出川哲朗さんこそ、最高の旅人かもしれない
唐突だけど、出川哲朗さんこそ最高の旅人かもしれない、と思った。
先日、テレビ東京系の『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』という旅番組を見ていた。
出川さんが同行ディレクターとともに電動バイクにまたがって、日本各地を走っていく。そして、行く先々で出会った人々に、バッテリーを「充電させてもらえませんか?」とお願いしながら旅をする、という番組だ。
「バッテリーの充電」という風変わりな点はあるものの、それ以外は、いたって普通のバイク旅である。
すごく珍しいところへ行くわけでもなく、特別変わった人に出会うわけでもない。
神社を参拝したり、温泉に入ったり、土地の料理を食べたり、夜はホテルに泊まったり。
そして各地で、地元の人々と交流していく。
ただそれだけの旅番組なのに、これがものすごく面白いのだ。
なんでこんなに面白いのだろう?と考えて、はっと気づいた。
旅のバイブル『深夜特急』の著者である沢木耕太郎さんに、『旅する力―深夜特急ノート―』というエッセイ集がある。『深夜特急』執筆の裏エピソードなどを綴ったこの本に、沢木さんはこう書いている。
どんなに珍しい旅をしようと、その珍しさに頼っているような紀行文はあまり面白くない。しかし、たとえ、どんなにささやかな旅であっても、その人が訪れた土地やそこに住む人との関わりをどのように受け止めたか、反応したかがこまやかに書かれているものは面白い。たぶん、紀行文も、生き生きとしたリアクションこそが必要なのだろう。
(沢木耕太郎『旅する力―深夜特急ノート―』213p. 新潮社)
『深夜特急』の読者であれば、まさに「生き生きとしたリアクション」こそ、作品の魅力であることに頷けるはずだ。
そして沢木さんは、こう続けている。
「移動」というアクションによって切り開かれた風景、あるいは状況に、旅人がどうリアクションするか。それが紀行文の質を決定するのではないか。
(沢木耕太郎『旅する力―深夜特急ノート―』213p. 新潮社)
沢木さんの文章の中にある「紀行文」を、「旅番組」に変えたなら、イメージするのは誰だろう。
生き生きとしたリアクション。「移動」というアクションに……、旅人がどうリアクションするか……。
僕なら真っ先に、出川哲朗さんを思い浮かべる。
『充電させてもらえませんか?』の出川さんがまさにそうだ。
神社へ行けば大きな感嘆の声を上げ、温泉には「あつい!あつい!」と喚きながら入り、土地の料理は本当に美味しそうに食べ、無事にホテルに泊まれれば大喜びする。
そして地元の人々とは、馴れ馴れしいくらいに、フレンドリーに交流を楽しむ。
出川さんのそんな生き生きとしたリアクションこそが、この番組の面白さの淵源なのだ。
旅そのものに格別面白いところはないはずなのに、出川さんの豊かすぎるリアクションのおかげで、すごく面白い旅番組になっている。
もし他のタレントが旅したのなら、こんなに楽しい番組にはならないだろう。
とすると、「旅を伝える人」として、出川さんは、とても優れた存在ということになる。
いや、それだけではない。
なんといっても出川さんには、どこまでも前向きな「好奇心」がある。
気になる人を見かければすぐにバイクを止めて話しかけ、興味深いことがあればすぐに人に質問する。
その「好奇心」もまた、旅を面白くするエネルギーになるはずなのだ。
旅をするうえで最も大切な「好奇心」と、旅を伝えるうえで最も大切な「リアクション」。
その2つを兼ね備えた出川哲朗さんは、まさに最高の旅人と言えるのではないだろうか?
僕もまた、まもなく新たな旅に出る。
出川さんほどのオーバーリアクションはできないけれど、「好奇心」を持って旅をして、そこで生まれた「リアクション」を、誰かに伝えていきたいと思っている。