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村八分になった漁師さんに、 ムラ社会の楽しみ方を聞いてきた

“出る杭は打たれる”は本当か? 

異分子とみなされ、村社会から排斥されるなんて本当にある話なのか?村八分の実情を知る漁師さんにお話をうかがってきました。

ホタテ漁師 高森優(たかもり・ゆたか)さん ホタテ養殖のビックデータ管理に挑む、“考える漁師”。人間の都合で廃棄されてしまう魚「未利用魚」の価値を伝え、最高の鮮度で産地直送するサービスも好評。

「時間が止まってる!」

東京から地元に戻って驚いた。他人の成功は、面白くない。今の状態をぶち壊す奴は、許せない。僕が生活してる漁業の現場には、そんな空気が蔓延してます。

去年の4月、一悶着ありました。

「新しいことを持ち込む奴は、気に入らん」。

それだけの理由で、僕から、共同漁業権(漁をできる権利)をすべてはく奪しようという企てがあったのです。

嘘みたいな話ですが、青森県の小さな漁村で起こった実話です。

今さら、閉鎖的なムラ社会を発信するなんてナンセンスだと言う人もいるかもしれません。
でも、僕はリアルを発信することに決めました。それには、3つのねらいがあります。

まず、出る杭は打たれるという現状に苦しんでいる人はいっぱいいる。漁業じゃなくても一般企業でも同じ。だから全国の同志と現状に立ち向かう楽しさを共有したい。

次に、ケーススタディのひとつとして、地方に移住してこれから新しい挑戦をしようとしている若者に届けたい。ショッキングかもしれないけど、正しい現状認識の上に未来は拓けるはず。

最後に、村社会を隠蔽する必要はない。漁村と都市を「漁業現場のリアル」でつなぎ、双方の意見を対流させたい。閉鎖的な地方の現場に外からの風を吹き込ませたい。

では、はじめます!

ヤンキーの街「蟹田」に生まれて

このあたり(上磯地域)って青森の高校生の間でも馬鹿にされるんです。学力が低くて、ヤンキーが多い。地元を出ると、「ああ、お前、蟹田出身だろ?」という目で見られる。故郷への劣等感は募っていきました。

青森北高校に進学し、野球部に入りました。当時は、前ソフトバンクホークスの細川が後輩にいて、県大会で準優勝するほど強かった。でも僕は基本“地味キャラ”で。歯を食いしばってコツコツ練習して、途中出場で6番から9番まで下位打線を任されるとか、そんな感じでした。

卒業後は実家の漁師を継ぐか迷いましたが、結局、指定校推薦で函館の大学へ。

ところが、ラクして大学に入ったことを後悔するようになりました。就職活動のときに、ふと「オレは大学で何やったんだ。信念を貫いてやってきたことなんて何もないじゃないか」って悔しくなった。

「自分の実力を試したい!」

そう思ったら一直線。東京の住宅販売会社の飛び込み営業部隊に就職しました。

その会社は、今でいう「ブラック企業」でした。営業成績が悪いと灰皿が飛んでくる。100人が就職しても次の年の終わりには10人くらいになってる。毎月誰かしらいなくなる。相当インパクトのある経験でした。2年間食らいつきましたが、ふと我に返りました。

「これくらい都会で頑張れるんだったら、地元に帰って漁師になってもすごいことができるんじゃないか!?」

地元に帰ってきて目の当たりにした“ムラ社会”

僕が地元に帰って見たのは、「閉鎖的な過疎地域」と「閉鎖的な漁業社会」が掛け合わさった、強烈なムラ社会の姿でした。

「漁師って、カッパ着て汚れて大変そう」とか言われますが、漁師は決して貧困にあえいでいるわけではないんです。漁業のよくないイメージを隠れ蓑にして、自分の暮らしを守ってきたという構造がある。

たとえば、こんな事件がありました。国会議員を使って「ホタテの残さ処理にお金がかかって大変だ。そのせいで年間2軒も3軒もウチの組合の漁業者が廃業して困っている」と水産庁に嘘をついた。さすがに疑われて、結局嘘がばれて逮捕者も出た。一部では、「高森が密告した」なんて噂も流された。要はそういう体質なんです。自分たちに都合がいい世界を作って、その中で逃げ切れればいい。今さえ乗り切ればいい。おそらく、このような構造は、漁業に限ったものではないはずです。

ムラ社会のリアルを知って、最初は悩みました。だけど、なにも仕掛けなければ歳とってムラ社会に埋没してく。大学行った意味も、東京行って学んだ意味も何もない……!
自分の生き様を否定することになるじゃないですか。

僕はムラ社会に喧嘩を売りました。そのうち飲み会にも誘われなくなって、村八分状態になった。でも、そんなことは気にもなりませんでした。いくら批判されたって構わない。正々堂々と漁業社会に一石を投じる挑戦が始まりました。

ムラ社会を突き抜ける2つの実践

ムラ社会を突き抜けるために、一人で動くのと、漁協に働きかけるのとどちらが得策でしょうか?

岩手県大船渡市の綾里漁協のように、漁協単位で改革をうまく進めた例もあります。しかし、目指す方向が一致しない者同士で動き出しても、途中で空中分解する様子がありありと目に浮かびました。僕はまずは一人でできることから始めようと判断しました。主に2つの取り組みに力をいれています。

1つ目は、ホタテ養殖のデータの蓄積と解析。
みなさんの食卓に並ぶホタテ、どうやって育っているかわかりますか?ホタテの入ったカゴを海に吊り、漁師が1年以上かけて世話をしています。
でも、ただ育てるだけでは芸がない。僕はコツコツ型の性分なので、単純な繰り返しを丁寧に続けることに向いています。水深や水温などのデータを毎日記録しデータを蓄積しています。海洋大とコラボし、IoTで養殖施設をモニターし続けるシステムも構想中です。こんなことをしている漁師って、まずいないんです。

それが功を奏し、多い年は5,000万円以上、少ない年でも2,000万円以上の売上を出しています。2017年の5月には陸奥湾の漁師で初めて事業を法人化します。

さらに、これを収入の基盤として、もうひとつ、ソーシャルな課題にも取り組んでいます。人間の都合で廃棄されてしまう魚の問題です。

人間にいじめがあれば、魚の中にもいじめを受けてる魚がいる。傷がついたり、数が少なくて出荷できなかったり、そもそも市場価値が低かったり。そういう魚は、「未利用魚(みりようぎょ)」と呼ばれ、廃棄されています。6年前、NPO法人FTF(Fair Trade Fishery)に参画し、未利用魚セットとして直接販売するサービスを始めました。

都会のご家庭から「息子が大喜びでした!」とSNSで声が寄せられます。捨てられるはずだった魚の命が、きっと死後も語りつがれるのだろうと思うと、感慨深くなりました。

ある日の未利用魚セット。マコカレイ、マカレイ、トゲクリカニ、アカザラ貝、マダコ、が入って3,780円。カレイはすべて、高森さんが一匹一匹「活け〆・神経〆」をほどこしているため、鮮度抜群。

愛される漁師に、俺はなる!

さて、10年先にどんな未来を描くのか?

奇跡のリンゴ農家、木村秋則(きむら・あきのり)さんを知っていますか?彼は「愛されるリンゴ農家」です。僕はその漁業版、「愛される漁師」に向かって精進したい。「愛される」とは、お客さんから、「高森さんのホタテが欲しい」と名指しで注文をいただくことです。

そのために心がけているのは、どんなに馬鹿にされても、常に日本の漁業にとって正しいと信じた道を選び続けること。データの蓄積も未利用魚の販売もやり続ける。ただ食べるためとか金を稼ぐためという次元を超えて、活気のある10年後のムラ社会をイメージして、それに向かって歩いてく。日本の漁業に本質的に必要なのは、物理的イノベーション(IT技術や箱物設備)ではなく、精神的イノベーション(村社会を超えるマインドセット)に違いありません。

だからこそ、志を買ってくれるお客さんが増えたり、僕のやり方を参考にしてくれる漁師が出てくることが、何ものにも代えがたい希望なのです。

足を引っぱる人たちとの付き合い方

すべて、自分を成長させてくれるチャンスです。こういう風には絶対なりたくないという人たちは最高の反面教師です。そう考えたら、足を引っぱる人が増えるほど、青森だって東京を超えるスーパーハイレベルモードの学びの場になる。なるほど、 “我以外皆師なり”という言葉の意味もわかりました。

だんだん、批判されるのが楽しくなってきました。なぜか。批判する相手はどんな人間なのか、批判されてる自分が今どういう立ち位置にあるのか、客観的に把握することができるからです。打たれてもへこたれない、賢明な図太さが必要です。

さらに詳しく聞きたい人、ぜひ青森県蟹田に来てください。海と闘いながら、自分を鍛えたい若者も歓迎です。待っています!!

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「野球をやっていた頃はもやしでした。全然打てなかった」と照れ笑いする高森さん。高校生の時から、地味にコツコツ積み上げてきた。ホームランは打てないが、確実につなぐのは得意だった。


一網打尽に魚を獲りまくる漁師が4番打者だとすれば、高森さんの背番号は「2番」かもしれない。消えかかった漁業社会のともし火を次世代に「確実につなぐ」。お金のためでも、自分のためでもない、ムラ社会を鋭く突き破る「送りバント」が成功するように応援しています。

文責:森山健太(早稲田大学4年)

※この記事は2017年に作成されました。内容は当時のものとなっております。高森さんのチャレンジは勇気をもらえる。素敵な記事なので過去記事を掲載いたしました。



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