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日本の端っこで椰子蟹と牛と星!与那国島の旅23.09①

ども、旅紐夫のこーじです。

今回からの旅紐は沖縄県の与那国島。
日本最西端の島への旅でございます。

これまで、旅の記録をフィクションとして書く努力をしてたのですが、なんとなく難しさを感じてて、その原因は多分登場人物がフィクションやないからやと気付きました。

というのも、こちらで連載している小説でもモデルとして僕と女神ちゃん(妻)が登場してるのですが、彼らは名前も違う。名前が違うから勝手に物語を紡いでくれる。という感覚がありました。

そこで、今回から旅の記録も登場人物を変えてしまいます。また、そうすることで女神ちゃんの友人たちも明確に登場させることができるので、物語としても書きやすいし、読み物としても良くなると思われます。

一応、注意書きとしては、主人公は小説と同姓同名の人物ではありますが、小説はパラレルワールドですので、あしからず。まぁ、旅の記録も細かな部分はフィクションなので、現実ではありませんが、お気になさらず、実体験に基づいた読み物としてお楽しみください。

ーーー旅紐綴りの登場人物ーーー

宗司・・・主夫で旅紐夫
瑠羽子・・・女性起業家、宗司の妻
結菜・・・瑠羽子の友だち
梨菜・・・瑠羽子の友だち

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血統と伝統の島、与那国へ

2023年9月、瑠羽子たちにとって毎年恒例の沖縄旅行には少し早いこの季節だが、今年は訳あってこの時期に予定された。それも少し短めの二泊三日での予定だった。

しかも、行き先は沖縄本島ではなく、さらに西にある与那国島。日本最西端にあり、日本よりもむしろ台湾の方が近い島である。

さて、訳と言うのは、瑠羽子の祖母の法事だった。瑠羽子の母は、沖縄県与那国島の生まれであり、兄妹たち、つまりは瑠羽子の叔父や伯母も与那国にいた。

宗司にとっては初めての与那国島であり、瑠羽子とは昨年再婚したばかりなので、義母以外と会うのももちろん初めてである。

ドギもマギもあるが、宗司はワクワクもしながら定番のセントレアで飛行機の搭乗を待っていた。こうも毎度毎度ワクワクするってことは、単なる飛行機好きなのであろうと、最近になって気付き始めた。

与那国へは、沖縄の那覇空港を経由するか石垣を経由するかとなるらしく、今回は石垣島経由の便であった。石垣も行ったことはないが、経由地なので空港にしか用はない。

与那国へは法事で行くのだが、恒例の沖縄旅行も兼ねるため、瑠羽子のいつメンである結菜と梨菜も同行する。二人は法事にも参加してくれる。

どこで聞いたか定かではないが、沖縄の離島の法事は本州などとは異なるとも聞く。確か二、三日かけて行われるとかだった。つまり、今回の旅の大半か全日が法事となる。

それにも関わらず、一緒に来てくれるのだから、結奈、梨菜の二人の懐の広さに宗司は勝手に感心していた。彼の友人であれば、まず来てもくれないだろう。悲しい話である。

そんなことを考えている間にフライトの時刻が近付いたので、四人は搭乗口へ向かった。

まずは石垣島へ

何度でも言うが、沖縄への航路はかつてより格段に安くなった。一時期はトータルで見たらハワイの方が安いんじゃないかなんて話も聞いたが、今ではそんなこともなくなった。

とは言え、やはり離島は高いらしい。旅紐でいつも宗司が気にするのは交通費であった。そこも含めての旅行ではあるが、車で行けない場所はどうしても費用がかさむ。そこだけがネックである。

申し訳なさと不甲斐なさを感じつつも、飛行機がはるか南へと近付けば、やはり心が高鳴る景色と出くわしてしまう。

宮古島

人気のリゾート地となった宮古島を眼下にすると、その海の綺麗さに驚いた。そして、その驚きも新鮮なままに、程なくして石垣空港へと到着した。

南ぬ島石垣空港

ここから与那国島へと発つ便までは九十分ほど間があるため、四人は空港内でのんびりと待つついでに服を喪服に着替えることにした。

喪服に着替えてから宗司は後悔した。
暑い。
気候が熱いのは承知の上だが、実は夏用の喪服を持っていなかったのだ。
ジャケットなんて羽織っていられるはずもないが、長袖のシャツも暑かった。
つまり、どうしたって暑い。

どうしようもないままに、宗司は長袖をまくることでしか暑さを凌げなかったので、とりあえず売店で買ったジュースを一気に飲んで体を冷やした。

それにしても九十分は案外長い。
じっとしていても暑いので、宗司は外に出てタバコを吸うことにした。
空港から一歩外へ出ると、晴れ渡る青い空が広がっている。
那覇空港で感じるようなジワッと体にまとまりつくような湿気も感じない。
同じ沖縄でも南へ降ると気候にも差があるのだろう。

石垣の青い空にハイビスカスが映える
シーサーは琉球時代からの守り神

石垣島に行ったことがあるとは言えないが、石垣の空気を吸ったことはある。そんなことを言う機会もないだろうが、なんだかんだと石垣での九十分が過ぎ去り、四人は目的地となる与那国島へ向かう飛行機へ向かった。

ここからはプロペラ機である。
乗客数も意外なほど多い。
パッと見たところ、帰省と思われる顔立ちの人ばかりだった。
観光客は少ないのだろうか。
日本最西端、それはつまり日本で一番遅い夕日を眺め、一番遅い夜を迎え、一番遅い朝日を待てる場所である。
宗司にとってはそれだけでも観るに値するのだが、現実は厳しいようだ。

与那国島へと飛ぶプロペラ機

石垣島から与那国島までは、まるでバスで移動するかのような距離感で辿り着いた。本日の最終便とのことだが、時刻はまだ十八時を過ぎたところで、夕日が沈むにもまだ早かった。

日本最西端の与那国空港

空港に到着した四人は、空港内の喫茶店へ向かうことにした。今はもう違うのだが、この頃は瑠羽子の伯母が店を経営しており、そこで瑠羽子の母も働いていたからだ。

と思っていたら、到着口を出たところで義母が待っていてくれた。
「いらっしゃーい。疲れたでしょ」と迎えてくれ、まずは表に置いてあるレンタカーへと案内してくれる。伯母はレンタカー屋も経営していた。やり手である。

荷物を載せた後、四人は喫茶店ではほとんど休む暇もなく義母の実家へと向かうことになった。

法事はすでに始まっており、親戚も集まり始めていたからだった。

あれよあれよという間に瑠羽子の運転で家にたどり着く。家は沖縄風の平家で、庭が広い。庭に同じサイズの家が建つほどの庭である。

ただ、その庭にもテントが建てられ、そこにもたくさんの人が既にお酒を楽しんでいるようだった。段取りがあるようでない感じもまた沖縄の文化である。

瑠羽子に続いて、宗司たちも家へと入る。
まずはお仏壇へと手を合わせた。お仏壇と言ったが与那国島は仏教などの影響は少なく、伝統的な民間信仰であるため、その様式はどちらかと言えば祭壇に近い。
お供物の白米に長いお箸を立てるあたりから、台湾からの影響も多分に受けていることが分かる。

歴史が好きな宗司にとっては興味深い文化だったが、その後は親戚へのご挨拶と用意された食事をいただきつつ、次から次へとやってくる来客への対応の目まぐるしさに圧倒されてしまい、瑠羽子も宗司も、そして結菜も梨菜も疲れ果てた。

来客の止まない与那国の法事

慣れない場所で慣れない光景を体感することはそれだけでも疲れるものだが、四人は旅の疲れもあったので、しばらくして予約してもらっていた近所の宿へと向かうことにした。

明日に法事も終わるというので、とにかく体を休めたかった。
宗司が宿の部屋で休んでいると、結菜梨菜の部屋に行っていた瑠羽子が戻ってきた。
「今日は晴れてて星もキレイに見えるので、一緒に行きませんか?」
「星?いいですね!行きます!!」

ということで、四人は車に乗り込み夜の与那国をドライブすることに。
宿からほんの少し車を走らせると、途端に辺りは闇に包まれ、車のヘッドライト以外の灯りはなくなった。
民家はおろか建物も見当たらず、一体どこを走っているのかもわからないほどだ。

「真っ暗ですね」と宗司が漏らすと、「暗すぎて、私もどこを走ってるのかわからなくなってきたけど、こっちで合ってるはず」と瑠羽子も少し頼りなげな返事をした。
道もいつしか舗装された道路から農道のような道に変わっている。

「あ、牛」と瑠羽子が突然、車を止めた。
すると、ヘッドライトに照らされた先に真っ黒な雄牛の姿が照らしだされていた。

道端に現れた雄牛

「うわぁ、すご!野生じゃないですよね?」まさか野牛かと思ったが、よく見るとロープで繋がれていて安心した。

夜の与那国のポテンシャルに四人のいや、正確には経験者である瑠羽子を除いた三人のテンションも上がる。

「あ、ヤシガニ」とまたもや瑠羽子は突然、車を止めた。
すると、ヘッドライトに照らされた先に見たことないくらい巨大なヤドカリではなく、普通サイズのヤシガニの姿が照らしだされていた。

ヤシガニ

「うわぁ、すご!これは野生ですね」と言うやいなや、宗司は車の外に出た。さすがに進行方向にこいつがいてはまずい。

手に取ると、その巨大さはザリガニさえ子どものようである。デカい。まだまだ小さめのヤシガニだろうとは思うが、それでも宗司の手のひらよりはデカい。こんなやつに指を挟まれたら二度とギターは弾けないだろう。

観察し終えた宗司は、ヤシガニをそっと道路の脇に置いた。踏まれなくてラッキーだったのかも知れない。慣れた島民なら、この道も飛ばして走ってたかも知れないと思うと、ヤシガニたちも道路を渡るのに必死になるはずだ。

一同は珍道中にワイのワイのと疲れも忘れて楽しんでいたが、お楽しみはここからである。

車はやがて、瑠羽子の目指していた東崎へとたどり着いた。

車のヘッドライトを消すと、あまりにも真っ暗で驚いた。
「うわぁー、、、、」と暗闇に目が慣れた途端、宗司も結奈も梨菜も声を失った。

四人の目の前に広がっていたのは、これまでの人生で見たことないくらいに満天に煌めく星空だった。

与那国の星空

月が出ていないのも幸いしているのだろう。
こんなにもたくさんの星を見たことはなかった。
与那国の空には、あの時瑠羽子と見た沖縄の星空よりも、たくさんの星が散りばめられている。
まるで星空に包まれるかのような錯覚にさえ陥るほどに闇も深い。
だからこそ、余計に星の煌めきが、その瞬きが美しく輝いて見える。

宗司は星に見惚れる瑠羽子の横顔を見ながら、連れて来てもらえたことの幸せを改めて感じていた。

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