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休日勤務のご褒美は『十割蕎麦』と『今西』


⚪︎遅い昼食は蕎麦屋で

とある土曜日のことです。溜まっていた仕事を片付けに、午前10時過ぎに職場に出勤し、寒いオフィスでひとり黙々と仕事をしました。

午後1時半ぐらいに仕事を切り上げ、外に出ます。びゅうびゅうと乾いた冷たい風が鳴いていて、思わず首をすくめます。

歩きながら、「あ、そうだ、昼食がまだだった」と気づき、久しぶりに大通界隈でランチでもしようと、街中方面へ足を向けました。

選んだ店は、菜園にある「蕎麦 金時」です。カジュアルに十割蕎麦を楽しめる、人気蕎麦店です。ゆらゆら風に揺れる暖簾をくぐり、店内に進みます。

少し歩いて店に到着したのは午後2時過ぎ。暖簾をくぐると二組のカップルがテーブル席で蕎麦を手繰っています。

「いらっしゃいませ、お好きな席をどうぞ」と女性店員にカウンター席を勧められます。

4人がけのテーブル席が4つくらい、カウター席が7、8席となっていて、広すぎず狭すぎずの店内。

清潔感があって女性一人でも入りやすい雰囲気です。

ジャズでしょうか、落ち着いたBGMも蕎麦店らしからぬ、洒落た空気感を生み出していて好印象です。柔らかいピアノ音が、心地よく静かに流れています。

カウンター席に腰を下ろし、休日出勤した自分を労うことにして、「サッポロ赤星ください」と女性店員に声をかけ、とまずは喉を潤すことにします。

ぽんっと栓を抜かれたサッポロ赤星が、グラスとともに目の前に供され、それを手酌でぐいぐいっと一口二口。「ぷっはーーーー」と思わず声が漏れそうになりますが、大衆酒場の雰囲気ではありませんので、自重して、「ウンウン」と小さく頷きます。

1時間前には、寒いオフィスで肩をすぼめ働いていたことを思うと、このジャズが流れる暖かい店内での安心感が、なにより嬉しく思えました。

メニューに丁寧なそばの説明

⚪︎そばは新そば、常陸秋そば

なお、瓶ビールは中瓶で700円。ほかにスーパードライもありますし、ウイスキーや焼酎、レモンサワー、そして当然日本酒なども揃っています。

サッポロラガービール「赤星」

そばが茹で上がるまで手元のメニューに目を通します。店主一人で調理しているため、料理の提供に時間がかかる場合がある旨の説明があります。

食事メニュー

そば自体は、つなぎを一切使わない、いわゆる「十割そば」で、時期によってそば粉の産地を替え、風味や食感の違いを感じてもらいたい、といったような趣旨のことも書かれています。

この日は、茨城県桜川市常陸秋そばということで、もちろん新そばを用いているようです。

なお、この日は食べていませんが、「岩手鴨」を使っているところも売りのようです。「良質な赤身と脂の旨みをお楽しみください」とメニューにあります。

もりそば

もりそばは750円。ほんのり、うっすらと緑がかったそばが食欲をそそります。薬味は刻みネギ、紅葉おろし、練りわさび。大根漬けがふた切れついています。

鰹節の風味が強い、塩気がちょうど良いつゆにそばをつけ、一口二口とすすっていくと、想像していたとおりの、そばの芳しさが鼻を突き抜けます。

気づくと、周りの他の客も同じように「ずずっ、ずずっ」とそばをすすり、「やっぱり美味しいねえ」といった声が聞こえてきます。昔ながらの伝統を感じられるそば屋もいいけれど、こういう少し垢抜けた店で手繰る十割そばもいいものです。

⚪︎気品漂う酒「今西」を合わせる

日本酒はグラスで提供されます

瓶ビールを3分の2ほど呑んだところで、日本酒ももらうことになりました。せっかくの十割そばに、味わいのある日本酒を合わせてみたくなりました。

カウンター内で洗い物をしている女性店員に「すみません、今西をください」と声をかけます。

「ありがとうございます」と保冷庫から「今西」の四合瓶を持ってきて、ことり、とカウンターの上にグラスを乗せ、静かに「今西」をそこに注いでくれます。その瞬間から、爽やかで、微かに甘い香りがグラスから立ち上ってきます。

さっそく一口。冷たい「今西」は、するりと口の中に入ってきて、ふわりと甘みと香りが広がり、また、するりと喉を過ぎていき、あらためてふわりと優しい余韻を残します。

これは旨い、さすが日本酒醸造の発祥の地ともいわれる奈良の酒。

そば、日本酒、そば、日本酒、大根漬け、日本酒、そば、ビール、そば、日本酒、、、と繰り返し、食べすすめ、呑みすすめていきます。

気づくと、店内にはわたし一人になっていました。午後2時半過ぎ、ランチタイムもあとわずかです。

そろそろ食べ終わろうか、というところで女性客が一人入店し、慣れたようにカウンター席に座り、「もりそば。それと天ぷらに茄子と海老をお願いします」と素早く注文します。

わたしはその女性客がお茶を一口飲んだタイミングで「お会計を」と女性店員に伝え、お金を払い店を後にしました。

休日勤務で半日潰してしまった土曜日でしたが、旨い蕎麦とビールと日本酒で、見事プラス・マイナス・ゼロ。いや、間違いなくプラスです。

ほんのり酔った足で、のんびりと家路に着きます。

口の中には、まだ十割そばの芳しさと「今西」の品の良い甘みと酸味の余韻が残り、今日の疲れを静かにそっと、溶かしてくれているようでした。

【店舗情報】
盛岡市菜園2町目5−26メルヘンハウス1階
019-656−9989
昼の部11:30〜15:00 夜の部17:30〜20:00
日・月・祝は昼の部のみ
(情報は記事作成時のものです。)

出典:「蕎麦 金時」インスタグラムより

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