夢の南極クルーズ
南極クルーズが世界的に人気である。コロナ前に30隻だった極地船が3年間で50隻に急増している。南極は「南極条約」によって1回に上陸できる人数が100人までと限定されている。そのため効率よく上陸観光するためには乗客100人未満の船で行くと上陸回数が多くなるというメリットがある。大型客船は安心感はある一方、船内で待つこと多くなってしまうというデメリットもある。この点を考えて船を選択する必要がある。2011年にオリオンII号をチャーターし乗客を80人に限定したクルーズを実施した。冒険家の三浦雄一郎さんを隊長、料理人はフランス料理の鉄人坂井宏シェフに迎えてのクルーズに同行した。
船内には動物や気候など極地の自然の専門家が乗船し、船内レクチャーで乗客に極地のさまざまな知識を学ばせてくれる。ボストン・ウッズホール研究所の海洋研究を専門とされている本庄丞先生に乗船していただいた。南極大陸の説明はレクチャーによると、地球儀を裏返して見ると、南アメリカ、アフリカ、オーストラリアの大陸の中心に位置している。地球の自転によって太平洋や大西洋の海水がぐるぐるとまるで洗濯機のように回転するため、気流が発生して大気中のゴミなども上空に飛ばされる。この状態は地球上ではめずらしい「Pristine=純粋な」な環境でウィルスなどもない純粋な空気の状態だとのこと。この洗濯機効果によって水位の異なる海流がぶつかるドレーク海峡は「吼える海峡」といわれるほど荒れ狂うことが多い。南米のウシュアイア出港から40時間以上この海峡の荒波に揉まれるとやがて急に穏やかな海と氷山が目の前に広がった。明るい太陽に照らされた氷山の世界は「シーン」という音が聞こえるかのような無音の世界である。身体に受ける光の力も違う。空気も違う。地球とは違う惑星に足を踏み入れたような印象であった。
ゾディアック(小船)に乗り換えて南極大陸に上陸すると、ペンギン達の世界だ。様々な場所に上陸した後、私たちは流氷に上陸するというチャレンジをした。先発隊が氷の厚みなどを調査し流氷上陸を敢行し、全員で記念撮影をしているその時に「バリバリバリ」という音とともに足元の氷の大地が真っ二つに割れるという冷や汗のでる体験もしたが今は懐かしい想い出である。
80人のお客様に振る舞う料理のために、ムッシュ坂井の手伝いで厨房に入らせてもらった。キッチンの外国人スタッフたちとの料理方法の事前打ち合わせはかなり綿密で、肉の切り方などをムッシュが自ら図解して理解させ、料理の順番やタイミングなどを細かく指示する。料理という仕事は段取りや効率を分刻みで計算するほど繊細なのだと知った。南極クルーズで印象に残ったのは大自然の体験と、鉄人の匠の仕事だった。
帰路は荒れ狂う海域の中で、船内は歩けないほど揺れていたが、三浦雄一郎さんはただ1人、船内の階段を昇り降りしていた。「身体を動かさないと鈍ってしまうから。」との談。やはり超人は違うと感嘆した。
ドレーク海峡を飛び越える南極クルーズ
現在では、この荒れ狂うドレーク海峡を行く48時間のクルーズの代わりに、わずか3時間半のフライトで南極大陸に到達する「そんなことは不可能だ」と言われた事業を実現した企業がチリにある。当社は数年前からこの「南極フライ&クルーズ」をツアーとして実施しているが、この企画の出現によって、世界中のシニア層に南極の旅が近づいたと言える。今後の観光のあり方として、いかに生態系への影響を抑えながら継続して極地への観光ができるかということが現在のテーマとなっている。アドベンチャーツアーの実現には、専門家のアカデミックな知見と人材が必要とされている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?