山間の秘境・サルアガセイエッドへ日帰り旅
イラン旅行の3日目、イスファハンから日帰りでサルアガセイエッド(Sar Agha Seyed )を訪れた。
サルアガセイエッドといえば、「一度は行ってみたい世界の絶景」(@WonderSightTW)というアカウントで紹介されていたところ。
こういう感じの、生活感のある小さな空間がみっしりと集まっている画にすごくロマンが掻き立てられる。屋根が村の道になっているところも、妖精の村みたいでなんだか素敵だ。せっかくイランに行くんだから、あわよくば訪れたい場所だった。
かつてサルアガセイエッドを訪れたことがある方々の旅行記を見ると、公共交通を使ってイスファハンから訪れている。
公共交通を使っては、Isfahan→Shahrekord(シャフレコルド)→Chelgerd(チェルガード)→Sar Agha Seyed とバスを乗り継いで行く必要があり、一泊しないと帰りの便は捕まえられなさそうだった。旅程上、サルアガセイエッドに一泊二日もかけられないけれど、諦めきれなかった。ダメ元で、宿泊していた宿、Amir Kabir Hostelに相談してみたところ、悪くない価格で、一日貸し切りタクシーを手配してくれ、サルアガセイエッドに行けることになった。
①サルアガセイエッドってどんなところ?
googleMapで検索すると、サルアガセイエッドはイスファハンから231km, 車で3時間40分の場所にあると表示されている(実際は4時間以上かかった)
ザグロス山脈の中に位置し、人口は1,360人(208戸)の小さな村だ。海抜は2,500mあり、冬になると雪に閉ざされて往来ができなくなる。雪が降るからと言って、降水量に恵まれた緑豊かな山というわけではない。日本ではまずお目にかかれないような、木のほとんどない砂地がちの山だった。
②いざ、出発!
片道231kmの距離は長い。タクシーに乗ってイスファハンの宿から出発したのは朝の6時だった。Amir Kabir Hostelのオーナーがご好意で用意してくださった朝ごはんを手に、まだ暗い中イスファハンの街を後にした。
イランの朝ごはんの定番メニューは、中東式の平たいパンに、トマト、キュウリ、ゆでたまご。どこのホテルの朝食でもこれがあった。野菜を丸かじりするのがなんだかワイルド。イランは野菜も果物も、水っぽくなくて、素材の味がしっかり凝縮されたような味がした。ちなみにイランではキュウリはフルーツとして扱われているらしい。
タクシーの運転手は恰幅の良い中年の男で、英語は話せなかったが道中とても親切にしてくれた。砂漠地帯だからか、日が昇るまでは夏でも肌寒かったので、道中何度も「チャーイ?」と尋ねては、暖かい紅茶をポットから振る舞ってくれた。
道中の風景。二股に別れた鉄塔が、なんだか肩を組んでるみたいで可愛いシルエットだった。イランの景色は山がちなところに日本と似たものを感じるが、山々が緑じゃないところに中東の風情を感じる。
③Chelgerd(チェルガード)でトラックに乗り換え、険しい山道へ…
2時間ほど走った後、Chelgerd(チェルガード)という小さな街で車を乗り換えることになった。ここから先の道は険しすぎて、通常の車では到底走れないそうだ。乗り換える手筈の車を探す時に、タクシーの運転手が地元の人に「サルアガセイエッドってどう行ったらいいの?」と聞いて回っていて少し不安だった…。ペルシャ語でサルアガセイエッドという発音は、「チャルアガセイエド」と言っているように聞こえる。
乗り換えることになった車は小型トラックで、2人乗りの座席に、トラックの持ち主、タクシー運転手、私の3人が乗るというワイルドなものだった。座席にギュウギュウに詰められ、ガッタガタの山道を更に2時間走っていく。
トラックのフロントガラスに、可愛い色合いのぽんぽんがかけてあった。イランの名産で、絨毯などに使う羊の毛をこう言った装飾にもしているらしい。イスファハンのバザールにも同じものが売ってあった。ただのお土産じゃなくて、地元の人々も使っているものだと思うと面白い。
ダッシュボードに貼っているポップなイスラムステッカー。世界各国どこでも、タクシーの運転手やトラックの運転手は、安全運転を祈願して宗教的なお守りを飾っている(日本ではあまり見かけないが、ヨーロッパでもアジアでも中東圏でも見かけた)。こういうのに文化圏の違いが現れてて面白いよなあ。
遊牧民のテントと湧水。
標高が上がるにつれ、どんどん日差しが強くなるのに、空気の温度はどんどん冷たくなっていく。
養蜂の箱。カラフルな箱からミツバチが時々飛び出していった。
遊牧民が放牧している羊の群れが、水を求めて溶け残った雪を舐めている。冬に雪に閉ざされるだけあって、8月になっても溶け残った雪があちこちにあった。タクシーの運転手は何故か、道のすぐ傍に雪の塊があった時に、トラックを止めてもらって雪をかき集め、袋に入れていた。お土産にするんだろうか…?(溶けちゃわない?)
④サルアガセイエッド村の風景
計4時間ちょっとのドライブを経て、ようやく辿り着いたサルアガセイエッド村。本当に、山と一体にな利、山に張り付くようにして村ができている。ここから最寄りの街に行くのに車で2時間以上かかる、というのはなんだか信じられないような生活だ。人間のたくましさを感じる景色だった。車を下りると早速、「マニー!マニー!」とお金をせびってくる悪ガキ集団に囲まれて、別の意味でも人間の逞しさを感じた…
●村のモスクへ
小さな村にも綺麗なモスクがあって驚いた。緑色のドームを持つモスクで、中に入ると、ペルシャ絨毯が敷かれて、モザイクのタイルの入った礼拝所になっていた。円形にくり抜かれた天井のモザイクがとても綺麗。
●村の中からみたサルアガセイエッド
外から見るとメルヘンな村でも、中に入ると結構ゴタゴタした感じになっている。屋根が道になっている村は、道が入り組んでいて迷いやすかった。村の中をふらふらしていると、ある家から女の子が出てきて、家に招いてくれた。
家の中には、小さな妹と、母親らしき人、祖母らしき人がいた。家には窓がなく、部屋は、寝室と、キッチン兼生活の場に分かれているようだった。母親らしき人が、身振りでお茶を飲んで行って、と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
お茶を御馳走になりながら、「旅のゆびさし会話帳 ペルシャ語編」を開いて、私を招いてくれた女の子、お母さんと少し話をした。お母さんは私の持っている会話帳をとても面白がってくれた。女の子は、単語を指差して「ここには冬、雪が降る」と教えてくれた。
●村の外からみたサルアガセイエッド
村のメインロードが屋根の上なので、外から村を眺めていると、人の行き来がよく見えて、まるで小さな絵のようだった。なんだか、一方的に「見る」視点で誰かの生活を覗き見てしまっているような、楽しさと罪悪感がちょっと入り混じったような感じがする。
『なにかが首のまわりに』という短編に出てくる、「彼がナイジェリアへ行って、ナイジェリアを、貧しい人たちの生活をぼんやりながめてきた国のリストに加えるのも嫌だった。そこの人たちは『彼の』生活をぼんやりながめることなどできはしないのだから。」というフレーズを思い出す。
とはいえ、こうして、自分の人生とは遠いところにある人々の、自分の生活する文化と違う文化を持つ人々の生活をぼんやりと眺める瞬間は、自分の日常を、人生を忘れられるかけがえのないものだからなあ…。考えすぎるとドツボにはまってしまう。
⑤ピクニック、そして帰途へ
村の中をしばらく散策した後、帰途につくことになった。またしても、小さなトラックの2人乗りのシートに3人でギュウギュウ詰めに座り、2時間以上の山道をガタガタと降って行く。途中、道の傍にペルシャ絨毯を引いて、ピクニックをしているイラン人家族を見かけた。ザグロス山脈は、地元の人にも良い観光スポットになっているのかもしれない。
Chelgerd(チェルガード)で車を返す前に、トラックドライバーの妻らしき人に遅めの昼食を御馳走になった。ワンデイツアーの料金に、昼食の手配も含めてくれていたらしい。
雄大な自然の中で食べる炭焼きケバブ、ただただ最高…!
イランはイスラム教国家なので、女性はヒジャブを巻く義務がある。巻き方のスタイルは様々だが、この方の巻き方はどちらかというとラフな方法。頭にひっかける形でスカーフをかけているのだけれど、どうやって落ちないように維持してるのかちょっと気になる。
熱々のケバブをイラン式の薄いナンに包んで食べる昼食はとても美味しかった。
片道4時間のサルアガセイエッドツアー、道中の山道を含めてとても楽しかった。
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