【再掲】青い毛布(5/12)
それから夕方になって、二人は一緒に潜り込んでいた毛布からのそのそと抜け出すと、床に落ちている衣服を身に着けて、玄関の鉄の扉を押して外に出る。
信吾は家の鍵を閉めるときに、そういえば高校二年の時、結衣子のあられもない姿がアダルトサイトに投稿されているという噂が立った事をふと思い出す。
あの時、その証拠になるようなものを見たという人間が一人も見つからないまま、その噂は学校中に広がり、いつの間にか教師達が躍起になって騒ぎを鎮めなければいけない程の騒動になった。
肝心の結衣子はその事にどこ吹く風といった態度を貫き通していたが、信吾は誰かがその話をしているのを耳にする度に、体が震えるくらいの怒りを覚えた。
そして自転車で風を切りながら、信吾は不快な記憶を打ち消すかのようにペダルに力を込め、それでも落ち着かない気持ちを諌めるように下唇を噛んだ。
その後ろで結衣子はどこかで聞いたことのあるような歌のメロディーを口ずさんでいて、信吾の背中に人差し指でぐるぐると文字のようなものをなぞっている。
「…ねぇ、何食べたい?」
信吾が後ろを振り向いて話しかけると、結衣子が大きな声で聞き返してくる。
「えぇ?風のせいでよく聞こえないよ?」
「ご飯は何が食べたいかって聞いたの」
「駅前にはどんなお店があったっけ?」
「えーと、ファミレスとかラーメン屋とか、最近インド料理屋とかもできた」
「うーん…、他には?」
「あと、お好み焼き屋もあったな、もんじゃ焼きとかも食べれるらしいよ」
「あ、私もんじゃ焼き好きだな!」
「よかった、じゃあ、そこにしようか」
夕暮れ時に差し掛かって、昼間の明るみは空の隅へと徐々に移動していく。一番星が空の中心で白々と輝き、そして町中の街灯が今、一斉に点き始めている。