土と内臓
ここの所、稲の多年草化栽培と共生農法に関わっています。いずれも土を耕さない不耕起栽培です。共生農法では植物が混んでいる部分を間引きしてみんなでいただきますが、根から引き抜くことはせずに、土の近くをハサミや鎌で切る方法で収穫します。
この本の内容は不耕起栽培の価値や伝統的な食事の意義を示しています。
写真は4月の共生農法畑のものです。
『土と内臓 微生物がつくる世界』
デイビッド・モントゴメリー アン・ビクレー著 片岡夏実訳 2016年
人類は微生物に注意を払って来なかった。見えないから。
細菌は環境からDNAを自分自身のゲノムに取り込んで進化し環境に適応してきた。
微生物は複数の種が作る群落の中でコロニーとして生活している。
微生物は必要なアミノ酸を作るのに大気中の窒素を捕らえている。
ミトコンドリアと葉緑体は細胞内共生によるもの。
マメ科の根粒に棲息する微生物が、大気中の窒素を植物が吸収・利用できるアンモニウムイオンに変換している。
土壌に栄養を与えれば農家は化学肥料を捨てることができる。
ミミズの数が増えていれば、土が健康であるしるしだ。ミミズは腸内で土を有機物と混ぜて新しく作りかえ、植物が使える養分を含ませて土壌に戻している。
植物と菌類の共生関係には、どちらか片方だけでは生きられないほど強固なものもある。特定の木とキノコの関係などである。
菌糸による森林のネットワークは地球上で最大の生命体で、数キロメートルにおよぶ網目を地下に張り巡らせる。ティースプーン一杯の肥沃な土壌には、八百メートルもの菌糸が含まれることがある。
植物の世界は、人類が登場するはるか昔から自給していた。
私たちはみんな、別の生物の生態系の寄せ集めなのだ。微生物は人間の遺伝子のレパートリーを増やしている。微生物の遺伝子のおかげで、人間は免疫、消化、神経系の健康に重要な必須栄養を吸収できる。
体内の微生物の細胞は、私たちの体細胞の数を大幅に上回っている。非病原体は病原性微生物を、体内外どちらの環境でも、楽に数で圧倒する。私たちの免疫細胞は、味方と病原体を選り分ける目覚ましい監視能力を、免疫系に与える。
微生物が免疫系のはたらきを助けている。
昔から薬効があると考えられてきた食品、特に全粒穀物、ナガイモ、ニガウリなどを中心とした伝統的な食事に戻すと、腸内細菌叢に変化がみられ、余分な体重が落ちる。
脂肪は単純ではない。かつて体脂肪は周期的に起こる不作、あるいは野生動物や食用植物の不足の際に役に立った。食事性脂肪は必ずしも体脂肪を増やすわけではない。しかしブドウ糖、つまり糖質の過多は体脂肪のもとだ。
脂肪組織は、血糖やホルモンの調節から免疫まで、あらゆる役割を果たしている。脂肪細胞もサイトカインを作る。サイトカインは免疫細胞が互いに情報を伝達するための信号分子である。あるは食欲、血圧調節、インスリン分泌に関係する。こうしたサイトカインはホルモンに似た働きをするので、脂肪細胞は第二の内分泌系にたとえられる。
脂肪組織もマクロファージやT細胞のような免疫細胞を持っている。
世界中の大半の人々にとって、これまで常に、そしておそらくこれからも、植物が主要なプレバイオティクス源だ。人類にとって重要な穀物は、イネ科植物の種子だ。それはセルロースに富み、他の発酵性糖質も少しだが含んでいる。全粒の形で食べれば、素晴らしいプレバイオティクスになるが、精製すると単糖になって、大腸に届く前に吸収されてしまう。
菌根は植物による微量栄養素の吸収を非常に活発にすることで知られている。有機農法と慣行農法で育てたコムギを比較したところ、慣行農法にもとづいた施肥は収穫量とリンの含有量を上げるだけでなく、亜鉛の取り込みを減らすことがわかった。
原因は何か?根に定着する菌根菌が劇的に減ったことだ。菌根は植物の根と共生する理由を失い、植物は微量栄養素配達サービスを失ってしまった。これが慣行農法で栽培したコムギの亜鉛含有量が、隣の畑の有機コムギより少なかった理由だ。
耕起方法は土壌微生物群集の構成に影響する。不耕起栽培では、くわで耕すのをやめて、代わりに地面に穴を開けて種を植え、前に栽培した作物の残渣を畑に残すことで浸食を減らして土壌有機物の増やす。この方法は土壌生物への物理的な衝撃もかなり減らし、有益な菌根菌を増やす。おそらくこれが不耕起栽培で育てたジャガイモが、慣行どおり耕した畑のものより病原性の菌類に影響を受けにくい理由だろう。
ヒトマイクロバイオームが私たちの免疫機構に欠かせないように、植物の根の内部やまわりに棲む微生物は、植物の防御機構のために欠かせないものだ。
植物の根を、根圏も何もかも一緒に裏返したとすれば、それが消化管に似ていることに気づくだろう。この二つは多くの点で平行宇宙だ。土壌、根、根圏をまとめた生命活動とプロセスは、腸の粘膜内層と関連する免疫組織と鏡写しだ。
消化管の細胞が腸内微生物と相互作用し、根細胞は土壌微生物と取引をする。人間界と植物界は共通する主題を持つ――微生物との活発な伝達と交流だ。
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