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第7回「あいちゃんとたくやくん」
「あいちゃん、休憩中?」
「あ、しもむーさん! 新作スイーツでちょっとパワー充電中です」
「コンビニスイーツ?」
「もっちろんです!」
「案外おいしいのよね、コンビニの和スイーツ」
「さっすが、しもむーさん。わかってるぅ~」
のんびりとしたスイーツ談義が交わされている編集部の午後。
月刊誌の編集部には、
激務と激務の間に、こうしたゆる~い時間が流れることもある。
たま~に、ではあるけど。滅多にはないんだけれど。
「ま~た、ジャンクなスイーツか。
食べもの通信の編集部にいるって自覚、皆無だな」
と、会話に乱入してきたのは、ライターのたくやくんだ。
「いいじゃない。好きなもの食べて、なにが悪いのよ?」
「あのなぁ、食べもの通信は、心と体と社会の健康を高める
っていうコンセプトを掲げてんだぞ。
ジャンクフード食ってていいわけないだろう?」
さすが、自ら売り込んで我が編集部のライターになっただけのことはある。
コンセプトもしっかりばっちり頭に入ってるたくやくんである。
しかもこの男、大学の卒論テーマが
「食の安全性と都市伝説」だったというのだから、筋金入りなのである。
まあ、一方のあいちゃんも
かなり筋金入りのジャンクフード・マニア。
「食の安全性? それってオイシイの?」
というタイプである。
そんなあいちゃんがどうして我が編集部にいるのか、正直、疑問ではある。
まさに水と油のあいちゃんとたくやくん。
ふたりの口ゲンカは、もはや編集部の日常的光景だ。
周囲も微笑ましく見守っている。
が、あまりにうるさいと、しもむーが鬼変することがあるので、
要注意だったりもする。
これが、ラノベならば、最初はいがみ合っているふたりの間に
恋のひとつも生まれるのがセオリーってものだが、
あいにくこの物語は、とある編集部の日常である。
その手のエモい展開は皆無だと、今のうちに断っておこう。
だから、期待しないでね♡
「ジャンク大好きなバカ舌には、
ひろこさんの手作りスイーツはもったいないな。
ってことで、これはオレがひとり占め…と」
ひろこさんが休憩用にと出してくれたのは、
今が旬のいちごのカップケーキ。
見た目もキュートで大優勝な逸品だ。
「ちょ、ちょっと待ったー!
ひろこさんのスイーツは別腹。
ひとり占めとか許されないからね!」
編集部のブレイクタイムには欠かせない、
ひろこさんの手作りスイーツを巡り、
あいちゃん vs たくやくんの、実に低レベルな争いが勃発した。
まあ、いつものことだ。
「あのふたりって、ライオンズとホークスみたいですね」
珍しく、しもむーが野球ネタをミドル・ボスに振る。
「んー、それは言い過ぎかな。
あのふたりの場合、創設直後のイーグルスと
激弱時代のバファローズってところかな」
おーい、あいちゃん、たくやくん。
ミドル・ボスにディスられてるよー。
と言っても聞く耳なし。
ふたりの争いは、次回に続く…のかもしれない。