旅先で怒られたことある? 3
「ある、ある」
これが私の返答だ。
アメリカだけではない。
イギリスのロンドン。
3年続けて大学生を連れて訪れた。
そのたびに大きく分けて3種類のプログラムだ。
① ホームステイ
② ロンドン市内見学を自由行動中心に
③ ウィンダミア中心に湖水地方等、ロンドンから離れて行く一日旅行
ホームステイは、土日は一日中ホストファミリーと時間を共有する。
これは引率教員としてはとても重要な時間なのだ。
かっこよくホームステイとしながら、この土日は教員の自由行動の時間になる。
例えば、私を例にとってみよう。と言っても私が3回とも引率教員だ。
私が行った場所は、歴史探訪みたいなものだ。簡単に列挙する。
① ロッチェスター (2年目以降は、学生の一日旅行に加えた)
② カンタベリー (言わずと知れた『カンタベリー物語』の舞台ともなった場所だ)
③ ヘイスティングズ(1066年に征服王ウィリアムがノルマンディーからイギリスを攻めてきた最初の地。つまり現王室の第一歩を踏み入れた地)
④ ディケンズの作品現場の探訪 + サミュエル・ジョンソン生家探訪等
これ以上書いていると、この記事のポイントがずれていきそうな危険を感じ始めた。これが筆者のいつもの足取りだ。
土日の私の自由行動は、ロンドン市内でもあちこちに出没したことで発言しなければいけないのかもしれない。
私は、どの海外に出かけても日曜日は教会に出かける。
ロンドンと言えば、行きたくなる教会は数多い。
その中でも行くなら日曜日の礼拝だ、と決めていた場所がある。
一つは、ロンドンではないが、ロッチェスター・キャシードラルだ。ディケンズとの関係があるからなのだ。
もう一つは、ウェストミンスター大聖堂だ。
Rochester Cathedralへは一度日曜日の礼拝に出かけてきた。
知らなかったのだが、その日がたまたまイギリス流「母の日」だった。
礼拝はまるで中世の世界のような荘厳さが満ち溢れていた。
特に感動したのは、
礼拝が終わって、司教が退場するときの雰囲気だ。
まるで「中世」の世界が姿を現したかのような荘厳さなのだ。
私はカメラを回そうかどうしようかと迷っていた。
あまりの荘厳さに、どうしても収めたかったのだ。
あまりの荘厳さに、どうしても収めることができなかった。
実は、礼拝に出席するにあたり、
覚悟しないといけないことがあったのだ。
入り口に張り紙がしてあったからだ。
「観光客の方はご遠慮ください」
これを書かれると、さすがにビデオを撮る許可を訪ねる勇気は萎える。
そこで、私は目に焼き付けることにした。
まるで優勝旗のような旗を先頭にして
執事か誰か知らない人が、司教を先導する。
着ているものがまたすごかった。
日本式に言えば、
金襴(きんらん)緞子(どんす)に身を包んで、司教たちはしずしずと前進する。
それを信徒たちは、祈りの姿勢で見送る。
ここまで書いてみると、
やはり、ビデオを撮らなかったことが悔やまれてくる。
私は観光客としてその礼拝に参加していたわけではない。
ビデオを我慢する力はその一点から発している。
もしここでビデオを撮りだして撮影したとして・・・
きっと、教会の役員か受付の人からおしかりを受けただろう。
そんな事態になれば、折角の礼拝を台無しにしてしまうのだ。
子供たちが、女性に「黄色いラッパ水仙」を1本ずつ手渡す。
「母の日」だからなのだ。
日本とは時期が異なることが面白い。
それが終わると、大人の男性からだったと思うが、
残りの参列者にも1本ずつ「黄色いラッパ水仙」が配達された。
勿論、私もそれを受け取った。
このロッチェスター大聖堂でのことは
そのままのタイトルで公開している。
それは、私が学生を引率した報告書として
大学当局に提出するために書いたものだ。
大学でのホームステイプログラムの企画は、
私が提出して教授会から許可を得て実施したものだ。
単位を出すから許可が必要なのだ。
なかなか私が怒られる場面が出現しない。
そう簡単に怒られていては身が持たない。
もう一カ所、
どうしても行きたい場所があった。
それは、Westminster 大聖堂だ。
テレビで見たことのあるあの大聖堂だ。
何事も無いようにしてそっと座る。
そして、何事も無いようにしてそっとビデオカメラを出す。
そうして、何事も無いようにしてそっとビデオを回したのである。
どきどきした。
わくわくした。
誰かが声をかけてきた。
誰かが肩をたたいた。
ハッとして顔を上げると、
威厳のありそうな教会関係者がいた。
警備員の方だったかもしれない。
「カメラを回すのをやめなさい」
私は何を言われたかわからずにカメラを回しながら
振り向いたのだ。
「これ以上カメラを回すと、
カメラを取り上げることになりますよ」
聞こえてきたのは、押し殺したような
低い
力強い
妥協を許さない
有無を言わさない言葉だった
私はすぐさまカメラを止めて
手荷物の中にいれた。
「すみませんでした」
すると、何事もなかったかのように
その人は静かに私から離れた。
(表紙画像はヘイスティングズの海沿いの不思議な街並み。このすぐ横に高い崖があって、ノルマンディー公ウィリアム=征服王ウィリアムが攻め上ったのだと感心させられる)