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「フェリーに乗ってイタリアを目指す from ギリシャ」
世界一周387日目(7/20)
三時間の睡眠から目覚めたのは公園のベンチの上。
昨日深夜に1ユーロをせびってくる不良2人にからまれて(てかなんで1ユーロなんだ!?)、町の中心からちょっと離れたところにある場所で寝たのだ。寝袋は使ってない。
荷物をまとめてフェリー乗り場の方へと歩き出した。
ここはギリシャの港町。パトナ。
そして僕は今日出発する。イタリアに向けて。
チケットは前日じゃないと買えないようだったので、
チケット売り場がオープンする9時半には
売り場に行こうと思う。
それまでー…、
「!!!
やばっ!トイレ行きたい…。
しかも大きい方…」
キャンプ少年の朝はトイレ探しから始まった。
8時前、しかも日曜日ときたもんだから全然カフェなんて開いていない。もしかしたら教会で使わせてもらえるんじゃないかと、大きな教会でトイレはどこですかとたずねた。
教会ではミサが行われていた。みんなで賛美歌のようなものを唄っていた。思わずそこに立ち尽くす。
旅をしていると、カメラに収められないようなシチュエーションがたくさんある。心の中にしまっておこう。
おっと!そうだトイレ行かんと!
神父さんはここにはトイレはないという。すぐ近くのカフェならやっているよと。どうやらミサが終わったあとに、みんながそこのカフェに行くそうなのだ。お礼を言って、カフェに駆け込み、トイレを使わせてもらった。
朝の早い時間だったので、お客さんも全然いない。これはチャンスだ。
すかさずお風呂セットをバックパックのサイドポケットから出して、僕は髪を洗い、上半身裸になって来ていたTシャツを石けんでもみ洗いした。
タオルを濡らして個室にこもる。下半身も濡れたタオルで拭けば完璧だ!ちゃんと下着も取り替えておこう。まるでシャワーを浴びたようだよ!ははは!
最近チャンスがあればこの作戦を使うようにしている。シャワーなしの生活だと、どうしてもジーンズを穿きっぱなしになってしまうことが多い。深夜の公園だったらジーンズからハーフパンツに履き替えて、汗をすったジーンズを裏返しにして干しておくくらいはできるだろう。だが、体の汚れを落とすには僕は濡れタオルで拭くことをお勧めしたい!(誰にだ!!??)使ったタオルはすぐさま水でゆすいげば問題なし。バックパックにでも括り付けておけばいい。
まぁ、こんな感じで僕の朝は始まったんだ。
漫画を描くのによさそうなカフェだったので、店員さんに荷物を預かってもらう。
フェリーのチケットを先に買ってしまおうとい作戦だ(なんか今日は作戦が多いな)いや、フェリー乗り場のカフェってさ、値段が高いんだよ。
Penny Boardとサブバッグだけ持って、パトナの町をクルージングする。1kmそこらの距離をスケートボードで滑るとあっという間だ。
9時前にはチケット売り場が開いていた。ターミナルには誰もいない。おねーさんに一番安く行けるイタリアの港町のチケットを売ってもらった。シーズンだということで先日聞いた45ユーロから値段がちょっと上がって54ユーロ(7,386yen)。この二日間で50ユーロは稼げていたので、まぁ、オッケーとしよう。船の出発は17時。一時間前には船に乗れるらしい。
再びさっきのカフェに戻って漫画を描いた。
町は相変わらずゴーストタウンみたいになっていた。土曜、日曜はみんなお休みなんだね。
てかカプチーノが4.5ユーロ(615yen)だなんて、くっそ。どこ行っても高いのかぁ。
切りのいい所で漫画製作を終え、フェリー乗り場へと向かった。
ほとんど人のいないパトナの町は、バックパックを背負ったままペニーでクルージングするのにうってつけだった。きっとフェリーの中で売っている食べ物は高いだろう。
近くの売店でパンとトマトを2つを2ユーロ(274yen)で買ってビニール袋をバックパックのサイドに取り付けた。
フェリー乗り場に着き、乗り込み開始の時間を待つ。ターミナルでは15人くらいの中国人の旅行者の一団がいた。責任者のような人がほかの中国人にフェリーのチケットを配る。
「君もあそこに並べばチケットが手に入るかもよ?」
たまたま居合わせたカナダ人の
おっちゃんバックパッカーが冗談っぽく言った。
「そしたらもらえない人が出ちゃうじゃないか」と僕は抗議した。
カナダ人のおっちゃんは退職後、世界を回っているらしい。最近日本語を話していないので、英語の会話が心なしかスムーズだった。きっと向こうもゆっくり喋ってくれているからこそ、そう感じるのだろう。
「さぁ、我々もフェリーに乗ろう!」
16時になって、僕とおっちゃんはターミナルから出ているバスに乗った。ほんの50mくらいの距離だったが、フェリーまでバスが出ているのだ。
「いやぁ、ワクワクするね!」
お互いに写真の撮りっこをする(その写真は今はない...) 。なんだか楽しい船出になりそうだ♪船にエスカレーターがついてるってすげなと思った。
船の乗組員が僕たちのチケットを確認する。
「お前の船はこっちじゃないぞ?」
「あれ?」
「ビディンディシならブルーの船だ」
「え?」
一時間前にまさかの船の乗り間違え。ダッシュで自分の乗る船へと走った。
イタリア語の港の名前なんて分からない。「一番安いの」って言って買ったんだもの。隣りに停泊していた船はグレードが落ちたものだった。車も積み込める船で大きかったが、乗客が航海中に過ごすスペースは2フロアーしかない。まぁ、僕の旅なんてそんなもんさ。
バックパックを背負ったままデッキまで上がった。
甲板は太陽に照りつけられて、とてもじゃないが座ってられないくらいに熱を帯びていた。日陰でぼっとする。
そうだな。洗濯物もすぐに乾くかもしれない。トイレでジーンズを洗濯してデッキに干した。
そうだ。僕の旅の始まりも船だった。飛行機よりも船が好きだ。ちなみにイタリアまで15時間かかるらしい。それでもその時間が僕に旅をしているという実感を与えてくる。
船はゆっくりと港を離れ、速度をつけると、潮風が強く吹いた。
トラックのドライバーのおっちゃんが僕に話しかけて来た。彼は月に5~6回、こうしてフェリーでイタリアとギリシャを行き来するらしい。
「もしかしたらイルカが見れるかもしれないよ」
「ほんとですか?」
「ああ。イルカが船を追い越さずに
並んで泳いでいけばその船の航海は
うまくいくとされているんだ。
もしイルカが船を追い越していった場合、
その船の航海はうまくいかない。
そういう言い伝えがあるんだよ」
「へ~」
おっちゃんは英語で僕にそう教えてくれた。
たぶんこんな話だったと思う。二人でイルカを探したが、それらしき姿を見つけることはできなかった。
潮風が髪をクシャクシャにした。
ジーンズが乾き、海を眺めるのに飽きてしまうと、僕はフロアーに戻ってソファの上で繕いものをした。
トラックのおっちゃんが船から見る夕日が綺麗だよと教えてくれたので、20時を過ぎると僕は再びデッキに上がった。
夕日はどこで見たって綺麗だ。
ありきたりなことしか言えないけど、心からそう思う。
旅をしていないとここまで感受性が豊かになることはなかったかもしれない。
夕日に向かって走るフェリー。
このシチュエーションは完璧だ。船を選んでよかった。
潮風に長いこと晒されていると、体がベトベトした。太陽が水平線の彼方へ沈み切ったのを見届けて、僕はフロアーに戻った。
船内にはもちろん個室もあったが、それはもうちょっと高いチケットを買った人のためだ。部屋のない乗客が時間を過ごす大きな部屋もあった。まるで映画館のように一方通行を向いた座席が何台も列を成していた。横になれそうじゃないな。
フロアーの外にあるソファで時間を過ごす。コンセントも見つけられた。
パソコンを広げ、昨日パトナのカフェでダウンロードした映画を見る。
「オンザ・ロード」という映画だ。
ジャック・ケルアックというアメリカの作家が作った話だ。当時のアメリカの若者たちに影響を与えまくった伝説的小説らしい。ジャズや酒やマリファナ。そして旅。読者に新しいライフスタイルを提示した小説だ。
瞬間、瞬間を刹那的に生きる流星のような生き様のキャラクターたちが言うのは「人生楽しんだもん勝ち」だということ。彼らは飲んだくれて、マリファナを吸いまくり、ジャズでタテノリし、車であてもなくアメリカ中を旅する。
僕はこの小説を大学生の時に読んだ。最初はペーパーバックで。裏のあらすじを読んだら面白そうだったから。主人公がアメリカ中をあっちこっち旅するし、英語のスラングみたいなのも全然わからなかった。分かりもしないのに根性で読み切った。後で訳書を買って、読み直した。それでも、キーパーソンのディーン・モリアーティがどんなヤツだったかよく分からなかった。
そして今回は映画で。つまり僕はこの話を3回読んだことになる。やっと「オンザ・ロード」の世界が自分の中に落ちて来た。あぁ、こういうことだったんだなって。映画ってすごいよね。映像でその世界を伝えることができるんだから。
僕は「オンザ・ロード」が大好きだ。コイツらのように僕は旅をすることはできない。だからかもしれない。
そしていつも、『旅っていいな』そう思うのだ。
そんな漫画が描きたい。
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