3.神奈川県(日帰り)―2024年3月
気が付くと、3月も終わりに近づいていた。
遠出をする気分ではないし、観光地を巡る気分でもない。自然に癒されるというよりは、お散歩レベルでちょっとだけ普段とは違う日常を味わいたい。
そんな気分にぴったりの旅は何だろう・・・著名な建築家、隈研吾さんゆかりの建造物をめぐる都内旅にしようかな・・・と、国立競技場をメインにスマホの地図アプリで大まかなルートを考え、行き方を調べ終えたところで、「都内は混んでそうだな」と思ってしまった。
今は混む場所に出かける元気はない・・・神奈川県はどうだろう? 神奈川県になら、今の自分にぴったりな旅先があるかもしれない。
できれば、隈研吾さんゆかりの建造物は見たいな・・・と調べてみると、大倉山の歓成院(かんじょういん)という寺院に隈研吾さんが設計した建築物があるらしい。横浜市内ではあるけれど観光地ではなさそうだし、ここなら混んでないかも。
そんなわけで、今回は神奈川県横浜市内にある歓成院を目的地に決めた。
普段の旅より少しだけフォーマルな格好で、電車に乗り込む。文庫本を読んだり、車窓を流れる街の景色を眺めたりするうちに、目的の大倉山駅に着いていた。
スマホの地図アプリを開く。すぐそばに、広い公園があるようだ。せっかくなので行ってみようか? そう思いつき、公園へと続く線路脇の坂道を上って行く。青空を背景に桜の花が咲いている。
左手に見えるのは、カフェかな? まだ閉まっているみたい。
スマホを覗き込んで並ぶ数人を横目に、坂道をどんどん上る。突き当りを大きく左に曲がると、木々の緑が飛び込んできた。歩道脇には色鮮やかなチューリップも咲いている。
歩道に沿ってさらに進むと、木々の間に階段が見えてきた。ここから中に入れそうだ。短い階段を上がりきると、並木道の奥にレトロな雰囲気漂う洋館が現れた。
この建物は何だろう? 外観を写真に撮りつつしばらく様子をうかがっていると、近所の人とおぼしきラフな格好の人たちや楽器を持った人たちが自然な様子で中へと入ってゆく。
入り口には「大倉精神文化研究所」の文字。扉は半分開いている。どうやら入っても良さそうだ。
意を決して、洋館の中へと入る。強い日差しの下で少し汗ばんだ体がすっと冷える。目の前には誘うように伸びる上階への階段。どこからか聞こえてくる弦楽器の音が反響している。異世界に迷い込んだらこんな気分になるのかしらん?
この建物はいったい何なのかしらん?
謎を解くため、まずは1階の探検を開始だ。おっと! 来館記念スタンプを発見!! ・・・こういうのは迷わず押すタイプ。スタンプ台でしっかりインクを付けて、と。
かなり慎重にインクを付け、ちゃんと力を入れて均等に押したつもりなのに・・・失敗。どうやら、スタンプ台が乾きかけている模様。それじゃあ仕方ないか。
気を取り直し、探検を再開だ。階段の裏側にて、奥に続く部屋を発見!
何かのギャラリーの様だが、入り口は閉まっていて入れない。
仕方ないなと回れ右をすると、下へと続く階段が現れた。地下もあるのか、この建物。ダンジョン感増してきたぞ。
地下も気になるけれど、まずは上に行ってみよう。入口側へ戻り、表の階段から2階へと上がる。大きな扉があるが、閉まっている。さすがに閉まっているところは勝手に入れないよね。
仕方がない。あきらめて3階へと上がると、第一村人発見! ・・・スーツ姿の女性が二人いた。どうやら、3階の1室で何かのセミナーをやっているようだ。参加者ではありませんよ、という顔で反対側へと進む。中央にある回廊部分にパネルが何枚も展示されている。
1枚目には「大倉精神文化研究所設立・大倉山記念館竣工90周年記念 大倉山記念館(大倉精神文化研究所本館)90年の歩み」と書かれている。
どうやらこの建物、大倉邦彦という人物が昭和7年(1932年)4月9日に建設し、今は横浜市のものらしい。パネル展示によると、大倉邦彦氏はなかなかの人物の模様。(付け焼刃で適当なことは書けないので、氏のことはこの辺で・・・)
建物の設計者は長野宇平治という人物の様だ。“石造りの神殿のような独特の外観を持ち、さまざまな装飾が施された建築物”であり“ギリシア文明より古い、3000~4000年前のギリシア青銅器時代に栄えたクレタ・ミケーネ文化の建築様式が採用”と書いてある。
中々歴史深く、面白い建物なんだなぁ・・・とパネルを順々に見ていくと、2年前の『建設通信新聞』が入ったパネルが現れた。大倉精神文化研究所の外観写真と・・・隈研吾さんの写真!?
なんと、隈研吾さんは幼少期、この近くに住んでいたらしい。この建物にもよく来ていたとか。期せずして、隈研吾さんゆかりの建築物に入り込んでいたとは。
その後もウロチョロと探検続行。気になる所で足を止め、細部までじっくりと観察、観察。
さて次は地下に行ってみようかと1階まで降りると、あれ? 先程発見したギャラリーが空いてる! やったーっと入ってみると、受付らしき机はあるが、村人・・・もとい、人はいない。
部屋は入ってすぐに突き当たり、左右へと伸びる空間の壁際にはたくさんの焼き物が並んでいる。どうやら、焼き物教室の展示会の様だ。
ぶら下げて歩いて作品にぶつけてはいけないので、ひとまず愛機z50をカバンへしまう。
いくつもの作品たちが見やすい距離感で並んでいる。作者ごとに全然違った個性を感じる。面白いなーと思いつつ、気になる作品の前で足を止めたりしながら進んでいくと、受付がある入口へと戻ってきた。くるっと一周するタイプの部屋だったんだな。
先程は空っぽだった受付に人がいる。教室のチラシを貰い、作品を見せていただいたことにお礼を言ってギャラリーを後にした。
さて、地下だ。降りて直ぐの部屋の中ではラッパ系の音が聞こえてくる。ここも勝手に入れないなと、回れ右。もと来た階段を戻ります。
存分に探検し、満足、満足。なんだかお腹が空いてきたし、何か食べて帰ろうか・・・と考えたところで思い出す。
そうだ! 歓成院に行くんだった!!
道すがら見つけた小さなお花たちを写真に撮りつつ、歓成院へ。
うーむ、観光系のお寺では無さそうだ。
まずはお参りし、境内にある隈研吾さんが設計されたという客殿をしばし観察。何枚か写真に撮らせていただいた。
目的も無事に達成し、大満足。
よし、お腹を満たして帰ろう。と、大倉山公園への道で見つけたカフェ(?)へと向かう。
改めて中を覗き込むと、カフェではなくパン屋さんの様だ。中は結構混んでいて、お店の外にも少し列が出来てはいるが、回転は早そう。こじんまりとしたオープンテラスにはテーブルと椅子があり、食べていくこともできそうだ。
最後尾に並びスマホをのぞき込んでいると、10分ほどで中に入れた。
お店の人に教えてもらった人気商品といくつかのパンを購入し、テラスで小休憩。冒険を終えたにわか勇者は帰路へ着いたのであった。