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■1-1 人生の宝となる旅
「旅は心の財産」というテーマでユニークな体験を企画する旅行会社㈱グローバル ユース ビューローに身を置いて30年になる。当社は1966年に「ヨーロッパ文化研究会」として、KLMオランダ航空をチャーターし137人の若者とともにヨーロッパの旅を実施した事業がスタートした。「わが社は文化と楽しさを提供する会社」「大きなアメリカになろうとは思わない。小さなスイスをつくりたい」(古木謙三・会長)という創業のビジョンのもと、旅行業を核としながら、ホスピタリティをテーマとした文化事業を志向してきた。社名にユース(若者)という単語が入っているのは設立の経緯からである。
本書では、私たちが企画してきた数々の旅ついて、具体例を交えて紹介し、今後の読者の旅先案内として参考にしていただければと願っている。
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人気の南極クルーズ
今、南極クルーズが世界的に人気である。「一生に一度は南極に行ってみたい」という希望が多くなり、コロナ禍前に30隻だった極地船が3年間で50隻に急増した。自然環境を守るため上陸観光は「南極条約」によって1回の人数が100人までと制限されている。そのため効率よく上陸観光するためには乗客100人未満の船で行くと上陸回数が多くなるというメリットがある。大型客船は安心感や充実した船内設備を楽しめるという面がある一方、船内で待つこと多くなってしまうというデメリットもあるので、この点を考えて船を選択する必要がある。当社は現在毎年のように南極クルーズを実施しているが、2011年にオリオンII号をチャーターして乗客を80人に限定した特別なクルーズを実施した。冒険家の三浦雄一郎氏を隊長として、料理人にフランス料理の鉄人坂井宏シェフを迎えてのクルーズだった。私にとっては初めての南極の旅だったので、今でも最初に船上から見た氷山の光景と、その時の空気や光を鮮明に思いだすほどの強い印象になっている。
南極の魅力は何?
「南極のクルーズは何がおもしろいのですか?氷山とペンギンを見るだけで、行く価値があるのですか?」と聞かれることがある。私の体験で申し上げれば、地球ではない惑星に着いたような不思議な感覚になることが最大の魅力体験だ。光も違う、空気も違う、その体験に価値がある、とお伝えしている。通常どのクルーズにも動物や気候など極地の自然の専門家が乗船し、船上で極地のさまざまな知識を教えてくれる。当時の私たちの船にはボストン・ウッズホール研究所で海洋研究の専門家として活躍されている本庄丞先生に乗船していただいた。南極大陸は地球儀を裏返して見ると、南米、アフリカ、オーストラリアの大陸に囲まれていることがわかる。地球の自転によって太平洋や大西洋の海水がぐるぐるとまるで洗濯機のように回転するため、気流が発生して大気中のゴミなども上空に飛ばされる。この状態は地球上ではめずらしい「Pristine=純粋な」な環境である。ウィルスなども飛ばされた純粋な空気の状態になるという説明だった。この洗濯機効果によって水位の異なる海流がぶつかるドレーク海峡は「吼える海峡」といわれるほど荒れ狂うことが多い。南米のウシュアイア出港から40時間以上この海峡の荒波に揉まれるとやがて急に穏やかな海と氷山が目の前に広がった。明るい太陽に照らされた氷山の世界は「シーン」という音が聞こえるかのような無音の世界である。ゾディアック(小船)に乗り換えて南極大陸に上陸すると、ペンギン達の世界だ。様々な場所に上陸した後、私たちは流氷に上陸するというチャレンジをした。先発隊が氷の厚みなどを調査し流氷上陸を敢行し、全員で記念撮影をしているその時に「バリバリバリ」という音とともに足元の氷の大地が真っ二つに割れるという冷や汗のでる体験もしたが、今は懐かしい想い出である。
80人のお客様に振る舞う料理のために乗船してフレンチの鉄人ムッシュ坂井の手伝いで厨房に入らせてもらった。キッチンの外国人スタッフたちとの打ち合わせはかなり綿密で、肉の切り方などをムッシュが自ら図解して理解させ、料理の順番やタイミングなどを細かく指示する。料理という仕事は段取りや効率を分刻みで計算するほど繊細なのだと知った。南極クルーズで印象に残ったのは大自然の体験と、鉄人の匠の仕事だった。
帰路は荒れ狂う海域の中で、船内は歩けないほど揺れていたが、三浦雄一郎さんはただ1人、船内の階段を昇り降りしていた。「身体を動かさないと鈍ってしまうから。」との談。やはり超人は違うと感嘆した。
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ドレーク海峡を飛び越える南極クルーズ
現在では、この荒れ狂うドレーク海峡を行く40時間を耐えることなく、わずか3時間半のフライトで南極大陸に到達することができる。2013年、「そんなことは不可能だ」と言われたこの事業を実現した企業Antarctic21社はチリの企業だ。当社はこの会社とパートナー契約を結び「南極フライ&クルーズ」をツアーとして実施しているが、この企画の出現によって、世界中のシニア層に南極の旅が近づいたと言える。2023年この会社の創立10周年では、世界中のパートナー会社がチリのプンタアレナスに集まり、私も招待を受けて参加した。南極船「マゼラン・エクスプローラ号」船上で行われた会議では、環境専門家などを交えて、今後の南極観光のあり方として、いかに生態系への影響を抑えながら継続して極地への観光ができるかということが議論された。アドベンチャーツアーの実現には、専門家のアカデミックな知見と人材が必要だとあらためて実感した。
南極の世界は同じ地球とは思えない別世界を体験する究極の旅だ。流氷の色も白だけではない複雑なブルーのグラデーションの世界だ。身体に受ける光の力も違う。吸い込む空気の感覚も違う。まるで地球とは違う惑星に足を踏み入れたような印象は言葉でも映像でも伝えるのは難しい。美しい地球を体感し、環境問題を肌で感じる体験ができるのは南橋への旅ならではである。
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