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海外での見知らぬ友 4

ロンドン編

フォートナム & メイスン
Fortnum & Mason

(表紙画像はFortnum &Masonで購入したネクタイ)

そこは、ロンドンのピカデリーサーカス付近にある有名な百貨店の本店だ。
私は大学生をイギリス研修に引率するときは、いつも一日自由研修という名の自由行動をプランに組み込んでいた。
朝、オーピントンという郊外にあるホームステイエリアからピカデリーサーカスまで電車と地下鉄で移動する。そこなら集合をかけるのにちょうどいい場所になるからだ。そこを中心として蜘蛛の巣状に道が広がっている。
そこから学生たちを送り出す。そして、4時頃を集合する時間にするのである。

私は、この百貨店に行くことに決めていた。学生たちがそれぞれ行きたい場所目指して消えて行くと、私はとりあえずその日の目標の一つ、大英博物館を目指した。学生がいない分、博物館のエジプトコーナーを満喫しようと目論んでいたのだ。

私は外国の博物館に行くと、ほぼ間違いなくエジプトコーナーを訪れる。マンハッタンのコスモポリタンミュージアムやボストンミュージアムも、まずはエジプトコーナーだ。

ロンドンの2階建てバス

他にはディケンズが小説に書いた『ブリークハウス』(邦訳『荒涼館』)という作品に出てくる「Old Curiosity Shop」を終点に、ディケンズにまつわる通りを物語を追うようにして訪れたりした。

「Old Curiosity Shop」(骨董品店)

残念ながら、この店はその日は閉店していたから、覗くことしかできなかった。この店で「自然発火」が起きたと、『荒涼館』の中でディケンズが描いている。その自然発火について、研究者の間で実際にそれが起こるか否かなどと言う研究がなされたりしたいわくつきの店だ。

( ロンドンのDIKENS HOUSEの展示物より)

この「骨董店」を見届けてから一人で前述の百貨店を目指した。
これには理由がある。

人種差別が事実として存在するのかを確認する、というものだ。
 
この訪問の一年前に教え子が遊びに来てくれた時に、この百貨店でアフタヌーンティーにしようと、中2階にある場所に行って、人種差別を受けたと随分興奮して私に行かないようにと言ったのだ。
 
私はそんな話を聞けば、行かないわけにはいかないのだ。

中2階を通り越して、何階か忘れたが(多分5階)レストランでアフタヌーンティーをすることにした。観光客がいないからだ。ロンドンの百貨店の自然の姿をみたかったからだ。
中央に大きな心を癒してくれるインテリアがデンと構えていた。何だったか覚えていない。
 
フォートナム & メイスンでは、特に2人の人に焦点を当ててみる。

この2人はレストランで出会った人たちだ。出会ったというよりは、私の心を癒してくれた人たちだった。2人とも女性だ。
 
デカいインテリアの周囲にテーブルとイスがダンスフロアのようにゆったりと踊っていた。
 
私は中央寄りにあった一つのテーブルで席に着いた。
 
注文をしようと、ウェイターやウェイトレスに声をかけるタイミングを探っていた。
何故かウェイターもウェイトレスも、側を通っても注文を取ってくれる気配がない。声をかけようとすると、するりと方向を変えてどこかへ消えてしまうのだ。まるで私は透明人間だ。

アメリカで人種差別的な扱いを受けた記憶は少ない。
 
フォートナム & メイスンでのこの体験は人種差別の怖さを体験できたという意味では、行ってよかったと思う。
 
そこに一人のウェイトレスさんが近づいてきた。大きな黒人の女性だった。
 
私は既に30分以上も耐えていたのだ。この経験を体の芯に収めておきたかったからだ。
 
「何かご注文ですか?」
 
「さっきから待っていたのですが、誰も注文を取りに来てくれないんですよ」
 
「ごめんなさいね。私は注文を取る係じゃないんです。誰かに声をかけるように言いましょうか」
 
私はこの申し出を断った。彼女が困ることになるのは本意ではなかったからだ。
実は彼女が客のアフタヌーンティー終了後のテーブルを片付ける係らしいことに気づいていたからだ。
 
「私はもう時間がないので、帰るつもりでしたから・・・」
 
こう言って私は席を立った。このウェイトレスさんに「ありがとう」と言って部屋を出た。
彼女は(お気の毒に・・・)とでもいうような目つきで私を見送ってくれた。
 
レストランを出ると、ソファーがいくつかあって、そこには何人かの待合人らしき人々がいた。
その中に、一人の上品そうなおばちゃんがいた。私がレストランから出るとすぐにおばちゃんと目が合った。
 
「ダメだったの?」
 
彼女は明らかに私が一人で何も注文を聞いてくれない様子を見ていたのだ。ガラス張りの向うに、私が座っていたテーブルがあった。
 
「そうなんですよ。声をかけようとしても避けるような動きをされて・・・。ビックリしてしまいました」
 
「お気の毒にね。注文取ってくれればいいのにねぇ。どこから来られたの?」
 
私はその方の隣のソファーに座った。
 
「日本です」
 
「まぁ、そんなに遠くから。尚更残念でしたねぇ」
 
その後10分ほどいろいろな話をして、その場所を離れた。
 
レストランでの貴重な体験を私の小さな宝の箱に収めることができただけでも来た甲斐があったというものだ。
中にいる間、何度か卒業生が体験した話を思い出していた。
 
私はその体験を、差別をする心を上品な壁紙や豪華なシャンデリアで覆い隠しているうわべの姿と重ね合わせて、やはり貴重な体験だったと思っている。
 
私は中2階に降りて行って、そこで席を見つけた。
そこはレストランとは違って、観光客で一杯だった。
 
アフタヌーンティー中心のフロアというだけあって、すぐに注文を取りに来てくれた。フランスの宮殿を思い起こさせてくれそうなスカイブルーの壁に圧倒されたレストランとは格の違いさえ感じさせられる。
でも、こと接待に関して言えば、この中2階の方が合格点だ。あの卒業生が人種差別をされたと我が家で興奮して騒いだのとは、大きな違いを感じさせられた。ただ、確かに粗野で雑な扱いではあった。それでも本場のアフタヌーンティーを味わえただけましだ。しかも、隣のテーブルには引率した学生のグループがいて、楽しい会話が弾んだし・・・。

楽しかった。
 
アフタヌーンティーを終えて、学生グループを置いて、私は学生よりも少し早くピカデリーサーカスに戻った。
 
いい一日の自由時間だった。
ピカデリーサーカスの写真が見つからなかったのが残念無念!

付録画像(Old Curiosity Shop)

ピカデリーサーカスの写真が見つからない腹いせに、
私はOld Curiosity Shopを覗くようにして写した画像をお見せすることに決めた。
説明のしようがないので、
想像力を働かせて、店に置かれていた品物を値踏みしてみたらいかがでしょうか?



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