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「ギリシャでヒッチハイクはむずかしい?」
世界一周383日目(7/16)
睡眠時間は3時間もなかったと思う。
だけど、睡眠不足で眠たいということはなかった。
僕は、今日勝負をかける。
アテネまでヒッチハイクで向かうのだ。
これが成功すれば50ドル以上のお金を節約することに成功する。ダメだったらシェンゲン協定のリミット内において貴重な時間が無駄が無為に過ぎていくだけだ。もしかしたら諦めてバスに乗るかもしれない。
ヒッチハイクの第一段階は町の外に出ることだ。そこまでのルートはヒッチハイク情報が書かれた「hitchwiki」というサイトで知ることができる。チェックしていたバスの番号を探すことから始めた。
バス停で待っている人に「KTELまで行きたいんですけど、◯番のバスってここに来ますか?」と現地の人に対して確認しておくことも忘れない。待っていたバス停が逆方向だなんてこともある(ていうか最初そうだった笑)郊外へ出るバスのターミナルまで行き、そこからヒッチハイクポイントの近くの村まで向かった。ここまでバス二本を乗り継いで1.8ユーロ(257yen)。
hitchwikiに書かれた情報によると「tolls」と呼ばれるハイウェイに入る車が料金を支払うゲートまで行けば車が捕まるらしい。きっとゲートを抜けて来た車はそこまで速度が出ていないということだろう。マップアプリでゲートの位置を
確認することはできなかったが、幹線道路に出ると遠くの方にその姿を確認することができた。
さあ、よいよここからが勝負だ。
幹線道路沿いをゲートに向かって歩いているとお~い!と呼ばれる声がした。振り返るとバックパックを背負ったおっちゃんが後ろから僕を追いかけてくる。
声をかけてきたのはオーストラリア出身だという50代くらいのバックパッカー。
この幹線道路で僕と同じようにアテネに向けヒッチハイクをするとのことだった。おっちゃんはギリシャの別の場所でもヒッチハイクしたことがあるらしい。その時は車が全然捕まらず、めちゃくちゃ歩かなければならなかったと苦労話を話してくれた。彼はギリシャのヒッチハイクを「teribble(ひどい)」と言った。彼はゲートとは反対方向でヒッチハイクをすると言って逆方向へと歩いていった。僕はサイトに書いてあったやり方でやってみるよとそれぞれ反対の方向へ歩いた。
ゲートの脇にはキャンピングカーのような簡素な売店があった。
ガードレールを簡単にまたげるようにブロックで高さが調整してある。そしてゲートの横には車が一時停車できるスペースがある。
ゲートを抜けて来る車の数は途切れることがなく、そこまでスピードを出してはいない。あとは車が僕の姿を見て、ここまで来て停車してくれるかどうかだ。停まりそうな予感がした。
僕は荷物をガードレールの脇に置くと、元気よく親指を立てた。
もちろん爽やかな笑みを浮かべて、フリーハンドを最大限に使うことを忘れない。
だが、ゲートを抜けた車たちは、速度を落とすどころか加速して走り出していった。トラックの運転手たちは運転席から手を横に振って乗車拒否のサインを送る。
あれ?おかしいな…。この一時停車スペースに他の車が停まっているから停車するスペースがないのかもしれないぞ…。
直射日光にさらされながら僕は一時間、車に向かって手を降り続けた。漂流者が無人島から遠くに見える船に対して手を振るかのように。
近くでさっきのおっちゃんがさっきからずっと立っていた。。
最初はゲートで働いている人かと思ったがそうではないようだ。後ろで手を組み、ヒッチハイクをしている様子でもない。一時停車スペースに停まっている車に話しかけているのを見ると、直接運転手に交渉するのがおっちゃんのスタイルのようだった。僕がアホみたいにヒッチハイクしている姿を見ておっちゃんが言う。
「オートストップ、ノー!」と彼は言う。ヒッチハイクのことを「オートストップ」と言う人もいるみたいだ。トルコでもヒッチハイクよりもオートストップの方がドライバーさんに通じることが多かった。「ここでヒッチハイクしても無駄だぞ!」ということなのだろうか?
僕がここで目立つ様な真似をしたら、おっちゃんが車をゲットできる可能性が下がる。僕をどこかに行かせるための嘘なのか?いやいや待てよ!ここでヒッチハイクできないなら、なんでおっちゃんはここにいるのだ?負けてられっかってんだ!ヒッチハイク続行だ!
逆におっちゃんの存在が、ここでのヒッチハイクの成功確率を少し上げてくれた。そう思うことにした。
だが、ドライバーの反応は先ほどと変わらない。
2時間近く親指を立てて、一台も「どこに行くの?」と訊いてくれた車がない。たぶん、僕が待ったヒッチハイクの最長時間はアルメニアで首都のエレバンまで行くのに待った1時間半だろう。今まで体験したことの無い2時間。
おれは一体、こんなところで2時間も何をやってるんだ???そもそもここってヒッチハイクできる場所なのか?サイトは英語だったし、アジア人の僕を乗せてくれるような車は現れるのか???
そんなふうにして手応えのないヒッチハイクをしていると近くの売店に立ち寄るために停まっていた車から出てきた人が僕に声をかけてきてくれた。
「ここから100kmのところにあるラミーアまでだったら乗せてってやるぞ?」この申し出に泣きそうだ。
お礼を言って車に乗り込んだ。
地獄で仏とはまさにこのことだ。
ドライバーさんはフェイミョスという60代のおっちゃんだった。初めてギリシャ人とまともに話をするかもしれない。どちらかと言えば真面目な感じな人で「いやぁ~!ドンドルマ最高っすよ~!」みたいなバカなトークはできなかった。あ、ここトルコじゃないんだった。
フェイミョスさんの話す英語はボキャブラリーも豊富で流暢だったが、クセがあって、時々なんて言っているのか聞き取れないことがあった。それでもポツリポツリと会話が弾んでいく。
「君はブッディストなのか?」
「まぁ、そうですね。家族の宗教というか。僕は宗教と言うよりは仏教の考え方にちょっと関心がある。そんなとろろです。フェイミョスさんの宗教はなんですか?」
「私に特別な宗教はないよ。強いて言うなら"グリース(ギリシャ人)"だ」
面白いなと思った。古代からの歴史があり、様々な思想や哲学を発展させて来たギリシャ。そこで生きるギリシャ人というアイデンティティが自分の信じるもの。そういうことなのかもしれない。
ギリシャのハイウェイはずっと平面で目の錯覚に陥ってしまうように
どこまでもまっすぐ伸びていた。
速度は100km以上出しているのにも関わらず、自分の乗っている車がスピードを出して走行しているようには思えなかった。
ガソリンスタンドとレストランがある場所で降ろしてもらった。
「色々面白いお話ができました。
お会いできてよかったです」
「あぁ、私もだよ」
お礼を言って手書きの名刺を渡し、フェイミョスさんとは別れた。
ガソリンスタンドに併設するレストランなどで売っている食べ物の値段は高い。
試食コーナーがあったので、ためらわずにお菓子をもらう。トイレは無料だ。
頭を洗い、Tシャツを脱いでハンドソープでもみ洗いした。個室トイレの中で濡れタオルを使って下半身を拭いて下着を履き替えると、まるでシャワーを浴びたようにさっぱりした。これならヒッチハイクもうまくいくだろう!
今回は作戦を変えることにした。
親指を立てるのではなく、直接ドライバーに交渉していくスタイルだ。「どちらの方がいいですかねぇ?」とフェイミョスさんに質問すると、運転手に直接交渉した方がいいよと言っていたのもある。
初めてのドライバーに直接話しかける交渉スタイル。今まではヒッチハイクしている自分に対してドライバーがレスポンスをくれたが、今回は自分からコンタクトをとっていかなければならない。ど、どうしよう。白い目で見られたら…。
近くに停まっていたトラックのおっちゃんに尋ねる。
「あ、あのぅっ!あ、アセーネ?アセネ?アテネ、行きます?」
「行かないよ!」
手を横に振り、さっさと出発してしまうトラック。
まず英語が通じるのか分からない。
てか「アテネに行きますか?」って
「Will you go to Athene?」でいいのか?
「to」いるっけ?
目的地が副詞の時はいらないんだよな?
それよりもギリシャ語でアテネって
どう発音するんだろう?
ぶつぶつと次の交渉に向けて自分のセリフを覚えた。
何度か他のトラックや乗用車にもアタックをしかけたが、行き先が違ったり、乗せてもらえなかったりした。
ガソリンスタンドにはツアーバスがやって来ては、20分くらいの休憩をはさんで出発していった。テッサロニキからアテネまで6時間くらいだっけなぁ?50ドルも出せばすぐに行けるのか..。はぁ。
焦っても仕方ない。ガソリンスタンドで自家製の桃を売るおっちゃんがいたので、それを買って食べた。
皮は歯で向いて、いびつな形をした桃にむしゃぶりついた。
いくつかはまだまだすっぱかった。焦ったってダメだ。このシチュエーションも楽しめるくらいじゃないと。
今日中にアテネにつければいい。到着できなくてもここで野宿できる。のんびり行こう。大丈夫さ。ガソリンスタンドの外にある椅子に座って、リラックスした気持ちで車を待った。
桃売りのおじちゃんは、同じテーブルで黙々とたばこを巻いていた。まとめて巻いて一気に吸うのが彼のスタイルなのだろう。
一応、乗用車にも声をかけていく。
できるだけ、フレンドリーで爽やに見えるように。
手を後ろで組むのは見栄えがよくないかな?できるだけドライバーさんと目線を合わせるために腰を曲げて口角上げて、「あ、そうなんですかぁ、目的地はアテネじゃないんすか。あざっす。失礼しまたぁ♪」みたいなフランクなノリで。
求められるのは演技力。相手が「乗ってく?」ってなるような立ち振る舞いをしないと。
「あの~、すいません、ヤーサス(こんにちは)。アテネ行かれます?ウィルユー、ゴートゥー、アセーナ?」
困ったような表情で手を横に振る助手席のおっちゃん。
「あぁ、そうですよね。ありがとうございました。エフハリスト(ありがとう)」
「どうしたの?」
運転席に座っていたおねーさんが英語で尋ねてきたくれた。同じ質問をする。
「いいわよ。私たちもアテネに行くの。乗せてってあげるわよ」
ってまじっすか!!!
車に乗っていたのはアテネの端の方に住むアリスとお父さんだった。職場から自宅へ帰る途中とのこと。時速130kmで車はハイウェイをぶっとばす。
この道を10年以上も走っているらしい。だから危なくなんてないわ~♪と超慣れ切った様子だ。
アリスも旅が好きということで会話がはずんだ。
ドイツに留学経験があり、オランダなど周辺の6~7カ国を訪れたこともあれば、アメリカに行ったことだってある。明日はクロアチアに短期旅行しに行くのだとか。
そんなアリスとお父さんの自宅はリッチな感じがした。車が3台もあった。自宅でお父さんを降ろしたあとは、メトロ乗り場まで僕を連れて行ってくれた。ありがとうございます。
僕も名刺を書いてアリスにプレゼントした。
ついにやって来てしまった。アテネ。
自分がまさかここに来るとは想像できなかった。世界史の教科書前半の方にでてきた、あの舞台だ。
メトロは一律1.4ユーロ(200yen)。2時間乗り降りが自由らしい。チケットを買ってプラットホームに行くと、やって来たメトロを見て驚いた。
一面に落書きがしてある。なんだこりゃ?
スプレーで描かれたグラフィティで、よく分からない英単語が形をくずして描かれている。車内にもちらほらと落書きがあった。
走り出したメトロから外の景色を見ると、アテネの町中に同じ様な落書きがしてあることがわかった。
『落書きされてない壁がないんじゃないか?』ってくらい。
これはきっと金融危機の影響なんだろうな。落書きが多い街って治安が悪そうだ…。
アリスから教えてもらった、パルテノン神殿に一番近い駅で降りた。
ひとまず腹ごしらえを済ませ、Wi-Fiにつなごうとパスコードを訊いた。観光地ということもあり、どこの飲食店でもWi-Fiフリーの文字を見つけることが出来る。だが、つないだWi-Fiじゃちっともページを読み込まない。バリ3なのに。遅いにもほどがあるシロモノだった。
諦めてその辺をプラプラ歩いた。
人通りはバスキングにうってつけのように思われたが、観光地ということもありレスポンスはほとんど入らない。そりゃパルテノンと僕の歌だったら、100人全員パルテノン行くだろう。まあいいさ!
にぎやかなお土産屋さんがある通りをバックパックを背負ったまま歩き、一日のシメはバーガー屋で日記を書いた。
ここでもWi-Fiはあったが、教えてもらった名前のWi-Fiを見つけることはできなかった。はいはい。分かりましたよ。ここじゃ使えないんですね。
最近のギリシャの出費を計算すると食費だけで1000円越えてしまっている。安いものばっかり食べてるけど、物価高いよ…。
観光地は夜遅くまでにぎやかだった。
公園が見つけられず、石出で来た階段の上にブルーシートを広げ、その上に寝袋を敷いた。
明日は宿をとろうかなぁ?
今日は自分でもびっくりするくらい移動した。上出来だ。
そして明日はあのパルテノン神殿だ…。
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