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【さかばなし10】みよちゃんラーメン
「さかばなし」は、酒場(さかば)であった、ちょっとしたエピソード(はなし)について綴っています。「さかば」の「はなし」で、「さかばなし」です。
盛岡の台所「神子田朝市」を訪れた。真夏の早朝に、太陽は昇り切らず、半袖姿がとても気持ちいい。
名物「みよちゃんラーメン」を食べようと、市場内にある「朝市食堂」を訪れる。
入店すると先客はおらず、テーブル席に腰を下ろしラーメンを注文する。
少し待つとラーメン、盛岡市民が「みよちゃんラーメン」と呼ぶ一杯が到着する。市場利用者が、ラーメンを作る「みよちゃん」の名前を冠し、愛着を持ってそう呼んでいる。
店主・みよちゃんは、80過ぎ90過ぎだろうか、お年を召しているが動きはきびきびしていて、客あしらいも巧みだ。何十年ここでラーメンを作っておられ、提供してきたのだろう。
と、一人の女性客が入ってきた。
ー ママ、ビールちょうだい。
カウンターに腰掛けると、みよちゃんにそんな風に声をかけ、みよちゃんが手渡す冷えた缶ビールを受け取った。
ー 店が終わった帰りかい?
ー うん、店の片付けしてたら遅くなった。
ー いつものでいいの?
ー うん、お願い。
女性客は常連なのだろう、水商売をしていて、店が終わると朝市食堂に寄って、ビールを呑んで、軽い食事をして、それから家に向かうのだろう。
ー あんまり無理しないんだよ、若くないんだから。
ー わかってる。ママも若くないんだから無理しないでね。
ー そうだね、わたしの方がずっと歳とってた。
ー 長生きしてね、ママ。
それから数年経って、再び朝市食堂を訪れると、みよちゃんと思しき人はいなかった。中年の女性店員が二人店に立ち、ラーメンを作っていた。けれど、その味は「みよちゃんラーメン」そのもので、懐かしく優しい味わいだった。「みよちゃんラーメン」は、しっかり受け継がれていた。
あのときカウンターでみよちゃんと会話をしていた水商売の女性は、今も朝市食堂に通っているのだろうか。
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