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社員食堂の片隅でわたしに起こった奇跡の話

社員食堂のある世界

わたしの職場にはありがたいことに
社員食堂がある。
これが結構な広さで綺麗で快適
眺めも良くていい気分転換になる。

贅沢を言ってはバチが当たるが
食堂は美味しくはなく安くない。
安いけど美味しくない、なら話はわかるが
安くないから納得いかない。
定食だと700円くらい。
そしておかずの量が少ないので小ライスでもご飯が余る。
この値段ならコンビニのお弁当の方が安くて美味しいよね、となるからお弁当持参率が高めのように思われる。
かく言うわたしもお弁当派になっている。
なっていると言うのは
以前は食堂派だったけど
度重なるがっかり経験により、
これなら昨日のおかずの残りでも
いやソーセージと卵焼きだとしても
持って来た方が美味しいという結論に達したのである。

社員食堂というスペースは
もちろんお弁当持ち込みでもOKで
電子レンジや無料のお茶や自販機にカフェまであるので至れり尽くせり。

テレビの観える席
見晴らしのいい席
ラーメン一蘭のような閉鎖的おひとり席に
なんちゃってソファ席まである。
人それぞれに好きなエリアがあり、
何となくいつも同じ所に座る。

コロナ以前はグループでお喋りしながら食べていたが、コロナ以降今なお「個食」が推進されていてひとりで食べている。
実はわたしとしてはそちらの方が都合が良く
お昼の時間まで気を遣って話をするより
ひとりで過ごしたいので快適だ。

思えば以前は誰かと同じ時間に休憩に出ると
わたしはひとりで食べます。とは言いづらく
流れでみんなでのお昼に飲み込まれ
気を遣って疲れていた。
職場で仕事中は積極的に周りと会話するが
休憩時間は休憩したいので
ずっと個食推進して欲しい。
いや、今なら元に戻っても断れるな。

わたしのお気に入りの席は
カフェエリアの片側ソファ席
片側だけが壁にくっ付いたソファ?とは
呼べないようなベンチシートに少しのクッション素材が付いている席。
壁際に8席程あるどれかにいつも陣取っている。

ルーティーンも決まっており流れるようにスムーズだ。
空いている席を見つけたらバッグを置いてキープ
お弁当だけ取り出し電子レンジへ
レンジにかけている間にカフェでコーヒーを買う。
席に着いたらイヤフォンをして
iPhoneをスタンドに立ててNetflix

見渡せば周りの人もほぼ同じ
8割くらいの確率でみんな動画を観ている。
すごい人数の人がそれぞれの小さな画面で
それぞれに違う動画を観ている。
少し前には考えられなかった光景だ。
時代の進歩は凄まじい。
そんな社員食堂での日々に
ふいに奇跡とも思えることが起きた。

奇跡を無言で噛みしめる


いつものようにいつものエリアへ行くと
今日は真ん中あたりが一席空いていた。
ラッキーと思い近づくと背もたれの上に
ちょこんと何かのっている。
もっと近づいて見てみると
青い、和風の、布、袋?

そこでわたしはゾワワッときた!
それは間違いなくわたしのマイ箸袋だったのだ。





わたしはその4ヶ月ほど前に箸袋を失くしていた。
朝お弁当を用意して箸袋を探したけど無かったので、お箸だけそのままお弁当袋にダイレクトに入れて持って行った。(雑)
次の日も無かったのでそうした。
あれぇ箸袋どこにいったのかなぁ。
くらいは思ったけど、きっと引き出しの奥に落ちたのかなとか、そのうち出てくるやくらいで
あまり気にしてなかった。
4ヶ月なんて、まあまあ長い期間なのに
気にすることなくお箸をダイレクトインしていた。

そしてある日目の前に
突然その子は現れた。

わたしの、感動の、瞬間。
だけどひとりで黙食なので
無言で箸袋を取り、無言で席に座った。
わたしの箸袋
今までどこにいたの?
そしてどうやって戻って来たの?
そこは毎日お掃除されているし
遺失物置き場もあるのに。
それにその辺りの席には何度も座っていたのに。

今日このタイミングでわたしが座る
一席だけ空いていた
その席の背もたれに
どうしてのっていたの?

どんな冒険がその子にあったのだろう。
誰かに一度連れ去られたのか
それともずっとあっちにこっちに追いやられていたのか。
箸袋が喋れたら聞いてみたい。
どんな道を辿ってわたしのところへ戻ってきてくれたのか。

そしてわたしはこの4ヶ月間
その箸袋を失くしたことにも気づかず
探そうともしていなかった事を
とても申し訳なく思った。

職場に戻って
この奇跡の話をみんなにして
家に帰って
長旅の汚れを落としてあげた。

社員食堂の片隅で
わたしだけにわかる奇跡が起こった。

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