読むナビDJ 3:キューバ音楽の新潮流 - 過去記事アーカイブ
キューバ音楽といえば、これまでに何度もブームが起こっている。さかのぼれば、50年代のマンボだったり、90年代の「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」だったり。そして、サルサやボレロといった、いわゆるラテン的なイメージも根強い。
しかし、ここ10数年の間に出てきた新世代アーティストは、そういった伝統を重んじつつも、新しいキューバの音楽を提案している。いわゆるラテン音楽と呼ばれるものも多いし、ロック、ジャズ、ファンク、エレクトロニカなどジャンルはバラバラではあるが、欧米の音楽エッセンスを絶妙に取り込みつつも、キューバでしか生まれ得ない独自の音楽に昇華しているのだ。
ここでは、現在進行形のキューバ音楽を知るための10組を紹介しよう。いつまでもおじいちゃんたちが主役ではないということを認識の上、じっくりとご堪能いただきたい。
Yusa「Flash」
最初に新潮流を感じられたのは、ジューサかもしれない。2002年のデビュー作『ジューサ』がヨーロッパで話題になり、日本でもロングセールスを記録。アフロヘアーを振り乱しながら男性顔負けのパフォーマンスと、ファンキーかつコンテンポラリーなリズムにキューバ音楽をミックスした独自のヴォーカル・スタイル。そして、ギターだけでなくマルチ・インスト奏者としても超絶技巧を持った才能もすごい。近年はブエノスアイレスで活動しており、来日公演もしばしば行っている。
Interactivo「Que No Pare El Pare」
ジューサが密接に関わっていたのが、キューバの新潮流を代表するグループ、インテラクティボ。ソロ活動だけでなく、様々なアーティストのプロデュースで気を吐くロベルト・カルカセースを中心に、流動的なメンバー構成で多くのミュージシャンを起用してきた。ベースはファンクやロックだが、ラテン・ジャズやソン、ヒップ・ホップなども巧みに取り入れ、一筋縄ではいかないミクスチャーな世界を構築している。シンガー・ソングライターのフランシス・デル・リオや女性ラッパーのテルマリーなども輩出。
Francis Del Río「Los Amigos」
インテラクティボのメイン・ヴォーカリストとしてフィーチャーされたフランシス・デル・リオは、まさに新世代アーティストの代表といってもいい活躍ぶり。ブルージーな味わいのヴォーカルが、最新のサウンドに乗せてもどこか土臭く感じられるのが魅力だ。この「Los Amigos」も、デジタルな感覚と生々しさがミックスされた独特のサウンド。ジャイルス・ピーターソンにも評価されたこともあって、キューバ音楽ファンだけでなく、クラブ・ミュージック・ファンからも注目されている。
Telmary「Que Equivoca'o」
テルマリーもインテラクティボ人脈の重要人物のひとり。キューバには何人か女性ラッパーがいるが、その先駆けでありその後のヒップホップ・シーンに大きな影響を与えている。低めのクールな声で淡々とライムを繰り出す姿は、ラップというよりもポエトリー・リーディングに近い印象。この個性的なスタイルが世界的に受けて、スペインのオホス・デ・ブルッホや、U.F.O.のラファエル・セバーグなど国境やジャンルを超えたミュージシャンからもラブコールを受け、数多くの楽曲にフィーチャーされている。
Orishas「537 C.U.B.A.」
キューバのヒップホップということでいえば、オリーシャスは絶対に外せない。99年に結成され、キューバの民間信仰であるサンテリーアの影響を押し出しながら、スピリチュアルな部分と下世話な雰囲気のバランスで、ワールドワイドに活躍した。惜しくも09年に解散するが、メンバーはそれぞれ独自新たなプロジェクトを立ち上げて活動中。この「537 C.U.B.A.」は、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブでおなじみ「Chan Chan」をベースにしたキューバらしい代表曲。
Kelvis Ochoa「Sedúceme」
05年に制作された音楽映画『ハバナ・ブルース』は、日本でも公開され少し話題になった。この映画にも出演し、大いに注目を集めたのがケルビス・オチョア。彼もロックやファンクを取り入れたラテン・サウンドとエモーショナルなヴォーカルで人気を得て、自身のバンド、アバナ・アビエルタを率いて積極的なライヴ活動を行っている。最近でもオムニバス映画『セブン・デイズ・イン・ハバナ』にも出演し、再注目を浴びたばかり。ライオンのように髪を振り乱して盛り上がる姿も強烈だ。
Roberto Fonseca「80's」
ジャズ・シーンに目を向けると、これまた面白いミュージシャンがたくさんいる。しかし、頭ひとつ飛び抜けているのが、ピアニストのロベルト・フォンセカだろう。ブエナ・ビスタ系のシンガーのサポートなどで腕を磨いたが、ソロ・アーティストとしても力作アルバムを連発。なかでも最新作の『Yo』(2012年)は、アフロとラテンが絡み合うように融合した最高傑作で、ジャズという枠を取り払いワールド・ミュージックからクラブ・ミュージックまでに対応できる革新的なサウンドを生み出している。
Danay Suárez「Yo Aprendí」
ロベルト・フォンセカも参加したのが、英国のDJジャイルス・ピーターソンによるキューバ音楽プロジェクトのハバナ・カルチューラ。そのなかでひときわ印象に残るシンガーがダナイ・スアレス。プログラミングされたビートに乗せ、シンガー兼ラッパーという両刀使いを武器に、社会派のメッセージも数多く歌っている。テルマリーやジューサの良さをうまく引き継いでいるが、レゲエ、R&B、ヒップホップなど幅広く、どんなジャンルでも対応可能な力強い歌声で魅了する。
DJoy de Cuba「Deambulando」
同じくハバナ・カルチューラに参加して話題になったひとりが、このジョイバン・ゲバラことディージョイ・デ・クーバ。97年からDJ活動を始めたことで、キューバのレイヴ・カルチャーの第一人者としてテクノ、ハウス、ドラムンベースなどをキューバの音楽シーンに持ち込んだ。実はキューバでは他の中南米諸国に比べるとクラブ・ミュージックのクリエイターが少ないのだが、彼の行う活動はジャズやロックなどと絶妙に絡み合い、キューバ音楽のひとつの未来形を示している。
Mala「Cuba Electronic」
番外編として、マーラによるキューバ音楽へのアプローチも入れておきたい。UKのDJユニット、デジタル・ミスティックズのメンバーであり、ダブ・ステップのクリエイターであるマーラが、ジャイルス・ピーターソンとキューバを訪れて音源を採集し、解体再構築を繰り返して作り上げたアッパーなビート。要素としてはキューバなのに、ラテン的な感情表現をすべてはぎ取り、徹底してクールな作品に仕上げている。本作がキューバに逆輸入されることで、また新たなキューバ音楽が生まれそうだ。