SimpleSmartSpeedyな乗車体験を提供する「S.RIDE」
都内を歩いていると、タクシーの側面に「Japan taxi」や「S.RIDE」の文字をよく見かけます。私が数えた限りでは走っていたタクシーの1/3ぐらいがJapan taxiでした。
Japan taxiは前からあることを知っていて、S.RIDEについてはよく知らなかったので、今回マーケティングトレースをしてみました。
■始めに
「S.RIDE」は、グリーンキャブ、国際自動車、寿交通、大和自動車交通、チェッカーキャブの5社と、ソニー、ソニーペイメントサービスの合弁会社みんなのタクシーが運営するアプリで、東京最大級のタクシーアプリなのですね。
タクシー5社による保有タクシー車両は1万台を超え、「東京最大級のタクシーネットワーク」としています。2019年4月16日時点のサービス提供地域は東京23区、武蔵野市、三鷹市です。
2019年10月には 2019年度グッドデザイン賞を受賞している、今話題のタクシー配車アプリとなっています。
現在では、東京都個人タクシー協同組合、名鉄タクシーホールディングスとも提携し、名古屋市も対象に入っています。
タクシー業界の中ではすでに「Japan taxi」や「DiDi」、「MOV」があるため、後発のサービスになります。
■S.RIDEのサービス概要
「東京の移動を、ちょっと、もっと快適に」というコンセプトをもとに、コアターゲットが持つ課題に対して、「Simple、Smart、Speedyな乗車体験」を追求したアプリです。これらの意味がS.RIDEに込められています。
事業概要は、「スマホ画面をスライドするだけで、タクシーネットワークから一番近いタクシーを呼び出せる配車アプリ」(サービス)の提供を行っています。
このサービスは、「忙しく、時間を有効に活用したいと考える経営者層やビジネスパーソン」の
今のタクシーでは「領収書なくしてしまう...」「全然つかまらない...」「時間をコントロールできない...」といった課題(手間なく時間のロスなくタクシーを利用したいという欲)を
ワンタッチスライドで配車を行い、降りる前にキャッシュレスで支払えるようにしたことで、無駄を排除して解決しています。
■PEST分析から見る環境分析
①政治面
・消費税増税
・タクシー運賃改定
特にタクシー運賃改定によって、短距離移動の利用がしやすくなりました
国土交通省が提示した新旧運賃の比較例では、
約2kmまでの運賃は引き下げ、約2kmから約6.5kmまでの運賃は引き下げになる部分と引き上げになる部分があり、約6.5km以上の運賃は引き上げにな
とされています。ビジネスマンに影響があるかはわからないですけど、お年寄りなどの利用がしやすくなったと思われます。
②経済面
・海外で急速に普及しているライドシェア
・日本交通などによると、日本における月間タクシー輸送回数は約1億回のうち国内の全配車アプリを合計したシェアは約2%程度
・タクシーを200台以上保有する大規模なタクシー業者は1%程度
タクシー業界では、乗用車の相乗りをマッチングするソーシャルサービスが国内で解禁されることへの危機感があるみたいです。確かにアメリカに旅行で行ったときは、Uberの方がタクシーより安くて、ずっとUberを利用していました。もし、日本でも解禁になれば、そうなる可能性は十分に考えられますね。
様々なタクシー配車アプリが出てきていますが、全体の輸送量のうち2%しかアプリ利用がないのは、かなり少ないですね。
大規模なタクシー業者が少ないため、導入するのが難しいという現実があるみたいです。
③社会面
・日本の総人口は2007年から減少傾向
・少子高齢化が進行
・タクシー運転手の平均年齢が60.1歳
少子高齢化が進んでいて、タクシードライバーの平均年齢が60歳とかなり高齢になっています。そのため、スマホに連動したサービスへの警戒感がある高齢ドライバーの影響で、スマホアプリの導入が進んでいないという問題もありそうです。
都内を歩いていても、同じタクシー会社でもアプリを導入した車に乗っている人もいれば、アプリを導入していない車に乗っている人もいます。どういう経緯でこうなっているのかは知りませんが、アプリを導入していない車のドライバーは白髪で50代〜60代に見えました。個人の選択で選んでいるのかもしれませんね。
④技術面
・キャッシュレス決済
・位置情報サービスの発展
・モバイルアプリの浸透
決済や位置情報、アプリの技術がどんどん発展していて、スピーディーで無駄のない乗車体験を実現することができる社会になっています。
■3C分析によるまとめ
<顧客>
メインターゲットは、忙しく、時間を有効に活用したいと考える経営者層やビジネスパーソンです。
・時間の無駄に敏感
・移動時間=仕事時間
などの特徴があると思います。
<自社>
顧客の特徴に対して、「S.RIDE」は以下の特徴を提供しています。
①シンプルなアプリ設計
②時間を無駄にしない乗車体験
③スマートな支払い
S.RIDEではメインターゲットが持つ特徴に対して、ストレートに価値を提供しています。詳しくは4Pで説明しますが、シンプルなアプリ設計によって手間がかからなくなり、それが時間を無駄にしない乗車体験につながっています。そして、支払いをキャッシュレスで行うことで、すぐに降車可能となるのです。
<競合>
・「Japan taxi」
・「DiDi」
・「MOV」
競合としては、以上のような会社があります。
どの会社もタクシー配車アプリを持っていますが、Japan Taxiでは、配車まで5ステップ、DeNAのMOVでも2ステップでの配車となっています。
タクシーの数で言うと、4月1日付をもっての「MOV」と「JapanTaxi」が統合するため、この2社が一番多くなるのではないでしょうか。
ー3Cからの考察
「MOV」と「JapanTaxi」が統合するものの、ユーザーに対してのS.RIDEの都内でのタクシーの数は今のところ十分であるため、問題なくサービスの提供ができると思います。
そのため、S.RIDEが顧客が持つ特徴「時間の無駄に敏感」「移動時間=仕事時間」に対して、よりストレートに価値を提供しているということが、大きな差別化要因として機能すると思います。
■STP分析を使ったポジションマップ
ターゲットは、3C分析で述べた通り
忙しいビジネスパーソンや経営者
です。
こういった人たちは、「無駄な時間を嫌う」ため、「移動時間=仕事時間」と捉えていることが予想されます。タクシーに乗るまでの行為や、支払いの無駄など移動に関することを考えて行動すればするほど、そこに費やす時間や手間が発生してしまいます。
それをなくすのがタクシー配車アプリの良さです。
NewsPicks編集長の箕輪さん曰く
タクシー配車アプリって目的が決まってるから機能面で大きく差別化するは難しい
とのことです。そのため、その機能面を使いやすくする設計というのが大事になってきますね。
そこで、まず一つ目のポイントが「シンプルなUX設計」だと思います。
さらには、機能面での差別化ができない分、アップルのようにターゲットが使っているときに何を感じ取れるか、という自己実現欲求を充足させる点で差別化を図るというのも重要だと思います。
最近「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」を読んで、サービスとして求められる価値も変化しているということを知りました。それが、自己実現欲求を満たせるか、というポイントです。
『S.RIDE』を使っている人は、「イケてるビジネスパーソン」だという価値を提供できれば、他にはない価値を生むことができるというわけです。
そこで2つ目のポイントが「UX・アプリのスタイリッシュさ」です。(大事なポイントとして、ブランディングの方法もありますが。)
UX・アプリをカッコ良くするだけで、イケてるという雰囲気は出ると思います。
以上の「シンプルなUX設計」✖️「UX・アプリのスタイリッシュさ」で各社のポジショニングを考えてみました。
「S.RIDE」は、配車まで1ステップで時間のロスがほとんどない設計になっており、そして、アプリ自体が黒を基調としていてどこかスタイリッシュ感を感じさせるようになっています。
他のアプリは、配車まで2ステップ以上必要となっていて、さらにアプリは白い部分が多く、スタイリッシュであるという印象は特に受けません。
機能面ではそこまで大差ないのですが、こういった2軸で見ると「S.RIDE」がポジショニングに成功していると思います。
■4P分析
①Product
Simple、Smart、Speedyな乗車体験
1. シンプルなアプリ設計
2. 時間を無駄にしない乗車体験
3. スマートな支払い
1. シンプルなアプリ設計
忙しいビジネスマンや経営者にとって大事なのは、「いかにすぐに来て、すぐに降りられるか」ということです。そのため、「1スライドするだけで配車完了できる」という点がS.RIDEは優れています。
他のタクシー配車アプリでは、乗車位置や目的地を選択してから配車依頼するなど数回のタップ操作が必要となりますが、S.RIDEは画面上に到着までの目安時間(3~6分)などを表示し、スライドするだけでタクシーを探し、配車が完了するというシンプルな設計です。
以下の記事を読むと、実は時間に敏感なビジネスマンは「アプリとか使いこなせない」人が多いのかもしれないです。なので、シンプルなアプリ設計というのは、想像以上に効果があるかもしれません。
例)NewsPicks Book編集長の箕輪厚介さん
2. 時間を無駄にしない乗車体験
目的地の設定をするのは、後回しになっています。先に配車をして、その後の待ち時間の間に目的地を設定することができます。待ち時間を無駄にしないという、時間のロスに徹底的にこだわった設計にしたそうです。
また「タクシー乗車位置の設定をする無駄」を排除するために、施設自体にピンを立てれば、自動で現在地から一番近い道路にタクシーを呼んでくれるようになっています。
さらに「タクシーが見つからないという無駄」を排除するために、3つの言葉で地図を細分化して表示することができるサービス「what3words」と提携して、より細かい位置設定をできるようにしています。
そうはいっても、「タクシーと出会えないという問題」が起きてしまった場合は、タクシー会社を経由せず、ドライバーと直でチャットをすることができますので、無駄なくタクシーを見つけることができます。
以上のように、時間を無駄にしないためのサービスが設計されているのです。
3. スマートな支払い
「スピード」と「不安の排除」というのがポイントです。
・キャッシュレス決済で降車時のやりとり必要なし
・流しのタクシーでも「S.RIDE Wallet」で決済可能
・事前確定運賃サービス
事前にアプリにクレジットカードを登録しておけば、ネット決済が可能となっています。そもそも、降りるとおきに決済を行うという無駄がありません。
また、アプリで読んでいないタクシーに乗車した場合でも、乗客用の後部座席でタブレットを使ったQRコード決済「S.RIDE Wallet」を行うことができます。S.RIDEアプリで、タブレットに表示されるQRコードを読み取ることで、アプリに紐づいたクレジットカードで決済が行なえるのです。
領収書はビジネスマンにとって重要だと思います。これに関しては、アプリ上にある乗車履歴から、領収書や利用明細の発行をすることもできるので、安心ですね。
「不安の除去」に関することで特筆すべきなのは、タクシーの乗車する前に乗車予定地と目的地を入力すると、地図上の走行距離をふまえて自動計算で運賃を確定できることです。これを行うことで、渋滞や迂回路により運賃が高くなる不安を抱いたり、到着までメーターを気にする必要もなくなり、乗車しているときに仕事に集中できるようになります。
以上のように無駄のない「スピード」を提供し、「不安の排除」を可能とした、スマートな決済を行うことができます。
②Promotion
SNSを使った広告はない印象。ビジネス系メディアを利用して認知拡大。
ビジネスマンや経営者にターゲットを絞っているため、そのターゲットが使っていると思われるメディアに記事を掲載して、認知を図ったと考えられます。
「NewsPicks」「新R25」「business insider」「amp」など、ビジネス情報が掲載されるような大きなメディアに登場しています。
・ホリエモン
・NewsPicks Book編集長「箕輪厚介さん」
・スペースマーケットCEO「重松大輔さん」
・株式会社コルク 代表取締役「佐渡島庸平」
実際に利用者の声を載せることで、他のビジネスマンや経営者が使うイメージがつきやすくなっています。
またそこに有名な人を採用していることで、ビジネスマンや経営者としての尊敬や憧れなどの思いが抱きやすくなり、これらによって利用する人が増えるのではないかと考えました。
Twitterはフォロワー24人でしかも鍵垢、Facebookはいいねしている人が10人とこれも少なかったです。
ほとんどSNSは活用せずに認知を図っているようです。ビジネスマンはFacebookを使うと思いますので、そのうちFacebookでの広告などもしてくるのかなと思っています。
③Price
マネタイズ方法
<乗車料金>
・迎車料金 310~410円
・その他タクシー料金は他と同等
<広告料金>
・後部座席IoTサイネージサービス
<乗車料金>
迎車料金はタクシー事業者によって異なりますが、310円~410円かかってしまいます。
料金としては他のサービスと比較して優れた点はないのですが、「Product」で説明しました通り、乗車しているときの不安を取り除けるという点で優れていると言えます。
④Place
・東京23区、武蔵野市、三鷹市、名古屋市
既に展開している地域では、十分なタクシー台数を確保できており、配車してすぐに乗れる状況にあり、このように地域に限定していることで、Simple、Smart、Speedyな乗車体験を経験してもらうことで、サービスとしてのイメージを確立することができると思います。
※今後、多摩地区の方にも展開していく予定だそうです。
■もし自分がCMOになったら
いかに新規顧客を増やすかという点に着目していきたいと思います。
ー新規顧客に着目する理由
タクシーの場合は、「利用回数」✖️「客単価」で売り上げが決まります。
まず、タクシーにおいてターゲットをビジネスマンや経営者としたときに、客単価を操作するのは難しいと考えています。そこで、利用回数を増やすことを考えようと思います。
さらにそもそも、S.RIDEではタクシーの売上に対する「手数料」とそれとは関係がない「広告」で収益を出していきます。広告も手数料も、利用してくれるユーザー数が増加してくれることで、広告の価値が上がり、またタクシーでの支払いが増加するため、収益を上げることができます。
また、アプリを導入していないタクシーを増やすためにも「S.RIDE」が圧倒的人気であるというポジションを獲得することができれば、アプリの導入を促すことも容易になると思っています。
よって、以上のことから利用回数を増加させるというのは、非常に重要な要素であると思います。
利用回数の中でも、リピートに関しては、サービスとしての価値が十分あると考えているので、一度利用してくれた人はリピートをしてくれると考えます。また、全体のタクシーの運搬回数に対してアプリでの配車が2%という数字がある通り、いかにこの割合を増やすかが大事であると思っています。
よって、新規顧客を増やす方向性で考えていきます。
ー新規顧客を獲得する戦略
とにかくアプリを使ってもらうことが大事だと思います。
どんな人たちにアプリを使ってもらうかですが、
・これまでタクシー使わなかった層
・タクシーを使っていてアプリを使っていない層
これらのうち、後者にアプリを使ってもらうのがいいと思っています。そのために、まずは認知を増やす必要があると思います。
私自身、S.RIDEというアプリは道路を走っているタクシーを注意深く見て、知ることができました。そのため、知らないビジネスマンや経営者もまだいるのではないかと思っています。また、私自身、S.RIDEの広告自体を見かけたことがなく、メディアや広告への露出がほとんどないのではないかと思います。
そこで、ビジネスマンと接点があるところに露出を増やしていくことを考えました。
・電車広告によってビジネスマンへの認知を増やす(ドア近くの広告が目に付くので良さそうです)
・スーツを取り扱っているお店に割引クーポンを置かせてもらう
→アプリのDLを促す
・銀行と提携して、「S.WALLET」に銀行を登録できるようにするのとともに、銀行にて割引クーポンの配布をしてもらう。(例えば、営業の人に取引先の社長さんや担当者に配ってもらうなど)
ーその他アイデア
将来的には、勤怠アプリと提携して、「S.RIDE」を導入して、経費清算機能と連動させていくと、経費清算の手間が省けるようになって、会社や社員にとってメリットが出てくるので、アリなのかなとも思いました。
■最後に
今回はタクシー配車アプリについてマーケティングトレースをしましたが、普段タクシーを使わない自分からしたら、少し難しい内容でした...
ターゲットの課題に対して、ストレートに解決しようとしているのが、とても面白く、学びになる内容でした。
何か感想や意見などありましたら、気軽にコメントしてもらえると大変嬉しいです!最後まで読んでいただきありがとうございました!