人はなぜ「叱る指導」をしてしまうのか、計算してみた。
最近は、スパルタ的な「叱る指導」に対して、否定的な風潮が大きくなっています。
令和にもなって未だに叱る指導をしている人は、
「指導能力不足」
と揶揄されることもあります。
しかし、叱る指導をしている人は、本当に指導能力が不足しているのでしょうか?
僕は思んですが、叱る指導をしている人は、数学の能力が不足しているのではないでしょうか?
実は、人が叱る指導をする原因に、「数学」があります。
ということで今回は、数学がいかにして、人に叱る指導をさせているのかを、解説していきます!
人は、どういうときに褒め、どういうときに叱るのか。
選手が、指導者が思っているより良いパフォーマンスをしたときに、指導者は選手を褒めます。
逆に、選手が、指導者が思っているより悪いパフォーマンスをしたときに、指導者は選手を叱ります。
例えば、選手は50%の確率でドライブが入ります。
この選手が、ドライブを10球中8球入れれば、指導者は、「選手はドライブが上手くなった」と判断し、選手を褒めます。
ドライブが10球中2球しか入らなければ、指導者は、「選手はドライブが下手になった」あるいは「雑に打っている」と判断し、選手を叱ります。
さて。
今回の話で大切なのは、「褒めたり叱ったりした後」です。
褒めた後も、精度が維持されたり、むしろ精度が上がれば、「褒めてよかった」と思います。
褒めた後に精度が下がれば、「褒めてはいけなかった」と思います。
叱った後に精度が上がれば、「叱ってよかった」と思います。
叱った後も、精度が上がらなかったり、むしろ精度が下がれば、「叱ってはいけなかった」と思います。
そして指導者は、「褒めてよかった」「叱ってはいけなかった」という経験が多ければ、褒める指導をするようになります。
「褒めてはいけなかった」「叱ってよかった」という経験が多ければ、叱る指導をするようになります。
そして、タイトルにもあるように、結論として指導者は叱る指導にたどり着きやすくなります。
つまり指導者は、褒めれば選手の精度が下がり、叱れば選手の精度が上がるという経験をたくさんします。
実際にこういう傾向になるのです。
そしてその原因は、選手のメンタルとかではなく、「数学」にあります。
さて、これは一体どういうことなのか、実際にやってみましょう。
実際にやってみた
では実際に、選手を褒めたり叱ったりして、その後にどうなるか、excelでシミュレーションをしてみましょう。
excel選手は、ドライブが50%の確率で入ります。
excel選手はドライブを10球ずつ打ちます。
excel指導者は、ドライブが8球以上入れば褒め、2球以下しか入らなければ叱ります。
これで、褒めたり叱ったりした後にどうなるのかを見ていきましょう。
まずは、excel選手がドライブを10球打ちます。
確率50%だからといって、必ず5球だけ入るわけではなく、バラつきがあります。
3回目で早速、2球成功という低い結果が出ました。
ということで、excel指導者は「コラッ!」と叱りました。
叱った後の4回目は、プラス5の7球入りました。
叱った効果が出たように見えます。
しかし、excel選手の成功率は常に50%なので、実は放っておいても5球前後成功します。
でも、「叱ったから上手くなったんだ!」と、excel指導者は思い込んでしまうわけですね。
さて、7回目で8球成功したので、excel指導者が褒めました。
すると、次の8回目でマイナス2の6球成功となりました。
これも、excel選手の成功率は常に50%なので、妥当な結果です。
しかしexcel指導者からすると、「褒めたら下手になった」ように見えてしまいます。
25回目で再び褒め、次はマイナス3となりました。
excel指導者は、「褒めたら下手になった」という経験をまたひとつ重ねました。
43回目で褒め、次はマイナス1となりました。
悪くはないけど、やっぱり「褒めたら下手になった」ということに違いはありません。
48回目で再び叱り、次はプラス3となりました。
excel指導者は、「叱ったら上手くなった」という経験をまたひとつ重ねました。
excel選手はもう500本もドライブを打っているので、1日目はここまでにします。
excel指導者は、「叱ったら上手くなった」という経験を2回、「褒めたら下手になった」という経験を3回味わいました。
「叱ったら下手になった」「褒めたら上手くなった」という経験は一度もありませんでした。
叱ったら下手になる確率、褒めたら上手くなる確率は?
excel選手がドライブを何球成功させるか、その確率は以下の通りです。
「褒めたら上手くなった」という経験をするためには、褒めた直後に8球以上成功させることが必要です。
そして、8球以上成功する確率は約5%です。
つまり、褒めたら下手になる確率は95%ということになります。
逆に、2球以下しか成功しない確率も同じく約5%です。
つまり、叱ったら上手くなる確率も95%ということになります。
このように、確率論というものは、指導者を叱る方向に誘導します。
そりゃ、叱りたくなるわけです。
まだまだ実際にやってみた
2日目
さぁ、まだまだシミュレーションをやっていきます。
褒めたり叱ったりした部分だけまとめました。
3度褒めたら3度下手になり、2度叱ったら2度上手くなりました。
excel指導者はこの日も同じ経験を積み重ね、「叱った方が良いんだ!」という思いをどんどん強固にしていきます。
3日目
2度褒めたら2度下手になり、1度叱ったら1度上手くなりました。
4日目
3度褒めたら3度下手になり、1度叱ったら1度上手くなりました。
それにしても、「叱ったら下手になった」「褒めたら上手くなった」という経験が1回も来ないですね。
excel指導者がどんどんスパルタ信者になっていっています。
5日目
2度褒めたら2度下手になりました。
6日目
2度叱ったら2度上手くなりました。
excelスパルタ指導者の目を覚ませたいので、こうなったらもう「叱ったら下手になった」「褒めたら上手くなった」という経験ができるまで練習を続けます。
頼む!
7日目
1度褒めたら1度下手になり、4度叱ったら4度上手くなりました。
この日もexcelスパルタ指導者の目を覚ませることはできませんでした。
指導者を救いたい…
8日目
2度褒めたら2度下手になり、2度叱ったら2度上手くなりました。
今日もダメか…いつになったら…
9日目
4度褒めたら4度下手になり、2度叱ったら2度上手くなりました。
もう、諦めるべきか…
10日目
遂に!
22回目に2球成功で叱った次に、マイナス1の1球成功となりました。
「叱ったら下手になった」という経験を初めてできました!
これで、excel指導者の目が覚めたでしょうか。
しかし、23回目の1球成功で再び叱った次に、プラス5の6球成功となっています。
結局すぐに、褒めたら上手くなってしまいました。
こうして、excelスパルタ指導者が完成しましたとさ。
めでたしめでたし…
結論
今回は、「平均への回帰」と呼ばれる現象を卓球に当てはめました。
今回の「スパルタ指導の数学原因説」は、僕が提唱しているものではなく、実際に至るところで起きているものなのです。
サイコロを振って6が出て、次にもう一度振ったら高確率で数字は下がります。
それと全く同じ理屈で、ドライブがよく入った次は、高確率でドライブが入る数は下がります。
しかし、サイコロで6が出るのは「偶然」で納得できるのに対して、ドライブがよく入るのは「上手くなったから」と思い込み、まさか「偶然」だなんて思いもしません。
もちろん、「本当に上手くなった」というパターンもあるとは思いますが、「偶然上手く行っただけ」というパターンも、僕たちの想像以上に多いんだと思います。
その結果、偶然の結果に踊らされ、無駄に褒めたり叱ったりして、「褒めたら下手になった」「叱ったら上手くなった」という経験を積み重ね、叱ることを是としてしまいます。
しかし、「平均の回帰」で明らかなように、叱る指導の大義名分はニセモノです。
「褒めたら下手になる」「叱ったら上手くなる」は、幻想です。
だったら、せっかくの楽しい楽しい卓球なので、良い雰囲気で真剣に卓球をやりましょう!
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