詩集:タイトル未定



神様は十七歳

かたく鳴る心臓を

罪のように数えながら 

冷えた炭酸水を飲む

セロファンみたいに薄い胸

泡のようにはじける罰が

かすかな音をたてて

いまくだっていく

37度

夏の午後

薄暗いバスルーム

ヒアシンスのように 

水に浸かり

倦怠感は拭えそうにもない

ユニコーンの卵

冷蔵庫のなかで発光し

ヒスイ色の草原を

息を切らせながら 

走る夢をみる




キスをするならゆずらないと

遠巻きの肩ごしに萌えいづる夏の匂い

石榴のような傷口をそっと開き

滴る蜜を共に吸う

裸の胸にヒアイはこぼれ

果実は暗い血を滲ませる

ふるえる種子から踊りいでる芽は

疲れた無数の肩先を押し分け

見えない不安に向かって手を広げる



祖父は陸軍少尉になり、八か月の戦争に出かけて行った

おれの悲しみは深く、得体がしれなかった

親父のヘルメットは泥にまみれ

指からはすり潰した甲虫の匂いがした

田舎駅の改札口で幼い妹は手すりにぶら下がり

母は母を演じる事をとっくの昔にやめて

兄は姉を追いかけて

群生する草原の中に分け入っていった 


誰かが水が飲みたいと言った  

窓の外を眺めると

円環に区切られた庭の真ん中で 

死んだはずの弟が夏みかんを見上げていた

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