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【さかばなし04】終わりのないマティーニ
「さかばなし」は、酒場(さかば)であった、ちょっとしたエピソード(はなし)について綴っています。「さかば」の「はなし」で、「さかばなし」です。
仕事を済ませ、足早に職場を後にする。金曜の夜、行き交う人々の顔は、どこか晴れやか。
長い長い一週間が終わり、この後に、どこかで仲間内での宴会でもするのだろうか。そんな人々を横目に、わたしは歓楽街の中心部を目指す。
雑居ビルに到着し、階段で2階にのぼってバーに辿り着く。ドアを押し、暖かな店内に進む。コートを店員に手渡し、通りを眺めることができるカウンター席に腰を下ろす。
もう十年ぐらいの付き合いとなった女性バーテンダーと挨拶を交わし、シャンパーニュ「MUMM」を。かの、映画「カサブランカ」にも登場した一本。
ひと口含んだだけで、まさに星空の煌めきのような泡が広がり、そして儚く消え、品のある甘みと酸味を纏った余韻を残し、流れ過ぎていってしまう。
そんなことを繰り返しながら、女性バーテンダーと懐かしい話やら近況やらを話す。
続いてマティーニ。
一分の隙もない動きでミキシンググラスの氷を滑らかに回転させるバースプーンの動きに、わたしは見とれる。そしてそのマティーニの味わいも、同様に一分の隙もない。
美味しいです、と伝えると、にっこり微笑みながら、「ありがとうございます。でも、マティーニは突き詰めても突き詰めても終わりがなくって」と女性バーテンダーは語った。
ーー相変わらずお仕事大変ですか
ーー奥様と娘さんはお元気ですか
と、わたしのことや家族のことを気遣ってくれるのも嬉しい。そんな人がいるバーだから、そんな人を求めて人が集まるのだろう。
だからバーは大好きだ。
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