チップ騒動 5(教えて!Amtrak赤帽)
(表紙:Union Stationのフードコート)
確かあれは1989年だった。
知人を連れてアメリカを観て回るツアーを企画した。
足を踏み入れた順番は覚えていないが、New York、Boston、Niagara、Washington DC, Los Angeles、Honoluluだったと思う。
この記事は、New YorkからWashington DCへ行く道中の経験だ。
マンハッタンからワシントンDCに行くには、公共交通機関としては長距離バス、Amtrak、そして飛行機という手段がある。
私自身はこれまでに、どの手段も経験している。それぞれに利点がある。
値段はいろいろ時と場合で異なるが、Amtrakなら3時間位、2万円と言ったところか。
私がこの前年に妻と行った時は、シニア料金でしかも二人の年齢の合計が高かったのかチケット1枚で2人分の乗車券というラッキーな価格帯があったので助かった。私は気が付かなかったが、パスポートを見せると、窓口の係の人が教えてくれたのだ。
“You’re lucky!”
上記の画像のチケットがそれだ。「Family plan Fare」と書かれている。私はこのチケットを記念に持ち帰ったことをすっかり忘れていた。この記事のために、何か写真はないかと思ってアルバムを探していた時、このオリジナルの使用済みチケットが差し込まれていた。
丁度昼時だったので、食堂車に行ってバーガーキングの何かを購入して席に戻って、景色を楽しみながら食べた。
景色は意外に緑が多く、水辺も見られ、私がそれまでに経験してきた殺風景なアメリカのものとは違っていて感動した。
バスだと、5時間前後の時間を要する。御想像通り、値段は一番安い。5000円前後だ。
私は初めての時は、グレイハウンドバスを利用した。アメリパス(乗り放題)を買って1週間の期間を有効活用したのだ。
この時は午前1時発のバスに乗る予定だったが、ここでは省略する。
とても怖い雰囲気に身が縮む思いがしたので、急遽変更して午後11時頃発のバスにしたのだった。
ワシントンDCには午前5時頃に着いた。ここでも夜が明けるまで怖い気分を満喫させられた。
夜が明け、人々が行き交うようになってからホワイトハウス見学に動き回った。
飛行機は1時間半位だ。だが、空港までの時間と費用が別途かかる。
私たちがAmtrakに乗るために33番ストリートのペンシルベニア駅(Penn Station)に行った。チケット売り場までは長いエスカレーターで降りるのだ。ところがこのエスカレーターが故障だったのだろう。動いていないのだ。人々は歩いて降りていた。客が次々に降りて行く。殆どの人がスーツケースを抱えたりしながら降りて行った。私たちもスーツケース持ちだ。それを置くスペースもないほどの混雑ぶりだ。
私は高所恐怖症に近い。エスカレーターの下を見るのが怖いほどだ。
ワールドトレドセンターの屋上に行くときのエスカレーターを思い出した。また1944年に高校生の修学旅行引率時のホテルから地下鉄に降りる時のエスカレーターに乗った時も、思い出すほどの高さがあった。
下に降りてチケットを買うと、アムトラックに乗る人に近づいて来るスーツケースを沢山乗せたカートがある。見ていると、人々がそのスーツケースを乗せて行く。
私は一応、行き先を言うと別のカートだという。そのカートに近づいて、スーツケースを乗せてもらった。
預け証を受け取ったかどうかは覚えていない。
車内では思ったほどには混雑していない。ゆったりと座れるのだ。スーツケースがない分、気分は落ち着く。
車窓の景色は、前年の妻との旅行の時と同じ感覚だ。心の中で「懐かしい」と思った記憶がある。もう見ることはないだろうと思ったのに、1年後に見ることになろうとは思ってもいなかったのである。
Washington DCが近づくにつれて、私の頭の中は、無事にスーツケースを手にすることが出来るだろうかという不安だった。
そもそも「赤帽」がアメリカにあるとは思ってもみなかったのだ。妻との時はそんなことには全く気が付かなかったからだ。
Washington DCのUnion StationのホームにAmtrakが滑り込む。
客がどっと下車し始める。
私は赤帽のカートを探す。
私たちが降りたすぐ後ろからカートがゆっくりと下車した人々の間を動いていた。
それを見つけた人々がそのカート付近で歩みを合わせていた。
カートにスーツケースを預ける時に見た覚えのある人々がその中にいるのに気が付いて、私は安堵した。歩みのスピードをカートに合わせた。
そうは言っても、タダなわけがない。いくら払えばいいのかさっぱり分からない。
だんだん改札口に近づく。
勇気を出して、私の横を歩いていたおばちゃんに聞くことにした。
「いくら払えばいいんでしょうかねぇ?」
「あら、感謝の気持ちを表現するのだから、自分の思う額を渡せばいいだけよ」
それが分からないから聞いたのに、と思いながら別の人を探した。
同じ問答をしたのだが、返ってきた答えは同じだった。
仕方がないので、私はスーツケース1つにつき1ドルと勝手に決めた。
今から30年以上も前のことだ。今ならもっと出さなければいけないのだと想像している。
完