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青い毛布

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生きているうちの中で最も感情が揺れるその瞬間 その一瞬を、小説と言う器の中に閉じ込めて永遠にしました。
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2020年5月の記事一覧

【再掲】青い毛布(9/12)

【再掲】青い毛布(9/12)

それから最終電車の時間が近づいて、二人は燃え尽きた花火をかき集めて、ビニール袋の中に入れると、無言のまま歩いて駅まで向かった。
信吾が先を歩いて、結衣子はその少し後ろをついてゆく。

「でも、一番まずいのはさ…」

駅の前まで来たところで信吾がふいに口を開いた。

「オレも結衣子のことが、好きだって事なんだ」

それを聞くと結衣子は辛そうに俯いて、地面を見つめながら呟く。

「…うん。知ってたよ」

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【再掲】青い毛布(最終話)

【再掲】青い毛布(最終話)

そして結衣子が目を覚ました。
 
気づいたら、夫が車を運転している隣で、すっかり眠ってしまっていた。

夫は、カーステレオのボリュームを最小限に絞って、音楽か何かを聴きながら黙々とハンドルを握っている。

……一体どこまで来てしまったんだろう。

眠気の残った頭で結衣子はそう思っていた。

車の外では、深夜の闇の中に、暖色の外灯が等間隔に現れては消えていって、それは窓ガラスについた細かい傷や埃のせ

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【再掲】青い毛布(11/12)

【再掲】青い毛布(11/12)

「……ねぇ信吾。月ってさ、どうやって生まれたか聞いたことある?」

浅い眠りの中でまどろんでいると、沙希が急に耳元でそう囁いた。
信吾がうっすら目を開けて「……月?」と聞き返すと、沙希は続きを話し始める。

「……地球って最初はね、今よりもずっと大きかったらしいんだけど、ある時大きな隕石が来てね、地球のものすごいたくさんの部分を抉り取って、そのまま周囲にばらばらになって散らばったんだって。 

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【再掲】青い毛布(10/12)

【再掲】青い毛布(10/12)

結衣子は出発の時刻が近づいても、最終電車に乗れないままホームに立ち尽くしていた。

このまま乗らずにいれば、この夜が永遠に終わらずに続いて、ずっと信吾の傍に入れるような気さえしていた。

鞄の中で携帯電話が鳴っているのに気が付いて取り出すと、どういうつもりなのか浅野先生からで、通話ボタンを押して耳に当てると、電話の向こうで憔悴しきった声が聞こえてきた。

「……結衣子?ずっと掛けてるのに何で出ない

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【再掲】青い毛布(8/12)

【再掲】青い毛布(8/12)

コンビニで花火とライターを買って、そこからまた駅の近くの公園に向かうと、誰もいないせいなのか、昼間に比べると奇妙なくらいに広々と感じられる夜の空間がそこにあった。

静まり返った公園の暗闇の中で、ブランコの近くに植えられている紫陽花だけが際立って、夜風に吹かれて淡くゆらゆらと揺れているのが見える。

時計台を少し離れた滑り台の近くで、ビニール袋から取り出した花火セットの封を開けて、取り出したひとつ

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【再掲】青い毛布(7/12)

【再掲】青い毛布(7/12)

お好み焼き屋の前に自転車を停めたまま、店を出たその足で、暑かったという事もあり、サーティーワンでアイスクリームを買った。

その後、すっかり暗くなった夜道を二人で当てもなくぶらぶらと歩く。

結衣子は信吾にしきりに、ねぇ、私の顔、赤くない?と聞いている。結衣子の頬はお酒が回って確かに少し赤かったけど、大丈夫、あんまり気にならないよ、と信吾は答えた。

 一緒に歩いているうちに、結衣子との距離がまた

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