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ぼくの旅路 #18

サンダンス最終日

 四日間、見事な晴れとなった。最後の一日だ。今日が最後と思うと、力を振り絞れる。力の限りにダンサーたちをサポートしたい。ダンサーたちも、最後の力を極限にまで絞りきって、サークルの中で踊っている。いや、もう彼らの中にはもうこれっぽちの力も残ってはいないのではないか。四日間も断食をして、朝から晩まで、影一つない大草原の炎天下の下歌い踊っているのだ。彼ら個の力を使い果たし、自我を燃やしきり、その先の大いなるものにつながり、今、僕たちの目の前に立っている。その姿は、我々の魂を揺さぶる。サンダンスの歴史では、村を代表して、村一番の強靭な体とスピリットの持ち主が、村人全員の平和のためにサンダンスを踊ったという。自分の命を捧げて、コミュニティのみなのために踊ったのだ。その姿は、村人全員の魂を奮い立たせ、人々がここにいることの意味、そして、お互いのつながりの強さを呼び覚ましたことだろう。それは、僕の目の前のこの光景にも広がっている。つい四日前は見ず知らずの人々だったが、今では、我々の魂は一つに束ねられ、嵐が来ても決して倒れることのない結束の強さが、サークルの中心に立つ聖なるシンボルツリーを核としてに生まれているのを感じる。ダンサーたちは、左右の胸に突き刺された一対にイーグルボーンのピアスに紐をくくりつけ、サークルの中心の一本の聖なる木に繋がれている。僕たちは、サークルの外を囲み、ダンサーたちの背中を支えるごとくに、歌い踊りサポートをする。その周りには、大きな太鼓を打ち鳴らすシンガーたち。エルダー(長老)たちが腰を下ろし人々を見守っている。風にたなびく幾つものティピがさらに大きな円で我々を囲っている。丘の向こうには我々のキャンプするテント村があり、子供たちが走り回っている。丘を下って、サークルへ向かい歩く母娘の姿が見える。我々の頭上には、空高くに鷲が旋回している。蜃気楼にすべて光景が白昼夢の様に揺らいでる。ここで何が行われているのか実感なしに、大草原に跳ねまわり遊んでいる幼き子たちの魂にも、真意の種が蒔かれ滋養の雨が降り注いでいることだろう。それは、ここにいるもの全ての魂にとって同じである。ただ一人ではく、ここにいるもの全てのものの魂が揺り動かされ、振動し、共鳴した時、新たな次元が生まれることを感じずにはいられようか。太陽がさらに高みに登り頂点に達する従って、シンガーたちの歌も調子も変わってきた。チーフの合図が出され、ダンサーが一人一人、正真正銘の最後の魂の叫びをあげた。彼らは、胸に刺さるピアスと聖なる木がロープで繋がれたまま、後ろに向けて一歩一歩踏み込んでいく。胸のピアスと聖なる木にまたがるロープのテンションは高まり、弾け、ロープが宙に舞うのを目にする。解放されたダンサーは母なる大地の下へ投げ飛ばされ、草むらに倒れこむ。

圧倒的なことへの涙が流れた。そこには我はなかった。エゴは存在していなかった。ただ、ダンサーたちを讃えたかった。この場を支えたチーフをはじめ、みなみなに感謝の念が溢れた。ここに居れたことの喜びを感じた。自己のエゴを超越した喜びがあった。

 ぼくは、グラスホッパーにとても感謝している。今でもその気持ちは変わらない。いや、むしろ、過去を振り返りこうして文章にしてみて、あの時の経験が自分にとってどれだけ大きなことかと、そして、その後の人生の大きな支えとなっていたことを改めて強く感じている。

 グラスホッパーが、「一緒にダンスを踊ろう」と誘ってくれたことで、ぼくはここまで深くサンダンスに関わることができたのだ。それは自分自身の心の奥の奥の奥まで覗き込む入り口だった。そこで自身のエゴと出会った。エゴと出会い、その存在をはっきりと認めた。 はっきりと認めた時に、新しい行き先が照らしだされた。周りにいてくれた人々の存在のお陰で、ぼくは、はじめてその新しい道を選択する勇気を持てた。そして、進んだ道の先には、自己が消えた大きな世界が広がっていた。そこには、ダンスを断ってしまって申し訳ないと思っていたグラスホッパーが「よい学びの道だっただろう」と、屈託のない笑顔で待ってくれていた。

サンダンス最後の夜。

 無事に踊り終えたダンサーたちも一緒になって、皆で、感謝を送り合う夕食の席となった。四日間背中越しに見つめていたダンサーたちと、正面から顔を見て話し、その汚れなき姿は、もう嫉妬でではなく勇気と尊敬、感謝の対象であった。そして、この目の前の人の命が無事であったことの喜びと、その人を支えられたこと、この場をみなで支えた来れたことの喜びを感じていた。

 グラスホッパーがぼくのところにやってきた。「背中越しに感じていたきみの存在に、たくさんのエネルギーをもらったよ。お陰で、わたしは踊りきることができた。ありがとう」と言葉を贈ってくれた。「きみと一緒にサンダンスに来れて良かった。」

 ぼくは、自分の選んだ道を讃えたかった。人々のため、母なる地球のために、自身の命を捧げた人たちをサポートできたことが何よりの誇りだ。そして、それは自身への誇りとなり、今でもグラスホッパーが渡してくれたパイプとともにここにある。


【 エゴを見つめる / ネイティブ・アメリカンの教え 】

ー 完 ー



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