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山形の姥神をめぐる冒険 #33
【中野目 十王堂】 山形市中野目 2024年3月
古い集落の通りから参道に入ると、果樹園の中に裏寂れたお堂が建っていた。鍵はかかっていない。お堂には阿弥陀如来像を挟んで閻魔王と生塗河の婆と書かれた姥神が座っている。顔面は削られた様に定かではないが、三者おそろいの赤い袈裟は真新しい。
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お堂には千羽鶴やお札や寄進者の名前がずらりと書かれたものが貼られており、長年この集落の拠り所だったのだと感じる。鍵を掛けずにおいて、誰でも好きな時にお堂の中で石像と対面することができる。村の揉め事や子育ての相談や、時には誰かの悪口だって吐き出せる場所だ。人間の心の不安定さを鎮め、視野狭窄に陥った時のお助け場所だ。
人間は、とてもとても弱い存在なのだった。でもこうして心を鎮め、怒りも悲しみも受け止めてくれる何かがいてくれたら、それだけでまた生きられる。昨今頻発するような事件、すなわち突然キレて家族、隣人、時には見知らぬ他人へ暴力を振るうような、憎悪の爆発を防いでくれるのではないか。悪意や憎しみの吐き出し方を現代人は忘れてしまった。お堂の中は、SNSの架空空間に放たれるそれとは違う意味があると思いたい。
忘れ去られようとしている信仰の名残りを、こうして訪ね歩く。
迷いびとのささやかな足跡を、ここに残すことにする。
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