「アンタは優柔不断なんだから!」 (いやいや、お宅のお子さん「白が欲しい」って言ってますけど・・・)
ごくごく一般的な洋服屋にて。
私が長袖のTシャツをみていると、
向こう側から女性の声がする。
「あ、こっちこっち! ヨットパーカーあったわよ。」
子どもを呼んでいるようだった。
私の目の前には、長袖Tシャツが目の高さと腰の高さと上下2段にかかっていて、向こう側の様子は見えない。
(向こう側はヨットパーカーなんだ)
そう思いながら、引き続きTシャツを選ぶ。
「何色が欲しいの?」
お母さんらしき人の声。
「白!」
母親と買い物に来たのだろうか、元気な男の子の声。
小学校の3年か4年くらいかな。
私からは見えない。
「白はダメよ。アンタすぐ汚すから。」
「白以外で。 さ、欲しい色は? 何色がいいの?」
「・・・・・」
こどもは無言だ。
「緑? 青? あら迷彩柄もあるわよ」
「・・・・・」
「なに黙ってるの? あなたがヨットパーカー欲しいっていうから来たんじゃない。明日もパートなのよ。またいつ来れるかわからないの。今日決めて買いましょう。緑?青?どれにする?」
母親らしき人の声が、せきたてる。
(あー、私もよくやってたな・・・・)
聞きながら私の胸が痛んだ。こどもの気持ちがわかって悲しくなった。
大人って 子どもが言ったことに対して、
それは汚れるからダメ。
それは小さくてなくしちゃうんじゃないの?
それは使いにくいわよ。
似たようなの持ってたでしょ?
いちいち気持ちを折るようなことを言ってしまう。
良かれと思って、アドバイスのつもりなのだけど、
言われた方は、否定されたと思う。
子どもが優柔不断なのではない。
子どもの意見を、とっさに否定しちゃうから、子どもは言いたくなくなる。
白が欲しい、と決めてるけど、
それを言うと怒られる。だから言えない。
けして優柔不断なのではない・・・。
これが続くと、
(どうせ、僕の言った意見は否定される)
そう思って、言わなくなっていく。
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娘が通っていた高校では、
学校見学した際、校長先生がこんなことを言っていた。
「本日、学校見学にいらした親御さん方にお願いがあります。中学生のこどもたちの意見をよく聞いてあげてください。(この高校がいいわよ)(あなたにはこの学校が合ってる)などと、こどもを誘導してしまう方が多く、あとになって、もめる親子がいます。」と。
「受験して学校に通うのは子どもたち本人です。親御さんが通うのではありません。どうぞそのあたりをよく話し合って決めてください。」と。
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冒頭に書いたヨットパーカーの親子。私にはこの逆の経験もある。
前にも書いたシンガポール駐在の話。
現地に向かうために、ひとり1つずつスーツケースが必要になった。
夫はもう先に赴任しているので、
子どもたち2人と私で買いに出かけた。
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スーツケース売り場で、
「どれにする?何色がいい?」
と聞く私。
売り場をぐるっと見てから、
こどもたちは、即座に決めてきた。
「黄色ー!!」
その時、小学6年の息子が言う。
「私は、このミッキーマウスがいっぱいついてるのにする!」
小学4年の娘が言う。
ふたりとも躊躇なく、にっこにこ(^▽^)!
次の瞬間、私は言ってた。
「え、黄色??汚れるよー。スーツケースは外移動したり乱暴に扱われたりするかもしれないから、もっと汚れが目立たない色にしようよ」
息子の顔が曇った。
娘にも、即座に言ってた私。
「ミッキー柄なんて高いんじゃないの?普通のにしようよ。無地のやつ」
(今でこそ柄物も多いが15年前。柄のスーツケースはミッキーだけだった)
娘の顔も曇った。
ハッとした。
(こどもたちは素直に自分の欲しいものを言ったんだ。なのに私、今、否定しちゃった・・・。通ってる学校をやめて、友達と別れて、見ず知らずの国に親と一緒に行く選択をしてくれた子どもたち。2人の意見をそのまま受け取ろう)
そう思って、
「ごめん、ごめん!母さん、今、よけいなこと言ったね。」
そう子どもたちに謝った。そして一人ひとりの顔を見て、
「黄色が欲しいんだね。うん、わかった。この黄色のスーツケースを買いましょう」
「ミッキーのスーツケースが欲しいんだね。うん、わかったよ。これを買いましょう」
黄色と、ミッキー柄、そしてオーソドックスな汚れてもわからないダークグレーのスーツケース(これは自分の)、3つを購入してガラガラ引きながら帰った。
(そうそう! レジに行ったら、「ミッキーのスーツケースは現在セール中です」と言われ、黄色よりも安く購入することができた。)
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それから、数年。
2人のスーツケースは、とても目立ち、空港で荷物を受け取る時も、
まっさきに目についた。遠くからでもすぐわかり、間違えることがなかった。
それに比べて、汚れが目立たないようにとグレーを買った私のものは似たものが多く、近くまで行って、ネームを確認したり、
ほかのスーツケースと並べられてしまうと、またどれが自分のかわからなくなってしまう、、、という有り様だった。
そして息子も娘も、その自分で選んだスーツケースをずっとずっと使っていた。愛着をもっていることがよーくわかった。
中学、高校の修学旅行にも使い、息子にいたっては社会人になって、一人暮らし始める時も、その黄色のスーツケースに荷物をつめて、自分で借りたアパートに引っ越していった。
ミッキーのスーツケースはその後、私も貸してもらうことが多かった。
空港のターンテーブルに出てきた時、遠くからでもすぐわかる柄。間違われず、とても便利だった。「そのスーツケースかわいい~」と言われると、私まで嬉しくなった。そして「娘のなの。借りてきたちゃった」と話すことも多かった。
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