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世界にただ一緒にいる彼(8)

まさみは静の舞台を観ていて、聡一の脚本で動物園が観光事業に乗り出して、ラベンダー畑を作るんだけど、反対する意見があるんじゃないか、例えば飼育員がサービス業に進出するのだから、新しい職員も必要になってくる、今まで好きな仕事をして平穏に生きてきた人にとってはストレスのかかる事じゃないかと思うとまさみは聡一に話した。聡一は確かに物語に物足りなさを感じていた、対立軸があった方がこれからの展開が盛り上がるねと話す、まさみは脚本を見直して新しいキャラが決まったら私も舞台に立つからと話した。猿渡教授が学祭のアートウイークに数本の演劇企画を準備しているので、まさみも手を抜きたく無かったのである。航がこの舞台で演じているのが、福祉施設の職員で静が制作している花飾りに感動する役を演じている、航は施設のリーダー的な存在で静と共に、ラベンダーの花飾りが織りなす世界観を障がい者と共に表現している。心穏やかな温かい生活が存在するのだ、猿渡先生も演出の仕方によっては素晴らしい物語になるねとまさみに言ってくれた、まさみは聡一に脚本をもう一度練り直してと伝えた。航と静もまさみが舞台に出てくれる事になったので、いつものメンバーが揃い、後は僕達次第だねと話した。実際に観にきてくれる観客は小さい頃から舞台を続けている航のファンが多かったし、静もファンクラブがある程、注目されている女優であった。大学の演劇サークルといっても主役を演じるのは、将来を期待されているタレントの卵達である。まさみは俳優を目指していなかったが、小学生の頃からイベントを企画して自ら演じてきた。俳優を目指している子供達の頼りになる仲間だったのである。後、聡一という脚本を書ける演出家の友達もいたので、まさみのグループは学祭の舞台を任せられるグループに猿渡先生から認められていたのである。


舞台の練習後、猿渡先生は航とまさみ、聡一の3人に明日のゼミで商業捕鯨の漁獲枠の話をするから、レポートをまとめて皆んなに説明してもらうと話した。まさみはお金の話をするので、猿渡先生に折衝のアドバイスをしようと思っていた。どの部分で騙し合いをするのかがポイントだと思うし、必ず損と得のある話だからと感じていた。聡一は今までのゼミの内容をパワーポイントに纏めていたので、航が発表をして聡一と手順を確認する運びになっていた。先生は商業捕鯨の国際会議に専門家として呼ばれる事が多く、哺乳類を守ろうとする国際世論とどうバランスを取っていくかが重要だと感じていた。日本がこの度国際的な枠組みから脱退した事は、短期的には日本の捕鯨文化をプラスに働かせるかもしれないけど、将来的には文化の成熟度・成長を鈍化させてしまうと感じていた。だから先生は国との漁獲枠の討議においては、日本の目的だけを遂行する事に少し意義を唱える必要があるのではないかと思うのだ。儲けばかりを重視する政策に舵を切っては本質的な目的を見失ってしまう気がするのだ。鯨と海洋生物との生態系の研究や食文化の継承といった重要な側面もあるのだ。まさみは猿渡先生のいう正しさも理解していたが、どのぐらいの漁獲枠を確保して、経済活動として社会に認めてもらう方が先だと考えていた。今までのやり方を変える為に国際捕鯨委員会から脱退したのだから、出来うる限りの利益を追求すべきだと思ったのだ。だからレポートの最後に、今期の判断基準に商業捕鯨を再開して、経済的にも成功しているノルウェーの方式を最大限に活用すべきだと記したのだ。猿渡先生も経済活動として成功する事を目標に掲げていたので、まさみが纏めたレポートの内容を今度の諮問委員会で発表する予定である。

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