豊かな世界を作るためのウェルビーイング入門【POOLOレポート・前野隆司さん】
みなさん、こんにちは!TABIPPOライターの西嶋です。
今回は自分と世界の豊かさをつくるニューノーマルトラベラーが育つ学校「POOLO」で行われた講義の様子をレポートします。
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さて今回は、1月15日にオンラインで行われた講義 「ウェルビーイングを高める旅の形」の様子をレポートします。登壇者は、幸福学の第一人者、前野隆司さんです。
登壇者:前野隆司さん
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
“happiness”と「幸せ」、“Well-being”はどう違う?
幸せって、英語でなんと言うでしょうか?
“happiness”という単語を思い浮かべる人も多いでしょう。“happiness”は感情としての幸せ、短期的な幸せをさします。旅に行って楽しくてニコニコするのは“happiness”です。
一方で「つらいことや大変なこともあったけど、幸せな人生だったな」としみじみ言うとき、顔はニコニコしていないはず。でもこれも同じ「幸せ」です。
つまり「幸せ」とは、短期的な幸福感から数十年スパンの「いい心の状態」までをカバーします。“happiness”と幸せは決して同じではなく、幸せのほうがより広い概念なのです。
では、今回の講義のテーマにもなっている“Well-being”はどういう状態か。これは「身体的、精神的、社会的に良好な状態」です。
“Well-being”は幸せよりもさらに広い概念。仕事に没頭している、やる気がある、チャレンジ精神にあふれている、夢や思いやりがある――。こうした状態が“Well-being”です。
幸せな人は仕事ができる⁉
幸福感と仕事のパフォーマンスには、大きな関係があります。
『ハーバードビジネスレビュー』の2012年5月号によると、幸福度の高い社員の創造性は3倍高く、生産性は31%高く、売上は37%高いことがわかったそう。また欠勤率が41%低く、離職率が59%低く、業務上の事故は70%低くなるという結果も出ているのだといいます。
みなさんと同じように、僕も旅が大好きです。旅に出ると、顔がゆるみますよね。顔がゆるんでいるとき、つまり笑顔になっているときは、セロトニンやオキシトシンという「幸せホルモン」が分泌されます。笑顔になることで、より幸せになるのです。
とはいえ近年、なかなか旅ができにくくなっています。そんなときは自然に触れましょう。公園を散歩するだけで幸福感が高まるという研究もあります。散歩も小さな「旅」ですよね。
幸せにつながる消費、つながりにくい消費
幸福感と消費の関係について、著書『幸せのメカニズム』では、次のような研究結果を紹介しました。
・テレビや服などの物質的消費よりも、コンサートや旅行などの体験的な消費の方が、幸福感に強く影響する
・スポーツ活動、社交クラブ、音楽・演劇団体、スポーツチームへの参加といったグループ活動は主観的幸福と相関があり、抑うつや不安を低減する
つまり「旅をする」という体験的な消費は、幸福感アップに効果抜群!グループ活動として、友人や家族と旅をするのもいいですね。もちろん一人旅をして、現地での出会いを楽しむのもいいでしょう。
また幸福学には、以下の2種類の幸せがあります。
「高価な洋服を手に入れれば幸せになれる」と思うかもしれませんが、洋服は「地位財」なので、そこから得られる幸せは長続きしません。友人がもっと高価な洋服を買ったことがわかれば、その幸せはあっという間に消えてしまいます。
一方、「非地位財」型の幸せは長続きします。旅で得られる幸せは、まさに「非地位財」型の幸せに該当するのです。
幸せの4つの因子
僕の研究では、幸せを導く4つの因子を明らかにしました。
これらの因子は、旅によって満たせそうですよね。あなたの旅はこれらの因子を、どのように満たしてくれるでしょうか?
次からは、みなさんの質問に答えていきましょう。
Q. SNSを見ては、すごい人と比べて劣等感を抱いてしまいます。人と自分を比べずに、自分軸を持って生きる方法を知りたいです。
まずおすすめしたいのは、SNS断ちをすること。対症療法として有効でしょう。
もうひとつは、劣等感をバネにして自分の強みを磨くこと。僕自身、20歳の頃は何の強みもありませんでした。コツコツ仕事をするうちに、小さな分野の中で一流と呼んでもらえるようになり、やがて次の山でも一流をめざしてコツコツ……と繰り返していくうちに、「幸福学の第一人者」と呼んでもらえるようになったのです。
加えて覚えておいてほしいのは、人生はエクスポネンシャル(exponential:指数関数的)だということです。時間はかかりますが、取り組んでいるうちにじわじわと力がついてくるはず。
もちろん、若いうちから抜きんでている人もたくさんいます。そうした人たちをねたんでも仕方ない。スピードは人によって違いますし、人生100年時代ですから、ゆっくりいきましょう。そもそも「すごい人と比べて劣等感を抱いている」と自覚していることがすばらしいと思いますよ!
Q. コロナ禍の社会では、体験的消費が制限されて、物質的消費へと流れているように思います……。
旅などの体験的消費がしづらくなってしまいましたよね。ならば、創造性や感性を使った体験をしてみてはいかがでしょうか。
僕は写真が趣味です。春には、近所の公園を散歩しながら写真を撮るだけで幸せな気持ちになります。
僕の周りでは、茶道や華道などといった「道」にハマっている人も多く見かけますね。僕も書道をはじめました。自分の内面を見つめることに幸せを感じるのでしょう。
Q. 「ありがとう因子」は多様性がキーワードになっていました。気の合わない人や苦手な人とも我慢して付き合ったほうが幸せになるのでしょうか?
我慢できる範囲で我慢する。これがベストです!多様性を確保すればするほど幸せになれるので、気の合わない人とあえてかかわってみるのはおすすめです。かかわっていくうちに、相手の気持ちがわかるようになっていくはず。
しかし、攻めすぎるとストレスになることも。絶対にわかりあえないなら、それ以上近づくのはやめましょう。
学術的に考えると、ギリギリ耐えられる範囲なら、できる限りチャレンジしたほうがいい。絶対できないことはやめたほうがいいし、楽勝でできることはやらなくていいんです。
相手にムッとしたら、「どうしてそんなに強気でいらっしゃるんですか?」とギリギリのラインを攻めてもいいかもしれませんよ(笑)。「攻めすぎたかな」「やっぱりダメだ」と思ったら「ちょっと用事があるんで失礼します」と言って退散してしまえばいいんですから!
最後に前野さんから、「ぜひみなさん、幸せに生きてください。挫折も失敗も、すべて経験、強みになります」とアドバイスをいただきました。前野さん、ありがとうございました!
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