【さかばなし24】香箱蟹
「さかばなし」は、酒場(さかば)であった、ちょっとしたエピソード(はなし)について綴っています。「さかば」の「はなし」で、「さかばなし」です。
年末年始、東京で過ごし、最終日の夕方、さあ盛岡へ帰ろうと思い東京駅構内に入った途端、新幹線が止まった。システムトラブルかなにからしく、そうこうするうちに、2時間近く経過した。
JRの駅員に尋ねるも「復旧の目処は立っていません」とのことで、途方に暮れた。東京駅にとどまって復旧を待つべきか、この日盛岡に帰るのは諦めて宿泊場所を確保するか、逡巡した。
妻子を連れて東京に来ていたため、もう一泊するとなると宿泊費が嵩むし、なにしろ正月三が日の最終日1月3日。翌日は仕事始めになるので、なんとしても帰らなければならなかったので、とりあえず待てるだけ待ってみようということになった。
東京駅は人でごった返しており、運休再開を待つにもそのスペースを見つけるのも一苦労だった。それと、徐々に空腹を感じ始めていた。
とりあえず座れる場所を探そうと、「グランスタ八重北」へ移動してみる。飲食店が集まっていて、どこの店も混み合っていたが、なんとか一軒の居酒屋に空きテーブルがあるのを見つけ、そこに入店する。
いつ新幹線が動き出すかわからずやきもきしていたが、居酒屋の雰囲気に身を置くと、少しリラックスできた。まずは生ビールを注文し、それを呑み喉を潤す。
メニューをめくると、海鮮に強い居酒屋らしく、わたしの気を惹く料理が並ぶ。
こんな時だから、とおすすめメニューに載っている香箱蟹を注文する。値段は張るが、今が旬だ。北陸の冬の味覚。ずわいがにのメス。内子・蟹味噌・外子と楽しめる、贅沢な一品。
酒は「勝駒」。同じく北陸富山の銘酒。近年プレミアム価格で取引される、超人気酒。
新幹線が止まったのは本当に計算外で精神的には少々こたえるが、それでも想定していなかった香箱蟹と「勝駒」を味わえたのは、望外の喜び。ついているのかついていないのかわからないが、「そこに居酒屋があって良かった」と思えたひと時だった。
それから1時間後、新幹線が動き始めたとアナウンスがあり、新幹線に飛び乗って、無事盛岡へ戻ってこられたのだった。
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