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【さかばなし09】星に願いを

「さかばなし」は、酒場(さかば)であった、ちょっとしたエピソード(はなし)について綴っています。「さかば」の「はなし」で、「さかばなし」です。


とある年の7月、吉祥寺駅にいた。夕方から、東京で活動しているシンガーソングライターの友人と、「いせや 公園店」で一杯呑ることにしていた。

駅を出て、ハモニカ横丁に向かい、どこかで時間をつぶそうと開いている酒場を探した。まだ早い時間、支度中の店ばかりだった。

ようやく一軒、暖簾が揺れる酒場を見つけた。ハモニカ横丁で50年以上酔客を迎えてきた老舗酒場「美舟」。

やってますか、と暖簾をくぐり戸が開け放たれた店内に進むと、「どうぞ」と女性店員が迎えてくれた。カウンター席に腰を下ろし、瓶ビールを注文する。

「いせや」で焼き鳥を食べることにしていたから、串焼きは避けてシラスおろしと冷やしトマトを注文する。

瓶ビールを空にして、日本酒「多満自慢」を一合もらい、つまみを食べながらぼーっと中空に目をやる。

と、その先に「あん肝おかわり」という文字が目に飛び込んできた。文字は短冊に書かれて、その短冊は笹の葉に結われていた。そういえば、七夕が近かった。

思わずくすり。酔った客が書いたものだろうが、なんとも気の利いた願い事だ。
星に願いを。どうか、酒場好きの同胞のその願いがかないますように。

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