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人や社会から見た中国経済の「欠けている部分」~非専門家の勝手な物言い

中国経済に関する論著は近年、数多く発表・出版されている。
ネット上でも数多くの議論が交わされており、「中国経済期待論」から「中国経済崩壊論」まで多種多様な意見があることがわかる。
私は政治・経済・金融の専門ではないし、そうした仕組みやデータの読み解きも門外漢。同様のアプローチを行うことはできない。
しかし、実際に中国で生活し、中国の人や社会を見てきた人間として、少しだけ思っていることを書き出してみようと思う。
もちろんきわめて定性的で合理性に欠けることは十分に承知しているが、データの外、すなわち中国の人・社会の特性から中国経済の特徴とその今後を考える試みとしたい。

また一部の表現・内容に関して中国の人や登場する民族の人が不快に感じるかもしれない。
なるべく気を付けて書いたつもりではあるが、私が実際に見聞きしたものを歪曲して書くわけにもいかないための表現であることをご理解いただき、寛恕を請うのみである。

中国での立ち話~中国のビジネス思考

昨今は中国でも経済の停滞、消費の低迷など多くのネガティブな報道がなされている。
目下、大きな財政出動を行い、景気の下支えをしようとしているのは見て取れるが、やや持て余し気味という印象を受けている。

この中国経済の状況を見ていると、以前、中国の友人から聞いた「中国人とユダヤ人の違い」という話を思い出す。
ハイウェイの建設後にどのような行動をとるか、という話題だが、私としては非常に納得感があったので、整理して書き出してみる。

状況は「ある、何もないエリアに1本のハイウェイが通った」という。

1人のユダヤ人はそれを見て「給油が必要になる」と考え、ガソリンスタンドを作ったところ大当たり。多くのドライバーが車を止めて給油を行った。
それを見た別のユダヤ人は、「給油をしたらついでに休憩もするだろう」とカフェを作った。
また別のユダヤ人は「車の中で食べるものを買うかも」と思いスーパーを開いた。
こうして次々に“異なる”サービスが追加され、やがてそこは「街」へと姿を変えた。

では中国人の場合は?というと、友人は苦笑しながらこう語った。
なにもないハイウェイの横で1人の中国人が「給油が必要になる」と考え、ソリンスタンドを作ったところ大当たり。多くのドライバーが車を止めて給油を行った。

ここまでは同じである。違うのはその後だ。

それを見ていた別の中国人も「だったら私もガソリンスタンドを作れば一儲けできる」とガソリンスタンドを開いた。3人目、4人目も同じことを考えガソリンスタンドを開いた。
結果、そこはガソリンスタンドが立ち並ぶエリアへと姿を変えた…。

中国では計画経済が終了し、ほぼ全員がヨーイドンの形でビジネスを始めた。

その時の心理としては「〇〇をすれば確実に儲けられる」という思考であり、同時に「誰それがそうやって儲けた」というエビデンスであり、「自分も今やらないと他人に奪われる」という競争意識である。

例えば2000年代初頭のヘアサロンである。
上海のある通りは、同じようなヘアサロンが軒を連ねており、店選びに苦労したものであった。
それも「ヘアサロンを開けば儲かる」という情報が広がり、雨後の筍のようにヘアサロンが密集したのである。

それは今も変わっていないと感じる。

例えば恒大集団もそうだ。
本業であるデベロッパー業務に集中していけばいいが、政府がEV開発に補助金を出し発展を援助するやそこに乗り出した。
その結果は、今やここで説明する必要もないだろう。

企業への投資なども同様の雰囲気である。化粧品業界などが好例だろう。
以前は注目産業として多くの資本が集まったが、化粧品消費低迷の瞬間、多くの企業が倒産していった。
そもそも、そんなに多くの化粧品会社は必要なかったのであるが、それよりも「化粧品をやれば儲ける」という話のほうが優先してしまっていた。
(シェアバイクなども似ているかも知れない)

株、不動産、万事がそういう感じで、上海在住中も「今やらなければ他人の物になる」と何度も言われたものである。
現在も国債が急騰したが、同じ理由であろう。

つまりは社会全体のニーズを見る視点が、やや乏しく、人気業界に過度に一気に集中してしまうため、いったん何らかの事情で業界が躓くととたんに業界不況になってしまう。

政府への絶対的信頼によるモラルハザード

もう一つは投資の世界にあるのだが、党・政府への過度の信頼である。

この点に関しては福本智之氏が『中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス』https://amzn.asia/d/0u1qYyC において言及されている。

つまり「何かあったら政府が何とかしてくれる」、「政府も投資しているんだから間違いない」といった全国的な妄信に近い信頼が、非理性的投資を助長してしまっているという点である。

少し福本氏の記述を引用してみる。

最終的には「政府が何とかしてくれるだろう」という意識は、個人に限らず企業や金融機関にも広くある。政府の「暗黙の保証」への期待だ。中国ではこれを「剛性兌付」と呼んでいる。「剛性兌付」を期待するからこそ、一部の融資平台や企業など、リスクの相対性の高い先にも、資金が円滑に届けられてきた。典型的なモラルハザードであり、これが過剰債務問題を助長したのは確かだ。

『中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス』 P226

国によって体制の違いがあるため、一概に善悪を述べることはできないが、中国の場合「政治」と「経済」、そして「投資・消費」の距離が極めて近い。
それが中国をしてわずか30年程度で世界有数のGDP規模を誇る経済国家になったことは否定できない。

しかし、同時に「実体の伴わない投資を生み出し、拡大させ続けてきた」結果をも生むことになった。
日本をはじめとする多くの企業はその中国特有の消費者による「政府への信頼」を背景に進出、利益を得てきたことになる。

例えば以前、上海の株価が急落し、「股民(個人投資者)」たちが真っ青になった時のこと。
政府はすぐに株式取引自体を停止させ、3日間にわたって取引を止めた。
その後、再開した株式市場では株が急騰。
証券取引所から出てきた老人がメディアの前で「私は党と政府を信じていた」と涙ながらに語っていたのを覚えている。

このように、本来は企業活動にゆだねるべきの経済に国が強く干渉する。
国是が「党がすべてを領導(教え導く)」であるために、そうならざるを得ない状況が生まれている。

結果としては一般消費者を含めた投資家は「安心して」、自分のキャパシティを超えた投資を行う事ができるようになった。
投資はリターンをもたらし、富裕層も生まれてきた。それが継続されるはずであった。
すべてが順調に回っていれば、であったが。

結局のところ…

これまでをまとめると、中国経済の人的欠陥は2つ

  1. とにかく「皆がやっているところ」に集中しすぎる

  2.  なんでも「最終的には政府が何とかしてくれる(自分たちは損をしない)」

という2点なのかなと。

これがどうなれば変わるかという点なのだが、正直言って変わらないと考えている。
現在、全体的に不景気になっているが、それが上記2点に拍車をかけている様子で、短期的な国債バブルなどが生まれていた。

一回全部はじけちゃえばいいのだろうが、それを行うと一気に国内の情勢不安などを呼び、今まで以上にアブナイ状況になりかねない。
そして弾けたぐらいで変わる性質なのか、というのも疑問。
資本家たちが一気に海外に流れ出て、海外で「みんなこれで儲けている」と言われるものを買いあさり、海外市場が混乱する可能性もありそうだ。

「最終的に何とかしてくれるはず」、「感謝党、感謝政府」と言わせ続けてきた中国政府のソフトランディングに期待するしかないのかな…と思うばかりである。
かなりオッズの高い賭けになりそうではあるが。

これに関してばかりは成り行きを傍観したいと思う。

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