金の萌芽としての物語━天羽々幽香『XXX』評
※今回は透明批評会用の投稿記事になります。お時間ある方はぜひとも対象作品もご覧になっていただけると幸いです。
今回批評させていただくのは天羽々幽香さんの短編作品「XXX」です。
ある時、主人公の「私」は人の心が目に見えてしまう事に気がつきます。
そして街の雑踏の中、他の人とは明らかに違う心の形をした「彼女」に出会ってしまう……。
周囲と何かが決定的に違う、どうしても相容れる事のできない自分。そのどこか空虚な部分をぴったりと埋めてくれる、唯一無二な特別な誰か。例え世界が壊れても、二人一緒なら恐れるものは何もない。
普遍的なボーイミーツガール(ガールミーツガール)のストーリーの中に、人の心が可視化できるという、独創的なアイデアが混ざっていきます。
1.コンセプトは魅力十分!
お!と思わせるコンセプトです。
しかしそれだけにまだ序章を読んでいるだけのような感じがしました。これは発想のセンスが優れているだけに、まだそれに比して作品が内包する情報が足りない事が一因だと思います。
ただ、物語自体には既にきちんと魂が入っているとも思いました。定期的にリライトすれば作品は必ずや成長していくはずです。
一体、「私」とはどういう人間か、「彼女」は何者なのか。心が見えるというのは具体的にどういう現象で、現実世界でいうと何に近い感覚なのか、そして心が見えることで今後二人の物語はどう広がっていくのか、読む人も色々期待して知りたいと思うはずです。
2.単純に末恐ろしい
自分が学生の時は小説を書こうなんて頭の片隅にすらなかったので、お世辞抜きに、今の時点でここまで書けるのはすごいな、羨ましいなと思ってしまいます。余韻を残す所まで仕上げるのは普通はできないですし、私もなかなかできませんでした。
それに物語というのは大体において植物のようなもので、創作段階では目に見えて成長してはくれず、毎日手間暇かけて推敲していくうちに知らず知らず育っていくものですね。そして今から書き続けて私の年齢くらいになったら、と思うと。。
まぁ、私と天羽々さん。干支が一周するくらい年が離れていますから(…遠い目)
3.誰が物語を深め、動かすのか?
他にも持ち原稿がたくさんある様子で、私から見れば明らかに順風満帆に見える天羽々さんですが、今回はスキルアップも目論んで批評会に参加されたとの事。
私はとにかく我流、フィーリングで創作をしていて技術的な指摘が上手くできないので、一応、尊敬しているストーリーテラーから聞いた話をそのまま受け売りでお伝えします。
以前、とある映画監督に脚本の事、つまりはストーリー作りで一番大切な事について質問する機会がありました。色々時間が限られている中で、その人がかいつまんで話してくれたのは「とにかくキャラクターが命」という事。
......なんだ、よく聞く話しじゃん。
と、当時は思ってたんですが、年々その奥深さと重要性について実感するようになりました。
推敲を重ねていくと、「あぁもうこれ以上は話が広がらないな」と感じる瞬間がくるんですが、そういう時に登場人物がぐいぐいに前に進めていくときがあります。
色んな捉え方ができると思いますが、例えば3月のライオンやハチクロの羽海野チカさんは脇役含め登場人物一人一人の人生年表までびっちり作り込むらしいです。
特に、天羽々さんの今作品の二人は世界から浮いているようなミステリアス感があります。謎を謎のままで終わらせるのも一つの手ですが、謎を紐解いた結果、さらなる謎が残った方が読後感としては満足です。一体彼らはどんな人生を生きてきて、普段どういう風に生活をし、他者と関わっているのか、もしくは関わらないためにどういう工夫をしているのか。読者に全てを伝える必要は当然ないですが、それが作者の頭の中にあると役立つ……かもしれません。
今回も自分の事は百パーセント棚に上げて書きましたが、作品を通して一番感じたのは、「物語の萌芽」のような物を読んだ。という事です。批評も栄養として取り込んで成長する、そうさせるためにあえて未完成の作品を投稿した、という意図のようなもの。XXXというタイトルも、何にでも姿を変える変数みたいなものかなぁ、と想像してみたり。。
そして終わりに。
天羽々さんの一番の強みは繊細な心です。
(実は私にも人の心が見えます…(爆))
それは私みたいに面の皮が厚くなってふてぶてしくなってしまった人間より傷つきやすく、落ち込みやすい事もあるかもしれませんが、その分感受する量も桁違い。今書けるものは五年後、十年後は絶対書けないですし、今目の前で動いているものは明日になれば消えてなくなってしまうかもしれません。ぜひとも、今感じる事を一言一句漏らさず書き、今後も作品に昇華させてください。
成田 拝