「旅人の木」 オウギバショウ 【南国花信風 1】
タビビトノキとよばれる木がある。
なんだか親しみのわく名前だ。青い空にすっと伸びた背の高い幹から、長い葉が、まるで扇のように放射状に広がる姿から、一般にはオウギバショウとよばれている。
住宅地のオウギバショウ(マレーシア)
オウギバショウは、英語名を旅人のヤシ (Traveler's Palm) という。最初にこの名で覚えたから、すっかりヤシ (palm) の仲間だと思っていたら、バショウ科らしい。
言われてみれば、葉のかたちはたしかにバナナに似ている。「ヤシ」とよばれているけれども、バナナと親戚関係とはややこしい。東南アジアでよく見かけるが、意外なことにマダガスカル原産だという。
バナナの花(マレーシア)
シンガポールのラッフルズホテルが、この木をロゴに使っているといえば、あの特徴的なシルエットを思い出す人もいるだろう。ホテルの正面玄関の脇にも、オウギバショウは何本か植えられていたはずだ。
英語では、旅人の木 (Traveler's tree) という別名もある。
「水分を多く含むほか葉鞘(ようしょう)の部分に水をためるため、旅行者がこの水を飲料として使ったことからタビビトノキ、リョジンボク(旅人木)の名でもよばれる。」 『日本大百科全書』
葉の根元に雨水を蓄えているので、ナイフで葉を切れば飲料水にできるらしい。今のようにミネラルウォーターが簡単に手に入らなかった時代、移動中の水の確保は旅人にとって最重要だったに違いない。
名前の由来には、扇のような葉が南北の方角に広がり、方向を知る手がかりになるからという話もある。オウギバショウは20メートルにもなるので、遠くからでも旅する人の目印になったのかもしれない。海を照らして船を導く灯台のように。
渇いた旅人に甘露を与える木は、リョジンボクという名ももっている。
街路樹としてのオウギバショウ(シンガポール)
オウギバショウ
別名 タビビトノキ、リョジンボク
英語名 Traveler's tree / Traveler's Palm
学名 Ravenala
マダガスカル原産