YouTubeのMV、映像に関するコメント多すぎ問題
前々から思ってたんですけど、YouTubeのMVのコメ欄、映像に関するコメント多すぎませんか?
まあ、ある程度は仕方ないと思いますよ?
ただ、つい最近ひどすぎる例を発見しました。
それが、TOOBOEというアーティストの、「痛いの痛いの飛んでいけ」です。
「かっこいい曲じゃん!コメントの評価どんな感じだろう」と思ってコメント欄開くと、見事に映像に関するコメントしかない。
パッと見た感じ、MVを作っているのは常連の人というか、「TOOBOEといえばこの人」みたいなアーティストらしいので、完全にお門違い、ってわけではなさそうです。
ですが、あくまでもMVであって、BGMつきのアニメーション作品ではないので、どうしても映像に関するコメントが多いのは変な感じがします。
例えるなら、味にこだわっている料理店に行ったのに、盛り付けの話ばかりしてる、といった感じですかね。いや、注目するのそこじゃなくね?みたいな。
別の例だと、「メズマライザー」なんかもそうです。
ボカロにしては異例の速度で人気が出た曲なので、知っている人も多いのではないでしょうか。
この曲が500万再生を超えたとき、作曲者のサツキがpixivFANBOXに投稿した記事に、驚きの文章が書かれていました。
もちろん、ある程度の謙遜はあるのだと思いますが、自身の楽曲が人気になっていることに対して、作曲者が「MVの影響がかなり大きい」と言っているのを見ると、「どうなってんだ今の音楽業界!」と思わずにはいられません。
まあ、文句ばかり言っていても仕方ないので、今回はこうなってしまったことの原因について、私なりに考察してみようと思います。
「カゲロウプロジェクト」の衝撃
私が思いつく直接の原因は、「ボーカロイド」です。
2007年に、「初音ミク」が発売されたことによって、ニコニコ動画を中心に一般の人が作った楽曲、いわゆる「ボカロ曲」が多数投稿されるようになりました。
テレビに出るような有名アーティストであれば、すでに名前が知られているので、新曲を出せばファンの人が聞いてくれるでしょう。
しかし、ボカロを投稿する人は「無名の一般人」なので、そういうわけにはいきません。
細かい歴史についての話は省きますが、ある時期から数えきれない楽曲の中から自分の曲を選んでもらうため、曲と同じぐらいMVの制作に力を入れる人たちが増えてきました。
それが一番分かりやすいのは、「カゲロウプロジェクト」だと思います。
簡単に説明すると、「カゲロウプロジェクト」は複数のキャラクターが登場する作品のことです。
特徴的なのは、それぞれの人物に「キャラクターソング」があり、それがコンテンツのメインになっているという点です。
つまり、漫画やアニメでストーリーを展開するのではなく、楽曲を通して世界観を描いているのです。
すると、当たり前ですがMVの存在が重要になってきます。
MVが実質的に、アニメの役割を果たしているからです。
こうしたコンセプトの「カゲロウプロジェクト」が、カルト的な人気を誇ったことが、少なからず楽曲よりMVを評価する流れにつながっているのではないでしょうか。
現在では、最初に挙げたTOOBOEのように、メジャーアーティストでもアニメ調のMVを採用する人が多くなってきましたが、おそらくボカロの影響を受けているのでしょう。
言い方を変えれば、ボカロ曲の普及によって、アーティスト本人が登場する実写のMVより、アニメ調のMVが人気になる土壌が形成された、ということです。
本家より、アニメ絵の無断転載が伸びる
これを最も残酷な形で見せているのは、「PSYQUI」という人物の楽曲です。
この2つはどちらも同じ楽曲なのですが、上が本家で下が無断転載です。
驚くべきことに、無断転載の動画は本家の2倍近く再生されています。
他の楽曲でも、本家より無断転載された動画の再生回数が多い、という現象が確認できます。
この原因は明らかで、無断転載の楽曲には可愛い女の子の画像が使われているからです。
おそらく、このイラストも無断転載でしょう。
既存の楽曲と既存のイラストを組み合わせて、本家以上の再生回数を叩き出す。現代の錬金術ですね。
とにかく、YouTubeの音楽はMVの評価に左右される、ということは理解できたと思います。
こうした事実があるからこそ、サツキも「MVの影響がかなり大きい」と発言したのでしょう。
映像は言語化しやすい
とはいえ、今まで話してきたのは「YouTubeでは、楽曲と同じぐらいMVが重要」ということで、本題の「なぜ、MVに関するコメントばかり投稿されているのか」ということは説明していません。
今から、その部分についても考えていきたいと思います。
これは正直、「音楽の良さを言語化するより、映像やストーリーについて話す方が簡単で、共感してもらいやすいから」という理由以外考えられないでしょう。
楽曲の良さについては、「イントロが良かった!」「サビが良かった!」などは言えても、知識がないとそれ以上の言語化はなかなか難しいです。
仮に、「ここのコード進行が素晴らしい」「このフレーズは○○の影響を感じさせる」などと書いたとしても、共感してくれる人が少ないので、評価順で並んでいるYouTubeのコメント欄では、瞬く間に埋もれてしまいます。
その点、映像については「見れば分かる」ので、「アニメーションの動きが素晴らしい!」「この部分めっちゃ可愛い!」といった感じで、バリエーションのあるコメントができるだけでなく、多くの人に共感してもらえます。
それが結果的に、コメント欄にMVの感想ばかり書かれている、という現象を引き起こしたのでしょう。
こうした現象は、作品の二次創作でも顕著に見られます。
2番目に挙げた「メズマライザー」は、YouTubeショートなどに、大量の二次創作が投稿されています。
しかし、そのほとんどはMVを少し変えたり、別の作品と組み合わせるMAD動画で、楽曲はそれこそBGMとして、そのまま使われています。
この原因も簡単で、音楽は絵と違ってコードやメロディの制約があり、二次創作のハードルが高いからです。せいぜい、歌ってみたぐらいしかできません。
しかし、映像であればトレースといった技法も使えますし、コラージュなどであれば比較的簡単に行うことができます。
こうした明らかな二次創作のハードルの違いも、楽曲よりMVが注目されることに繋がっているのかもしれません。
余談ですが、MVに続いて多いのが歌詞についてのコメントですね。
これもMVと同じで、多くの人は音楽のことがわからないので、歌詞についてぐらいしか話せないからでしょう。
具体的な名前は出しませんが、歌詞に隠されたメッセージを入れ、それを発見して楽しむみたいな文化は、ほんとうにバカらしいと思います。
なぜ音楽に集まるのか
ここまでくると、なんで音楽を聴いてるんだ?とすら思ってしまいます。
一応、音楽は何回聴いても飽きずらい、古い曲でも楽しめるといった特徴があります。よく、「音楽は賞味期限が長い」なんて言われるやつです。
なので、「何度も見返し、映像や歌詞に隠された要素を見つけるという遊びに、最も適しているのが音楽である」という説明はできます。
そういったことを無視して、言葉を選ばずに言うなら「たいていの人は、良い音楽を判別する能力を持っていない」ということもできます。
そして、これは意外とよく実態を表しているかもしれません。
音楽を聴き分ける能力がないからこそ、MVや歌詞といったそれ以外の要素であーだこーだ言っているのではないでしょうか。
そんなことない、と思う人はYouTubeで「人気のミュージックビデオ」と検索し、上から順番に聞いてみてください。私の言っていることがよくわかると思います。
音楽を聴いている人が、そもそも音楽にあまり興味がない、というのは一見矛盾していますが、現代ではけっこう起こりうる現象なのかもしれませんね。