詩集:タイトル未定
1
神様は十七歳
かたく鳴る心臓を
罪のように数えながら
冷えた炭酸水を飲む
セロファンみたいに薄い胸
泡のようにはじける罰が
かすかな音をたてて
いまくだっていく
37度
夏の午後
薄暗いバスルーム
ヒアシンスのように
水に浸かり
倦怠感は拭えそうにもない
ユニコーンの卵
冷蔵庫のなかで発光し
ヒスイ色の草原を
息を切らせながら
走る夢をみる
2
キスをするならゆずらないと
遠巻きの肩ごしに萌えいづる夏の匂い
石榴のような傷口をそっと開き
滴る蜜を共に吸う
裸の胸にヒアイはこぼれ
果実は暗い血を滲ませる
ふるえる種子から踊りいでる芽は
疲れた無数の肩先を押し分け
見えない不安に向かって手を広げる
3
祖父は陸軍少尉になり、八か月の戦争に出かけて行った
おれの悲しみは深く、得体がしれなかった
親父のヘルメットは泥にまみれ
指からはすり潰した甲虫の匂いがした
田舎駅の改札口で幼い妹は手すりにぶら下がり
母は母を演じる事をとっくの昔にやめて
兄は姉を追いかけて
群生する草原の中に分け入っていった
誰かが水が飲みたいと言った
窓の外を眺めると
円環に区切られた庭の真ん中で
死んだはずの弟が夏みかんを見上げていた