畑の中の結婚式【カラモジャ日記 24-10-28】
彼女の順番が来たら、ディアはいつも目を輝かせて話す。周りにいる者を一通り見渡してから、今にも吹き出しそうな顔でテーブルに肘をつき、両手を顔の前で組む。きっとこれから口に出すストーリーを想像し、笑いを堪えているのだ。
「早く話せよ」と隣に座った男が急かすと、ディアは「ストーリー、ストーリー!」と独特のリズムで呟き、何日も前から考えていたであろう物語のタイトルを読み上げた。
「"Wedding in the garden" (畑の中の結婚式) ——これは私が小さかった頃のこと」
* * *
その日もグランマ(祖母)は、わざわざ母や従兄弟たちがディアのそばにいる時を見計らって、彼女に近づいた。「明日、義理の息子のところで"Wedding"だ、ディアも一緒に来ないかい?」
誰かの結婚式に参加したことのなかったディアは、二つ返事でYesと答えた。
ディアの親戚の中で、英語を話すのは彼女とグランマだけだ。小学3年生になるディアには簡単な英語の読み書きができる。そして親族の中で唯一学校に通っているディアは「白人の言葉を話す」と言って、集落の中では魔法使いのように持ち上げられることがあった。
一方のグランマは、彼女がまだ若かった頃、村にやってきた白人の宣教師の世話を引き受けたことがあったそうで、その頃に覚えた簡単な英単語を話すことができた。
だからグランマは、親戚が集まった折にはいつも、白人の言葉を知っていると周囲に見せつけるかのように、わざとらしくディアに向かって英語を交えて話しかけた。「How you day, Dia?」
翌朝、ディアとグランマは他の家族に内緒で家を出た。
「ディアを"Wedding"に連れて行くと言ったら、お前の母さんはそれを許さなかっただろうね。代わりに妹の子守を頼まれたかもしれない。娘に重労働をさせたがらない、今どきの過保護な母親だからね」とグランマは言った。
結婚式よりもよっぽど子守のほうが大変だから、過保護という言い方は間違いだとディアは思った。しかし彼女がそれを口に出すことはなかった。
グランマは二本の鍬を背負いながら、ディアの手を取って山を登った。 二人はサボテンの木をいくつも通り過ぎ、無数のアマランサスやミルクブッシュをかきわけながら、山を登り続けた。
ディアは時々太ももに刺さる棘草に苛立ちながら、グランマに尋ねた。
「こんなところで本当にWeddingがあるの?」
「もう少しで畑だから安心しなさい」とグランマは言った。
「私たちは綺麗な格好をしていないけれど、かまわない?」とディアは尋ねた。
「お前は誰よりも美しいよ、Beautiful! 」とグランマは言った。
二人きりになると、グランマはほとんど英語を話さない。それはグランマの語学レベルが幼稚園児並みであることをディアに知られたくなかったからだ、とディアは気づいていた。
一時間ほど歩いた後、突然、大きな畑が姿を現した。
「広い」とディアは思わず口に出した。一見して三エーカーは下らないようなピーナッツ畑だ。八人ほどの女たちが鍬を握り、歌を歌いながら、一列に並んで草取りに励んでいる。
側にしゃがんでいた一人の男が、ディアたちに気付き、小走りで駆け寄ってきた。
「ようこそ俺の畑へ。おばちゃん、来てくれてありがとう!」
そして、男は私を見て嬉しそうに尋ねた。「お、この娘は?」
「私の孫だよ。ついてきたいと言ってね」とグランマは言った。
「それは助かる。なんてったってこの広さだ。人手は多い方がいい」
ディアは突然、行き場のない不安に襲われた。どこにも光り輝くテントはないし、十字架を首から下げた神父もいない。新郎新婦も、参列する人々も——草取りをする女たちを除いて——どこにも見たらない。
「グランマ、お兄さんの結婚式は?」とディアは尋ねた。
「結婚式だって?まぁ、何を言ってるんだい」とグランマは不思議そうな顔をした。
「私を騙したのね!」とディアは叫んだ。「義理の息子の結婚式に連れて行ってやるというから、私はついて来たのよ!」
グランマはまだ不思議そうな顔で首を傾げている。ディアは悔し涙を流しながら言った。「Weddingよ!Wedding!」
「"Wedding"だったら、みんなやってるじゃないか」とグランマは困ったような顔で、汗と土に塗れた女たちを指さして言った。
「グランマ……あれは Weeding (ウィーディング)よ……」
すべてを悟ったディアは、グランマから一本の鍬を取り上げ、女たちの草取り(ウィーディング)に混じった。「グランマ、二度と私に英語で話しかけないで」と心の中で嘆きながら。
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