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フジテレビの一件から。従来の広告をそろそろ卒業しませんか?

──変わらない本質と、変わり続けるルールを操る新時代のマーケティング

2025年1月。タレントの中居正広さんに関する女性トラブル報道をめぐって、フジテレビの対応に不満を抱く企業がCMの差し替えを実行。「対応を変更するつもりはない」という姿勢を打ち出す企業も少なくなく、はたから見ると「テレビって、まだそんなに絶対的なの?」と思う方も多いでしょう。実際、広告出稿を減らしている企業も増加の一途。でもフジテレビの会見視聴率は高く、SNSでの話題もテレビ発のネタが大半…。なんとも矛盾を感じる構図になっています。

こうした話を聞くにつけ、私は毎回「そろそろ従来型の広告モデル、卒業しましょうよ」と言いたくなります。何も“テレビオワコン”だとか“ネット広告こそ絶対”といった二極論を振りかざしたいわけではありません。むしろ大切なのは、「媒体の常識が絶えず変わり続ける世界で、マーケティングの本質(WHO/WHAT/HOW)をどう再構築するか」という視点ではないでしょうか。「昔からの定番手段だから安心」という時代は、残念ながらもう完全に終わりつつあるのです。


1. テレビCMは“まだ強い”けど“危うい”

高視聴率を叩き出す一方、企業リスクも増大

フジテレビの会見が高い視聴率を記録し、SNSがテレビ発の情報で盛り上がるのを見ると、「やっぱりテレビってまだ強大なんだなあ」と再認識します。実際、何か社会的事件や話題の番組があれば多くの人がそれを見て、SNSで二次拡散するという構図は未だ健在です。政治やスポーツのニュースはとりあえずテレビが大元だし、バラエティで紹介された料理がネットで検索されるなどなど、テレビが話題の種をばらまく力は根強い。

ところが、今回のようにタレントや局の対応に疑義が生じると、スポンサーが一気にCM差し替えを行い、出稿を渋る事態に発展する。一歩間違えれば「そこに広告を出している企業は大丈夫?」とSNSで炎上しかねません。まるで強靭な筋肉を誇る大巨人だけど足元はグラついている、みたいな状況です。

「テレビCMが全く役に立たない」というわけではないが、急に崩れる可能性がある。そんなテレビのリスクをどう扱うかが、いま広告主の頭を悩ませています。


2. “テレビ離れ”が加速する若年層と、SNS全振りで成果を上げる企業

加えて、若年層へのリーチがテレビでは難しくなっています。ある大手企業がテレビCMを完全になくしてSNSのショート動画に全振りし、結果的に「ドラッグストア買う前にTikTokで検索される」という行動を誘発して売上を上げたという事例は、かなり象徴的です。

  • SNSで動画を流す

  • インフルエンサーが商品を紹介する

  • 消費者は気になって即検索 or ショート動画の“関連”を見て購入

この流れがうまくハマれば、テレビみたいに長尺CMを打たなくてもブランドが育つかもしれません。すると「テレビにかける数千万円より、SNSに回したほうが安くて効果的じゃない?」という考え方が企業内部でどんどん強まるわけです。特に「テレビ見ない層(10~20代)」を狙うなら、テレビCMはそもそも無意味じゃないかと。


3. 結局、テレビは捨てられない。けれど、テレビだけにも頼れない。

ここまでの話だと、テレビはいよいよ危ういぞという空気を醸し出してしまいますが、「だからテレビ要らない」と単純化するのは危険です。なぜなら前述のとおり、社会全体に話題を広める力は未だにテレビが強大。ある商品を“国民的アイテム”に押し上げたいとき、SNSだけで全国民の意識を揺さぶるのは難しい局面もあります。

つまり「テレビを切り捨てる」のも「テレビ一筋でOK」も、どっちも極端すぎる。テレビCMを選択肢として保ちながら、リスクやコストをどうやって最小化しつつ、必要な恩恵を得るかが今後の焦点になると思います。

ここで私は、「従来の広告モデルを卒業しよう」と提案したいのです。テレビかSNSか二択ではなく、“どちらも使いつつ、本質的なターゲット(WHO)・商品の価値(WHAT)・伝え方(HOW)の組み合わせを、常に再考する”視点こそ必要でしょう。使い分けの柔軟性、リスク管理の仕組み、クリエイティブな発想、このあたりをアップデートしないと、結局どこかで躓くのが目に見えています。


4. 不変の本質は“WHO/WHAT/HOW/WHERE”だが、ルールは激変中

マーケティングの基本フレームとして、「誰に」「何を」「どう伝えるか」「どの媒体を使うか」という要素は不変です。たとえテレビCMの存在感が揺らいでも、SNSが主流になっても、そこは変わりません。

  • WHO:ターゲットは誰か?

  • WHAT:どんな価値・商品サービスを提供するのか?

  • HOW:どのように訴求するのか、クリエイティブやメッセージ設計は?

  • WHERE:どこで伝えるのか、テレビかSNSか、あるいはリテールメディアか?

テレビCMが広く使われてきたのは、「大量にリーチを取りやすい」というメリットが大きかったからこそです。マスに向けて一気に情報を投げるにはテレビが最適で、費用は高いものの、「まずは認知をとにかく広げたい」局面では効果的だったわけです。一方で、若年層のテレビ離れが進み、SNSやショート動画を使いこなす企業が台頭してくると、単に“テレビCMだけ投下すればOK”という手法が通用しなくなっています。

では、「広告を打たなければモノが売れない」状態をいつまでも続けるのが正解なのかというと、そうでもありません。本質的には、顧客が『あのブランドを使いたい』『あの商品を買いたい』と自発的に選んでくれる状態を目指すのが理想だからです。もし指名検索(ブランド名や商品名)で探してくれる人が増えれば、無理にテレビCMを大量投下しなくても売上は上がるようになるかもしれません。
しかし、ルールや環境は常に変わっています。テレビでの炎上リスク、タレント不祥事リスク、SNSでのアルゴリズム変化、AIの台頭。

例えるなら、ファッションショーを企画するデザイナーが「誰に着せるか(WHO)」「どんな服を作るか(WHAT)」「どう見せるか(HOW)」「どこで開催するか(WHERE)」を考えるのは不変です。でも、会場ルールや観客の流行、モデルのスキャンダルなどが年々変わるため、毎回対応を変えないといけません。しかも同じ服を着せるモデルが不祥事を起こせば、ショー全体が台無しになるかもしれない。広告の世界もこれと同じで、環境変化に応じて柔軟にプランを作る必要があるでしょう。


5. “広告を打たなくても売れる”状態を狙う発想

ここで一歩踏み込んで考えると、「広告を打たないで済む状態」とは、顧客が自発的に商品を探し、指名買いする状態だとも言えます。テレビCMに限らず、むやみに広告費をかけなくても多くのファンが存在して「見つけてもらえる」なら、企業は大きなコストを負わずに済むわけです。

これを現実にしたいなら、従来の“いくらでも広告費をぶっ込めば売れるでしょう”路線を捨て、ブランド力と顧客ロイヤリティをしっかり育むマーケティングが不可欠になります。テレビCMもその一手段にすぎず、デジタルやSNSと連動して「ブランドの世界観を統一し、指名検索を増やす」施策をコツコツ積み上げるべきでしょう。そうすれば、重大な問題が起きてテレビ出稿を止めても、売上の土台が揺るがないブランド体質を作ることができます。


6. メディアが増える→複雑になる→AIなどの力が必要

一方、メディアは増え続け、テレビCMのリスク管理やSNSでの運用、CTV広告、リテールメディアでのターゲティングなど、やらなきゃいけないことは雪だるま式に膨れ上がります。マーケ担当者は年々人数が減っているケースも多く、「こんなに複雑で広範囲の仕事を人間だけでコントロールできるのか…」と頭を抱えることもあるでしょう。

ここで登場するのが、AIなどの新技術です。AIがメディア別の効果やリスクをデータで解析し、「このターゲットにはテレビCMの枠を削り、SNS動画を増やしては?」「この商品の購買は店舗で多いからリテールメディアを強化すべき」という提案を出してくれる。企業はその情報を基に予算配分やクリエイティブ変更を決め、施策を高速で回す。そんな運用型の世界観を構築すれば、テレビCMの問題リスクが顕在化しても柔軟に対応できますし、若年層向けにはSNSを主軸にリーチを狙うなど、臨機応変に施策を変えられるでしょう。


7. 従来の広告モデル卒業=「メインはテレビ、他は流用」じゃない

多くの企業はテレビCMをメインに制作し、その映像をYouTubeやTVer、さらにはSNS広告に流用してきました。しかし、若年層を中心にSNSやショート動画が日常化するなか、短尺フォーマットや縦型動画、あるいはインフルエンサーコラボがメインストリーム化しつつあります。
**すでに「テレビCMを撤退してSNS全振りにした結果、売上を上げた」**という企業が出てきた事実は、企業の思考を変えつつあるでしょう。むしろ、まずはデジタル・SNS向けのクリエイティブを作り込み、そこから必要に応じてテレビ向け30秒CMを展開する“逆転の発想”も増えてくるのではないでしょうか。

  • テレビCM用の映像=ゴールではない
    ショート動画やライブ配信、縦長フォーマットなど、各メディアに合わせたクリエイティブを最初から複数用意するのが当たり前になれば、テレビ向けは「そのうちの1パターン」という扱いになります。

  • ターゲット別にクリエイティブを細分化
    若年層、ファミリー層、中高年層、それぞれに最適化した映像を作り、どの媒体に出すかは後から調整する。テレビCMも“ファミリー層が多く見る番組枠だけ”や、“高視聴率が期待される特番だけ”など、必要最低限に投下しながら他のメディアを並行活用するイメージ。


ノバセルのスタンス:広告を使わなくても売れるブランドを一緒につくる

最後に、私が率いる「ノバセル」のスタンスを少しだけ紹介させてください。
ノバセルは、“従来の広告モデルを卒業する”ためのパートナーを自任しています。あらゆるソリューション(戦略策定、クリエイティブ制作、分析、人材派遣、AI活用など)をワンストップで提供しながら、企業が目指す「指名検索が伸びて、やがて広告がなくても売れるブランド」づくりをサポートします。例えば、「とにかく広告費をどんどん使ってテレビCMを売り上げに直結させる」といった今までの代理店モデルではなく、長期的には“広告ゼロでも勝手に売れていく”くらいのブランド力を高める発想が根底にあるのです。

ノバセルとしては、テレビCMにおいても、いきなり「はい、もうやめましょう」ではなく、効果を見ながら必要な箇所だけ出稿するとか、同時にSNSや獲得型広告の量やクリエイティブを調整し、大量の複雑性をマネジメント仕切って“全体最適”を図るような運用を推奨しています。今回のような炎上リスクがあるならすぐに差し替えや別媒体へ移行できるような体制を作り、柔軟性とコスト効率を両立するわけです。そこで得られた成果を分析し、ブランド力を根本から強くしていけば、いずれ「広告に頼らなくても指名が集まる」環境が整う。それこそが私たちの目指すゴールなのです。


結論:古い広告モデルを卒業して、多様な媒体を使い分け、リスクとコストを最小化しよう

フジテレビの対応に不満を抱いた企業がCMを差し替えたように、テレビCMへの依存度は着実に下がりつつあります。しかし、だからといってテレビをゼロにするのも極端すぎる。一方、炎上リスクや若年層へのリーチ問題を考慮せず「テレビ中心主義」で走り続けるのも危うい。
大事なのは、メディアが多様化し、若年層の行動様式が変わり、タレントや局のリスクが増す中で、あらゆる状況に対応できる体制を作ることです。SNSやデジタル広告、CTV、リテールメディアなども含めて“どこで、誰に、何を伝えたいか”を再点検し、テレビをただのデフォルト手段にせず、必要に応じて部分的・運用的に取り入れる発想に切り替えましょう。
そして、その複雑性を克服するためにはAIなどの新技術が欠かせません。過去の大量出稿や流用クリエイティブをやめ、新しい方法でターゲットごとに施策を作るのは大変ですが、AIを活用して意思決定をサポートすることで、クリエイティブの大量生成・効果測定・施策変更を素早く実行できるようになります。

「従来の広告を卒業」とは、単にテレビ離れすることではなく、「とにかく広告費をぶち込めばなんとかなる」という発想を卒業することです。テレビCMに適度に投資しつつ、他の媒体もマルチに使い、複雑性をAIでマネジしながらブランドを強くしていく。これを実現すれば、企業は不祥事リスクにも柔軟に対応できますし、若年層や多様なセグメントへのアプローチにも強くなります。最後は“指名検索で商品が売れる”とか、“ファンが勝手にSNSで発信してくれる”ようなブランドになれば、そもそも広告に頼る必要はないかもしれません。

テレビのパワーは相変わらず強力だけど扱いが面倒、SNSは急激に盛り上がるけど一瞬で流行が変わる、AIは便利だけど使いこなせないと混乱する…そんな複雑な時代にあって、「マーケティングの本質は変わらないが、ルールは常に変わる」現実を受けとめなければなりません。従来の広告モデルを卒業し、自由度の高い新モデルへ移行すること。それこそが、次の時代のマーケティングを切り開くうえでの第一歩ではないでしょうか。

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