【日本橋人形町】甘酒横丁「笹新」にて酒場の真髄を体感した晩秋の夕暮れ時 2022年11月30日(水)
ちょうど1年ぐらい前に人形町甘酒横丁「笹新」を訪れたときの記録です。いや、噂に違わぬ、素晴らしい酒場でした。
注)こちら、2022年11月の記事になっています。
11月30日。もう12月になるというのに、東京は蒸し暑く、気温は20度を上回り、半袖姿で歩く人すらいました。
朝の気温が氷点下を下回り始めた北国・盛岡から上京したわたしは、高めの気温を見越して薄着で来たつもりでしたが、それでも暑くてじっとりと汗をかいてしまいました。
今回は出張で東京を訪れており、本来用務は翌日12月1日の朝一番となっていたので、前乗りして、本来用務の前日の夕方に東京入りしていました。
一緒に出張することになっていた上司が一番遅い新幹線でやってくるというので、早めに東京に到着したわたしは、馬喰町の東横INNにチェックインし、薄暗くなり始めた人形町へ向かい、「上司が来る前に一杯呑っとくか」と、お目当ての「笹新」へ辿り着きました。こちら、16時から開店しているらしく、到着した時点ですでに店内の半分の席は先客で埋まっていました。
「一人です」と人差し指を一本立てながら告げると、カウンター席を進められ、そちらに腰掛けつつ「「沢の鶴」の大徳利(900円)ぬる燗。それときじはた刺し(950円)と真鰯土佐酢がけ(750円)をください」と間髪入れずに伝えます。酒場でのスピード感、大事です。
ほどなくして出てきた「沢の鶴」のぬる燗は、ほんのり甘く、そしてすぱりと切れます。しかし、こういう東京の老舗酒場で供されるナショナルブランドの日本酒は、いつもとても美味しいように思えます。
「地酒ブーム」などとも言われ、ここ20年くらい地方の小さな蔵が醸す個性的な酒にスポットが当てられ、大量生産・大量流通の大手の酒は一方でどこか軽く見られる傾向にあるように思われますが、こうしてきちんと向かい合ってみると、さすがの技術力というのでしょうか、品質管理力というのでしょうか、安定的・長期的に美味しい酒を醸している大手のメーカーには、大手だからこその良さがあることがよくわかります。
「菊正宗」「剣菱」「月桂冠」「大関」「松竹梅」「白鷹」などなど、そしてこの「沢の鶴」など、いわゆるローカルとは縁遠い酒も、しっかり安心価格で呑ませてくれるのが、東京の実力派酒場という印象があります。
さて、この「笹新」は、大正4年に酒屋として商売をはじめ、その後居酒屋も経営することになったという歴史ある酒場であり、人形町、いや日本橋界隈でも屈指の名店と言われています。
そう考えると、16時開店に並んで訪れる客がいる中、17時半ぐらいに座れたことはコロナ禍であるとは言っても、運が良かったのかもしれません。
さて、目の前で調理された肴が供され、ますます「沢の鶴」が美味しくなります。きじはたの刺身は、さすが高級魚だけあって上品かつ奥深い味わい、一切れ一切れ満足度が高かったです。
なお、卓上の醤油はキッコーマン。いわゆる千葉は野田の伝統ある醤油です。亀甲萬と書いて、キッコーマン。こちらも安心の味わい。刺身によく合います。安定安心の味わいの醤油です。
真鰯土佐酢がけが提供されました。これがまた絶品です。
真鰯はたっぷりの薬味とよく混ぜ合わせていただきます。きのこ類、茗荷、パプリカなどなど色鮮やかな付け合わせの薬味と脂の乗った真鰯に土佐酢がよく合い、ますます「沢の鶴」がすすみます。
なお、この店は写真撮影禁止ではないですが、他の客などが映り込まないようにするというのがルール。他の客も、ルールをわかって手元の料理や酒を至近距離で撮影しています。
店内の雰囲気はというと、みな常連なのでしょうか、客たちは静かに酒と肴を楽しんでいます。まさに大人のための、落ち着いた雰囲気の酒場です。
「沢の鶴」を呑み干したので、全国の地酒から、「臥龍梅」の小徳利を注文します。全国の地酒は、大徳利1,300円、小徳利750円、グラス600円となっています。
「臥龍梅」は久しぶりに呑みましたが、爽やかな甘みと香りが、とても好ましい酒であり、やはり美味いです。いい酒です。
名物だというポテトサラダは350円。素朴・質素な味わいで、とても懐かしさを憶えます。
ハムやベーコンではなく、刻んだ魚肉ソーセージが味わい深さを演出しており、派手さはないですが、しみじみと美味しいポテトサラダです。決して酒の味わいを邪魔しないバランスで、人気があるのがよくわかります。ついついお代わりしそうになりました。
ポテトサラダを食べ切ってしまい、口寂しくなって、まぐろの皮にポン酢(500円)をかけた珍しいツマミを注文してみます。こりこり、ぷにぷにとした食感の鮪の皮は、当然だけど鮪のアノ食欲が湧く少し動物的な匂いがしており、それがまたいい風味です。
ほんの少しの脂を「臥龍梅」で流しながら食べ進めると、これがまた恍惚となる旨さです。酒場のツマミとしては、まさに一級品と言えましょう。
さて、ということで、どストレートの刺身(きじはた)、酢のもの(真鰯)、惣菜系(ポテトサラダ)、珍味系(鮪皮)と来ましたから、そろそろ焼き物や煮物に行きたい気分になってきました。
酒も次の一杯をチョイスし、もっともっと「笹新」の核心に触れていきたいと思い、高揚してきました。
が、なんと、遅く東京入りするはずだった上司から連絡があり、「早めに着いたから、今から一緒に呑もう」ということになりました。。。
いたしかたなし。上司の申し出を無下に断ることなどわたしにはできないのです。しがないサラリーマンの宿命です。
会計をすると4,000円ちょっとととてもお安いではありませんか。このあたりも下町酒場の良さでもあります。
心残りはありましたが、会計をして後ろ髪引かれながら店を後にします。暗くなった人形横丁を離れ、上司が待つ東日本橋方面へいそいそと歩いて向かったのでした。
いや、最高のひと時でした。絶対に再来訪したいものです。
(おわり)