「ガチで農業!有給インターン@山形県小国町」移住した地域で生きるかどうかの決断~運命の出会いは若者の人生をどう変えた?【イベントレポート/後編】
NIPPON TABERU TIMESでは、2019年8月5日(月)〜12日(月)に山形県小国町で「ガチで農業!有給インターン@山形県小国町」を開催しました。
そんなインターン参加者の声を記事の前編ではお届けしましたが、後編では受け入れ側となって下さった農家さんにフォーカス。農業法人「ハートランドファーム」に勤める山中那智さんに話を聞いてきました。
現在こうして農家として働く彼も、実は移住者の一人。小国に来る前は大阪にある動物系の専門学校に通っていました。
「小国との出会いは偶然」
そう話す彼の心の内を聞いてきました。
書き手:土谷奈々
幼少期の遊び相手は「自然」。それが僕のルーツ
那智さん:今の僕を形成しているのは、小学校3年生まで和歌山の新宮市熊野川町というところに住んでいて、そこはスーパーまで3時間とかかかるようなところだったの。
那智さん:ぜんぜん田舎!そこでの遊び相手が「自然」だったの。夏は川で遊んだり、畑つくったりとか。朝、猿が畑に作物を捕りにいくのを、小学校1年生くらいのときの僕が、石をもって待ってた、みたいなそれぐらいの田舎。
那智さん:そうそう、お母さんに「今日の晩御飯とってきて」って言われて、川に鮎捕りにいくとかね。そういうすっごい田舎生活をしてて、そこから和歌山市っていう和歌山の中でも都市に出て、都市だから自然との触れ合いは減るわけじゃん。
そのとき(高校時代)は、バスケに熱中してたんだけど。
そこから専門学校に行くことになって……。
那智さん:そうそう。専門学校自体はペットトリマーとか動物園飼育とか動物系全部あって、その中で僕は野生動物保護専攻というところだったの。幼少期の自然との触れ合いがあったから、動物好きだったし。
那智さん:大阪の心斎橋だからめっちゃ都会(笑)。
那智さん:そうなんだよね。けど、勉強してるうちに、猟師さんと一緒に研修する機会があって、猟師さんてカッコイイなと思うようになったことから「マタギ」も調べるようになったんだ。そこで、マタギ文化が残っている小国という地は頭に入って。
ただ、「卒業する2年後にうちに来てくれないか」って言ってくれたNPO法人があって、専門を出たらそこに就職しようと思ってたんだ。それまでにあと1年時間ができたときに、どうしようかなと思っていたら「緑のふるさと協力隊」というのを知ったの。それは1年任期で活動できるからちょうどいいや、田舎好きだし「やろう」と思って。
「緑のふるさと協力隊」になると、地域リストが渡されるのよ。ここから行きたいところを選んで下さいって。そしたら小国があって、「あー知ってる!マタギのとこだ」と気付いて小国に来たの。
なんだか偶然とも運命ともとれる那智君と小国との出会い。
「内定先」まであった彼は、小国に行くことで、すっかりその土地に惚れ込むことになります。
内定先を断って「もう少しこっちでやります」
那智さん:小国にきて2日目くらいに、僕が入ってる猟友会の班長さんにお呼ばれしたんだ。そこで班長さんは熊の手をさばいて「熊食え」と振る舞ってくれて。そういう濃い世界をいきなり見ることができて、カッコイイなってマタギの世界により興味を持ったんだ。
猟友会の会長も同じ班にいて、そんな人たちと触れ合ってるうちに、猟師とかマタギってカッコイイなって本当に感じて。僕も鉄砲の免許をとって…
那智さん:そう、それで免許をとって、実際に猟友会に入って。仲間に入れてもらったら楽しくなったら、帰れなくなっちゃったっていう(笑)。
那智さん:そうそう、もう少しこっちでやりますって言った。
那智さん:猟友会は続けてるよ。
那智さん:でももう趣味だよね。今はもう本当のマタギというのは小国の中でも五味沢という地域にいる1人か2人だけなんだと思う。あとの人は会社に勤めて、休みの日とか限られた狩猟シーズンだけ行ったりとかかな。
那智さん:県内で一番若いのは僕かな。で、もちろん小国でも僕が一番若くて。
那智さん:「緑のふるさと協力隊」の活動って、けっこう農家の手伝いが多くて。農業は別に興味ないわけではなかったし、楽しいなーと。
那智さん:まず、「緑のふるさと協力隊」は給料もらわないのよ。生活費5万だけは支給されて、生活は保証してくれるけど、食費とか遊び代とかはやりくりしてっていう。それで、小国町の農家さんとかの手伝いしたり、イベントがあったらスタッフとして手伝いしたりとか、そういうことをしてたね。
那智さん:「緑のふるさと協力隊」が1年終わったら、残るか残らないかの選択を迫られる。で、僕は「残ります」と伝えた。で、どうやって残るかとなったときに、猟師だったから山が好きだったから林業がしたいって思って。でも、林業って人手が足りてたんだよね。だから断られて。
で、どうしようかなと思っているときに、「緑のふるさと協力隊」のときによくしてもらった人の紹介で、「小国地産ていう農業法人ができるんだ、社員を集めてるからどうか」と声をかけてもらったんだ。
那智さん:そうそう、2年目なの。だから、新しい法人ができるとなったときに、社長と高橋悦人(たかはしえつひと)さんって人がいて、その二人がつくった会社なんだけど。で、彼らと食事して、「僕はこういうことを小国町でやってきて、残ろうと思います」と伝えたら、もうその場で「うちに来な」と言ってくれたの。
内定先を断り、狩猟文化や農業と、小国の色々な世界を見てきた那智さん。
特に、農業法人の立ち上げメンバーとして関わったことは、大きな刺激となったに違いありません。
2年目となったタイミングでの、今回の農業インターンは、そんな彼の目にどう映っていたのでしょうか?
ぶっちゃけ、学生の受け入れはかなり大変。
那智さん:それは社長ともけっこうしゃべってることなんだけど。高齢化が進んでいるけど、今現在は回ってるのよ、小国の農業は。でもあと5年10年すると、今60、70代でやってる人たちは体が動かなくなって引退するわけじゃん。そうなったときに、「農業ってどうなるの?」「どうにかしなきゃ」というので、社長が若い人を雇って、つくった会社がハートランドファームなの。そのときに、若い人を町内で雇うというのはかなり難しいことで、だから、よそからきた学生に農業を体験してもらって、楽しんでもらって、その中の一人でも来てもらえたらいいなという意図はあるよね。
学生をうまく使えば、こっちが楽になるときもあるよね。例えば、田植えの時期とか、学生と上手くやりとりして手伝いに来てくれれば、学生も楽しんでもらえるし、うちも助かるみたいな。
そういうのがこれからの農業のやり方なんだ、とうちの社長はずっと言ってて。
那智さん:いや、かなり大変だよ(笑) 俺、全然寝てないしね。
那智さん:僕は農業が好きなの。普段、ずっと作業していて楽しいなと思う瞬間がすごいあって、やりがいも感じてるし。で、それを伝えられるというのはいいなと。
那智さん:どこでっていうより、リアルなところを伝えてるわけじゃん。それが、楽しい、苦しいって色々彼らは思うわけであるけど、そういうのもいいなーって。それが僕としては、やりがいというか意味のあることだなーと。
寝る間も惜しんで、学生の受け入れに勤しむ日々。
それは「リアルを伝える」という自分なりの使命感があるからこそできること。
そしてその使命感は、小国町と学生の未来をつくっています。
では、那智君自身の今後はどうなっていくのでしょう?
「僕は永住しません」ってずっと言っていたんだけど
那智さん:けっこう重い話になるんだけど、僕は片親なのね、まあ母親なんだけど。将来的には、まず小国に残ると決めたときには、小国で受けた恩を3年くらいかけて返せたらなと。だから、3年残りますって言って残ったんだ。で、そのときからずっと「僕は永住しませんよ」って言ってた。
さっき話した社長と一緒に農業法人つくろうって言ってやってた高橋悦人さんに、僕はすごいお世話になってて、まぁ父親みたいな存在で。
僕も夢があったから、その夢について相談したときには「ここはもう少しこうしたほうがいい」とか、「お前の考え方はダメだよ。それだと上手くいかない」とかそういう厳しい言葉をかけてくれる人だったんだ。
那智さん:そうだね。けど、その人が去年の11月末に交通事故で死んじゃったの、急にね。会社はその人中心に回っていたわけで。そんな人が急に死んじゃって、まぁ会社はばらばらになるわけじゃん。で、僕はその人のことが好きだったから、そのまま会社が消滅していくのは嫌なわけ。その人がつくったものだし。
だから、今は経営とかも上手く回っていないと思うけど、そこを上手く回して、ちょっとでも高橋悦人さんの無念を晴らしたいという想いがあって、永住かなーと。
それで今、むこう(和歌山)から親を連れてこようかなぁとも考えだしたところかな。
よそ者として地域に入り活動する若者が増える中で、その土地に残るか残らないかの決断を下すのは、(精神力も含め)かなり体力のいることです。
そんな中で、「永住」という道を選ぼうとしている那智君には強い覚悟が感じられました。
「彼の無念を晴らしたい」
一生を通じて、そんなふうに自分の人生を捧げたいと思うほど大切な人に出会うことができるかどうかは、奇跡的な確率。
だから、そんな奇跡を掴ませてくれたこの小国町は、那智さんにとって特別な町になっているのでしょう。
※この記事は2019年11月に作成されたものです
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