地方創生を邦楽とともに
日本の伝統音楽「邦楽」を聴く機会は日常からはすっかり少なくなった。お正月にBGMで流れる「春の海」のメロディーで琴の音を聞くくらいである。
能や歌舞伎が好きな方は鼓や龍笛などの音に触れる機会があると思うが、邦楽器での演奏会となるとなかなか聴く機会がない。自社の小さな会場で「サロンコンサート」を行っていた関係で、親しいお客様から「素晴らしい若手の邦楽演奏家がいるので紹介したい。」と丁寧な手紙をいただいたことがきっかけで、箏の吉澤延隆さんと尺八の大河内淳矢さんと知り合った。2人の人柄と演奏に惹かれて、2018年に当社が参加した鎌倉芸術祭の「鎌倉能舞台」で演奏会を行った。
ヨーロッパで古楽器といわれるものは18世紀(1,700年代)以降のものだが、尺八も箏も奈良時代(700年代)から伝えられその差は1,000年にもなるから驚きである。邦楽で演奏する曲の楽譜をみせてもらった。「縦譜」と呼び、縦書きに漢字やカタカナが書いてある不思議な暗号にしか見えない。鎌倉芸術祭ではチェロとの共演も行ったので、チェロの方は五線譜を、邦楽の方は縦譜を譜面台に載せていたのが印象的だった。
現代の日本で「邦楽」を継承するということはたいへんなことだと思う。演奏の機会も限られる中、自己研鑽を行い、同時に後進の指導をしてゆく。様々な困難を乗り越えながら日常の生活を送る覚悟がないと続かないだろうと思う。
2人の演奏を富士山を背景にして聴いてみたいと考えて、コロナ禍に静岡県の「日本平ホテル」を会場にしてツアーを実施した。
多くの方にご参加いただき、演奏後は楽器の説明などを交えた懇親会になった。
日本平ホテルでは邦楽の演奏は初めてのことだという。また、結婚式以外でのチャペルでの演奏会も前例がなかった。地方には演奏会場として活用できるホテルや結婚式のためのチャペルが多くある。地方創生が日本の課題となっている現在、邦楽の演奏を能舞台をはじめとした様々な場で「演奏会」として企画されれば、各地方の観光と組み合わせたインバウンド向けのコンテンツにもなるのではないだろうか。もちろん日本人も対象となることは言うまでもない。
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