々と出てくる。
なぜ、西国なのか。
やはりそれは最上川の舟運のせいだろう。鳥居の近くには金比羅や牛を祀った石碑もあった。舟旅の無事を祈ると共に荷を運ぶ牛へのねぎらいだろうか。
ここの姥神の雅な雰囲気はもしや、西国からやってきた彫り師が都の面影を懐かしんで彫ったせいかもしれない。都の恋を忘れて幾年月、せめて死ぬ前にもうひと目見たいあの人をまぶたにのせて…。などと、和歌のひとつも詠んでみたい(詠めないけど)気持ちになる。
流浪の身の侘しさ、故郷への思いの切実さを石像を彫ることで癒そうとしたいにしえの人の想い。そんな想いをキャッチしてしまった自分も、同じ侘しさを感じていたりして。
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